第27話 悪夢
こんにちは、味噌ラー油です。
小説初投稿&初連載です。
未熟な文章ですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
《前回までのあらすじ》
襲撃を受けた”風の森の隠れ里”を、マラキアと共に後にしたソフィアたち。へーミシュを救うためには、彼の夢に入って、夢の中から”起こす”ことが必要だと、マラキアは告げた。ソフィアは魔法を唱え、へーミシュの夢——心の奥底に閉じ込めていた”過去の記憶”に入る。そこでソフィアの前に現れた人物とは——。
※表現力が未熟すぎるので、内容を更新することがあるかもしれません。ご了承ください(汗)。
「母さん」
へーミシュの声に顔を上げると、そこにいたのは、紫水晶のような瞳の、儚げな女性だった。
(この人が、へーミシュのお母さん……?)
「へーミシュ、その方は……?」
女性がへーミシュにたずねた。花弁のように柔らかな、しかしすぐに空気に溶けてなくなってしまいそうな声だった。
「ああ、ソフィアっていうんだって。なんか、ここで寝てて、起こしたら、いきなり苦しみ出して……」
へーミシュがそう説明すると、女性は「まあ、大変……! すぐに城の中へ……!」と言ってソフィアに近づいた。
「い、いえ……私は大丈夫です……」
ソフィアはそう言ってなんとか体を起こし、たずねた。
「イリスさん、ですか……?」
見上げながらそうたずねると、少女であった頃の面影を残した女性は、微かに驚いた表情を浮かべた。
「そうですが……いったいなぜ私の名を……?」
そう言って、へーミシュの母、イリスは、不思議そうに首を傾げた。
「この人、俺の名前も知ってたんだよ。母さんもこの人のこと知らないのか?」
へーミシュが言った。
「確かに知らないわ……でも、なんだかとても懐かしい気がする……」
そう言って、イリスはほほえんだ。雨上がりの空に、ぱぁっと虹がかかったようだった。
(イリス……どこかで聞いたことがある名前……)
ソフィアの脳裏を、何かがよぎった。
『とっても優しくて、温かい、私のたった一人の親友——ああ、また会いたいわ、イリス』
ひんやりとした風が、大地を駆け抜けていった月夜に、母は窓辺でそう呟いていた。
(イリスさんって、もしかして——)
「母さん、この人どーすんだ?」
へーミシュがソフィアを指差して言った。
「もう、へーミシュったら。人を指差したりしないの」
へーミシュの頭を撫でながら、イリスが笑った。ヘーミシュは少し不満そうに頬を膨らませている。
「そうね。とりあえずは、誰かを呼んできましょうか。また具合が悪くなられても大変だわ」
イリスがそう言って、「少しお待ちになってね」と言って城の方に向かおうとした。
大きな羽が羽ばたく音が聞こえて振り返った。見ると、太陽の光が差さないはずの境界の空から、純白の翼と金色の髪を持つ、青い瞳の天使が、光を纏いながら降り立っていた。その腰には、見覚えのある黄金色の剣が下がっている。
(……ミカエル、さん……!?)
「……相変わらず強力な魔力だな、”破壊の巫女”、イリス。そなたの場所を見つけるのが、これほど簡単だとは思わなかったぞ」
ミカエルは表情ひとつ変えずに、振り返ったイリスに向かって言った。
「なぜそのことを……! あなたは一体……!?」
イリスはひどく動揺しているように見えた。だが、すぐにへーミシュの元に駆け付けて、へーミシュを引き寄せた。ミカエルは剣を地面に突き刺して言った。
「私は、”天使の長”ミカエル。ただ一人でこの世を統べられるお方、イニティウム様の僕だ」
イニティウムという名前を聞いた瞬間、イリスがびくりと肩を震わせた。それを見たミカエルの冷酷な瞳が、一層冷たい光を宿す。まるで、嵐が来る前に束の間晴れた空のようだった。
(ミカエルさんが、どうしてここに……そ、それに”破壊の巫女”、って……どういうこと? イリスさんって一体……)
次々に浮かんでは消えていく疑問。しかし、その疑問に構っている場合ではない。悪魔の城に天使が、それも、ミカエルほどの天使が来るなど、異常事態だ。状況を伺っていると、ミカエルは信じられない言葉を発した。
「反逆者イリスよ、イニティウム様のご命令だ。そやつの命を差し出せ」
ミカエルの言葉は、まるで死を宣告するかのように、あたりに響いた。イリスの表情が凍りつく。そんな様子を見ても、ミカエルはただ淡々と独り言のようにつぶやいた。
「……まさか、カリタスに隠し子がいたとはな……だが、イニティウム様に反逆するのも、ここまでだ」
「そんな……どうして……! ……この子が何をしたって言うんですか!」
イリスが必死に訴えた。
「ふん、貴様がどう足掻いても、そやつが反逆者の息子であることに変わりはない。呪われた悪魔と人間の子など、イニティウム様に反逆するも同じ。この”天使の長”、そのような事態を見逃しはしない。たとえそれが子供であってもだ」
イリスがへーミシュを自分の後ろに隠した。しかしミカエルは、イリスの後ろで怯えている赤い瞳を睨みつけると、剣を構えた。
「……わかりました」
イリスが静かに言った。
「あなた方がそのつもりなら、たとえあなた方が相手でも、私は身を挺してこの子を守ります」
イリスの表情からは、それまで湛えていた少女のような儚さが消えていた。そこにあったのは、子を守ろうとする母親の、強い覚悟だった。
「母さん!?」
へーミシュの声に応えることなく、イリスは両手で魔法陣を構築した。彼女の瞳と同じ紫色の光が、その黒い髪を照らし出す。ミカエルはそれを見て目を細め、眉間に皺を寄せた。
「……もう良い。これ以上、イニティウム様に反逆するのを、許すわけにはいかない」
ミカエルが剣を振りかざし、勢いよく距離を詰めた。
【絶無】
イリスが魔法を唱えた。紫色の光が魔法陣から放たれ、ぎりぎりで避けたミカエルのすぐ横を掠る。光はそのまま直進し、城壁にぶつかると、光が当たった部分だけが、まるで元から存在していなかったように、消えた。
(あれは、イリスさんの能力……?)
