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プハンタシア哀歌 〜へーミシュの旅〜  作者: 味噌ラー油
第五章 夢
26/28

第26話 昏睡

こんにちは、味噌ラー油です。

小説初投稿&初連載です。

未熟な文章ですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。


《前回までのあらすじ》



※表現力が未熟すぎるので、内容を更新することがあるかもしれません。ご了承ください(汗)。

「……我らが主人、”風の神々(ヴェンティ)”が……封印されました……!」


「——なにっ!?」

 トゥルボーが目を見開いた。

「どういうことだ!? 神々を封印した輩は、先ほどまでここに——」

「それが……奴らはどうやら、ここにくる前、すでに我らが主人を封じていたようなのです……”西風の別邸”も、”東風の別邸”も、”北風の別邸”も、”南風の別邸”も……全て攻撃されました……」

 トゥルボーが「……何と言うことだ……」と拳を握りしめた。

「攻撃で多数の負傷者が出て……それで報告すら遅れた模様です」

 報告している風精(シルフ)も、悔しげに俯いた。


「……ソフィア殿、と言ったか」

 唐突に名前を呼ばれて、ソフィアはびくりと肩を震わせた。顔を上げると、トゥルボーが真っ直ぐこちらを見ている。

「その霊力から察するに、そなたは”慈悲(クレメンス)の巫女”なのだろう? どうか、我が主人と、里を救ってくれぬか……!? ——そなたのその”再生”の力で……!」

「——えっ?」

 突然のことに、ソフィアは面食らった。


「ご、ごめんなさい……私の力では……」


「……そうか……」

 トゥルボーは一瞬悔しげな表情を見せたが、「いや、謝らないでおくれ。そなたのせいではないのだから」と言って、困ったように微笑んだ。


(私の中に眠る力……?)


 ”慈悲の巫女”——。


 それは、ソフィアの前に現れては、ぼんやりとした輪郭のままはっきりしないまま消えてゆく言葉だった。


 先ほど思い出した、クレメンティアと名乗る女神の記憶。それでようやく、自分が”慈悲(クレメンス)の巫女”だと言われる理由が、なんとなくだが分かった気がする。だが、その力がどんなものなのか、自分でもわからない。ただただ自分の無力さが歯痒かった。



「さてと。いつまでもこうしているわけにはいくまい。里の火を消すぞ。ヴェティス、水精(ウンディーネ)族の長に伝令を」

「はっ!」

 トゥルボーが、すぐさま近くの風精(シルフ)に指示を出した。

「あのっ……!」

 ソフィアはトゥルボーに話しかけた。

「私に何かできることがあれば……!」

 そう言いかけたが、誰かに肩をつつかれた。振り返ると、マラキアがソフィアの肩の高さまで浮かび上がっていて、そして、ソフィアの耳元で何か囁いた。

「ソフィアさん、それよりも……さっき『仲間が”夢喰いの花”に憑かれた』って……」

 普段は無表情なはずの顔を不安で滲ませて、マラキアはソフィアに聞いた。ランドルフも、「ソフィア、へーミシュが……!」と言いながらソフィアの袖を引いている。ソフィアは本来の目的を思い出した。


(……そうだ、へーミシュを助けないと……!)


 そこで気づいた。マラキアも、本当は隠れ里のことで頭がいっぱいなはずだ。それなのに、へーミシュのことを気遣ってくれるとは……。マラキアの優しさに気づいた瞬間、胸がいっぱいになった。


「……ありがとう、マラキアさん」

「うん」


 マラキアに精一杯の微笑みを向けて、ソフィアはトゥルボーに向き直った。


「風の長、トゥルボー様。このような時に申し訳ありませんが、どうかお力をお貸しください。私の仲間が、”夢喰いの花”に憑かれ、今も刻一刻と蝕まれているのです。代わりに、私にできることはなんでもします……!」


 一息つくと、ソフィアは深くお辞儀をした。


「お願いします……!」




「顔をあげられよ、”慈悲(クレメンス)の巫女”殿」


 ゆっくりと顔を上げると、あたりには柔らかな空気が満ちていた。ソフィアと同じ目線に浮かんだトゥルボーが、穏やかな春の空を思わせる、暖かな眼差しを、ソフィアに向けている。


「……本来ならば、交換条件などなしにお助けしたいところだが……貴殿のために、我々も力を尽くすことを約束しよう。その代わり、どうか、我が主人を、そして封じられた神々を、救い出していただきたい……!」