しかし、ミカエルはその攻撃に驚くこともなく、さらにイリスに接近した。
「見事な能力だ、”破壊の巫女”よ。だが、”いと高き所の神々”より与えられし力など、恐るるに足らぬ……!」
ミカエルはそう言うと、左手に構築した魔法陣から光を放った。目が眩むほど凄まじい威力の光は、イリスをいとも簡単に城壁へと叩きつけた。
「うっ……!」
イリスが小さく声を上げた。
「母さん!」
へーミシュがイリスに駆け寄ろうとしたその時、「動くな、小僧!」と言う怒号が聞こえた。へーミシュが、声の主であるミカエルを睨み返す。ミカエルは、へーミシュに剣を突きつけ、冬の晴れた空のように冷たい瞳でへーミシュを見下ろしている。
「せいぜい苦しまぬように葬ってやろうと思っていたが……貴様に選択肢をやろう。貴様だけ死ぬか、反逆者である母親もろとも死ぬかだ」
「……っ! そんな……」
イリスが痛みを堪えながら声を上げた。しかしミカエルはなおも続けた。
「貴様が自らのみの死を選ぶならば、その心に免じて母親だけは見逃そう。ただし、少しでも逆らえば、この城にいるものは全て皆殺しだ」
「んな取引、魔物でも引き受けねえよ……!」
そう言ってへーミシュが俯いた。
「さあ、選べ! 貴様のみか、それとも母親を道連れにするか!」
ミカエルが声を張り上げた。
「……母さんが」
へーミシュが小さな声でつぶやいた。
「……母さんが生きててくれるなら、俺は死んだって構わない」
「……へーミシュ!」
イリスが叫んだ。名を呼ばれて、へーミシュがイリスの方を振り返る。
へーミシュの赤い瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「そんな……へーミシュはまだ子供なのに。寂しがりやで甘えん坊で、でも優しくて……まだまだこれからいろんなことが待っているのに……そんなの……」
イリスの嗚咽がこだましている。
「……ふん、いい覚悟だ、小僧。貴様の死をもって、貴様の母親を赦そう。神に反逆したその罪を、邪神蔓延る冥界で償うがいい!」
ミカエルの剣がへーミシュに迫った。
「——やめて!」
肉が切り裂かれる鋭い音と共に、血飛沫が飛び散った。美しい黒髪が赤く染まる。
「……母、さん……?」
へーミシュの声に、ソフィアははっとした。今見た光景を、信じることができなかった。ソフィアの視線の先には、ミカエルの持つ血濡れた剣と、へーミシュを抱きしめているイリスの姿があった。彼女の背中には、深い傷が刻まれていた。
「…………ヘーミ、シュ……」
イリスはへーミシュの頭を愛おしそうに撫でた。
「……どうか、生き、て——」
イリスがへーミシュを抱きしめたままつぶやいた言葉。それが、ソフィアにははっきりと聞こえた。
「——ごめん、ね」
ソフィアは悟った。へーミシュが、最後の最後まで心の奥底に閉じ込めていたもの。それは、イリスが亡くなる時の記憶なのだと。
イリスはへーミシュをそっと離すと、地面に倒れた。霞んで見える世界の中で、その様子が、まるでゆっくりと時間が流れているように、鮮明に脳裏に焼きついた。
「……ちっ、馬鹿なことを」
ミカエルが憎々しげにつぶやいた。
「母さん!? ……母さん!!」
へーミシュが倒れたイリスに近づき、揺さぶった。しかしその体は、力なくぐらぐらと揺れるだけだ。
「無駄だ。この聖なる剣光芒は、イニティウム様に逆らったものを殲滅するために作られたもの。この剣に斬られたからには、反逆者である貴様の母親は助からん」
ミカエルは何事もなかったかのように剣を構え直した。
「……母さんを反逆者呼ばわりしやがって、貴様……」
へーミシュがゆらりと立ち上がった。
「よくも母さんを——!」
へーミシュの体から、どす黒い闇が湧き上がる。小さなへーミシュに、これほどの力があったとは。思わず思考停止しそうになった。
「ふん、小僧、そんなに母親に会いたいか——それなら、貴様も今すぐ、母親のところへと送ってやる!」
ミカエルが再び剣を振りかざした。鋭い刃がへーミシュめがけて振り下ろされる。
「へーミシュ!」
ソフィアは恐怖で目を瞑った。
金属がぶつかる音がした。残響音に目を開けると、カリタスがミカエルの剣を受け止めていた。
「……遅かったな」
「ミカエル、貴様っ……!」
カリタスが目を剥いた。普段は温和なカリタスの、憎しみに満ちた顔が、彼の深い怒りを表していた。
二人はしばらく鍔迫り合いを繰り広げていた。ソフィアはその様子を固唾を飲んで見守ることしかできないでいた。しかし次の瞬間、思いもよらないことが起こった。
微かにミカエルが目を細めた。冷酷な光が宿っていたその瞳に、迷いが浮かんでいたのだ。カリタスも、そのことに気がついたらしい。ほんの僅かな変化だった。だが、ミカエルの心には迷いが生まれているのだと、なぜか強くそう思った。
その変化にカリタスが動揺してできた一瞬の隙を、ミカエルは見逃さなかった。ミカエルは再びその瞳に冷酷な光を取り戻すと、カリタスを弾き飛ばした。カリタスはなんとか翼で飛び、バランスをとった。
ミカエルは、辺りの様子を見回した。ソフィアも周囲を見ると、城の悪魔が集まってきている。ミカエルは、これ以上の攻撃は不利だと考えたのか、無言で空へと飛び立った。
「イリス……」
カリタスがゆっくりとイリスに近づき、抱き抱えた。
「……君は、本当に美しい顔をしていたのだな……君が微笑みかけてくれた日々が当たり前ではないことに、今になって気づくなんて……」
カリタスはそうつぶやくと、冷たくなったイリスの頬に触れた。
「……イリス……すまない」
カリタスが言い終わらないうちに、へーミシュの頬を大粒の涙が伝い始めた。集まってきた城の悪魔たちの前で泣くことも躊躇わず、大きな声をあげてへーミシュは泣き続けた。後から駆けつけたセバストスやグレモリー、ポテスタスは、ただ呆然と佇んでいることしかできなかった。
(イリスさん……)
ソフィアの頬を涙が伝った。子供のへーミシュを突然襲った、耐え難い悲しみ。幼い子供にはあまりに過酷すぎる運命だ。だんだんぼやけていく視界の向こうで、ずっとへーミシュは泣き続けている。しかし、どんなに他の人やものがぼやけても、へーミシュだけはくっきりと見えていた。
記憶の遥か彼方で、誰かが何かを言ったのを思い出した。
『夢に飲まれてしまえば、ソフィアまで”夢喰いの花”の餌食になってしまう』
『ミツケタ』
声がした。へーミシュのものでも、目の前にいる誰のものでもないその声は、頭に直接響いてきた。
(——あれ、なんで私ここにいるんだっけ?)
疑問が湧いた途端、ソフィアの体につたが絡まり始めた。
(何、これ——)
『ツカマエタ』
再び声が聞こえた瞬間、ソフィアは暗闇の底に引きずり込まれた。
* * * * *
「マラキア、ソフィアは大丈夫なのか?」
ベッドに横たわるへーミシュと、そのベッドに突っ伏しているソフィアを見て、ネカレウスがマラキアにたずねた。
「……だいぶまずいね」
マラキアはポツリと答えた。
「なんだって!?」
目を見開いて大声を上げたネカレウスに、マラキアは説明を続けた。
「ソフィアは今、”夢喰いの花”に憑かれかかっている。このままでは、へーミシュの二の舞になりかねない」
ネカレウスが、「そんな……! どうすんだよ!」と頭を抱えた。
「……ソフィアを信じよう」
マラキアは振り返り、その場にいた全員を見つめて言った。
「なっ……そんなこと言ってる場合かよ!」
ネカレウスが焦ったように言った。
「僕たちにできるのは、それだけだよ」
マラキアはそう言うと、寝息を立てているソフィアの肩に止まった。
(ソフィア……負けないで)
《第27話 悪夢 了》
最後まで読んでいただきありがとうございました!
拙い文章ですみません……(汗)。
これからも連載頑張ります。
《次回予告》
突如現れたツタに、暗闇の中へと引きずり込まれたソフィア。夢に囚われたソフィアが、暗闇の中で見たものとは——。
感想、お待ちしています!!