 トゥルボーが優雅にお辞儀した。その様子は、マラキアとそっくりだった。


「はい……!」


 トゥルボーの心遣いに、ソフィアは心が温かくなるのを感じた。



「では、マラキア。そなたがソフィア殿に付き従い、ソフィア殿のお仲間を助けに行くのだ」

 トゥルボーが、ソフィアの肩の周りをふわふわと飛んでいたマラキアに言った。

「えっ、僕? ……で、でも、里が……」

 マラキアは不安そうな表情をした。しかし、トゥルボーはマラキアに近づいてその頭を優しく撫でると、落ち着いた口調でマラキアを諭した。

「そう心配するな。里のことは、私たちに任せておけ。そなたは薬草にも詳しい。そなたなら、きっとソフィア殿のお役に立てる」

 マラキアは一瞬目を見開き、ソフィアと目を合わせた。だが、再びいつもの無表情に戻ったマラキアは、「……分かったよ、母上」と頷くと、すぐさま里の方に飛んでいった。

「……全く、マラキアの気まぐれさは誰譲りだと聞きたいほどだな。まだ炎も消えていないのに……」

 トゥルボーが困ったように笑った。


     *  *  *  *  *


「じゃあ、今から説明するね」


 マラキアやネカレウスたちと共に、ソフィアは数日かけて”土の街(テルルプス)の隠れ里”に戻ってきた。へーミシュが”夢喰いの花に憑かれてから、今日ですでに一週間。時間はない。

「うん、よろしくね、マラキアさん」

 ソフィアは握った拳を胸の前でぎゅっと握りしめた。

「うん。でも、いいの? ”夢喰いの花”に取り憑かれている人の夢に入るのは、ものすごく危険なんだよ……? ただでさえ、他人が見ている夢の中に入るのも、帰ってこられなくなる可能性があるのに……」

 マラキアは冷静に言ったが、その顔には微かに不安がちらついている。


『へーミシュを助けるためには、やるべきことが二つある』

 マラキアはソフィアにそう告げた。


 一つは、”夢喰いの花”——ソヌムストルムを弱らせるため、魔物退治用の香を炊くこと。



 そして、もう一つは、”夢喰いの花”に憑かれた相手を”起こす”ことだ。



 ただ外側から起こすだけでは、”夢喰いの花”が見せている夢の、その強大な魔力に打ち勝つことはできない。だが、夢を見ている人物を、夢の内側から起こせば——ソヌムストルムを退治することができるかもしれない。マラキアはそう説明した。



『でも、気をつけて』


 マラキアが真剣な顔をして言った。


『おそらく彼は今、”過去の記憶”を夢として見ていると思う。それも、心の奥底に封印してきたような記憶をね。その中に入るってことはつまり、彼のつらい過去と向き合うってこと。もし夢に飲まれてしまえば、ソフィアまで”夢喰いの花”の餌食になってしまう』



 危険性は十分分かっている。今だって、不安で手足が震えているくらいだ。


(それでも、へーミシュを助けなきゃ……!)



 ベッドの上ですやすやと子供のように眠るへーミシュを見て、改めてそう強く思った。



「大丈夫。きっとへーミシュを助けるよ」

 改めて記憶の整理をしたソフィアは、マラキアにそう言って、先ほどから自分にしがみついて離れないランドルフの頭を撫でた。

「ランドルフも、心配しないで。きっと戻ってくるから」

「……っ、ソフィアァ〜ッ!!」

 今にも泣き出しそう、いやすでに泣き出しているランドルフの手を握り、「じゃあ、ランドルフ。こうして私の手を握っていて」と言った。

「うぅ……こうである?」

「そう。きっとこれで戻って来られるから」

 ソフィアは、自分の中の不安をかき消すように、ランドルフの温かい手を握った。今度はウルクスに微笑みかける。

「ウルクス、ランドルフをよろしくね」

「うん……ソフィア、気をつけて」

 ウルクスは持っている杖を握りしめた。

「ソフィア、本当にヤバくなったら知らせろよ。俺も行くから」

 ネカレウスはそう言ってルペスと一緒に力瘤を作って見せた。息ぴったりの二人を見て、思わず笑顔になる。こうしていると、なんだか名残惜しくなってしまいそうだ。


「……マラキアさん、お願いします」

 名残惜しさを振り切るように、ソフィアはマラキアに合図した。

「……分かった」

 覚悟を決めたように、マラキアは頷いた。


「じゃあ、香を炊くよ」


 マラキアがそう言って香炉に火を付けた。深い森の奥に迷い込んだ時のような匂いが、あっという間に部屋全体へと広がる。遠い記憶の果てで、いつかその匂いを嗅いだことがあるような気がした。



『我らを幻想の世界へと導く夢の神よ、我をかの者の世界へと誘いたまえ——夢想(ソムニウム)



 ソフィアは魔法を唱えた。言い終わって息を吸った瞬間、体が軽くなったように感じた。ランドルフの手の温かさだけが、心地よかった。


     *  *  *  *  *


「おい、起きろ、起きろよ!」


 誰かに体を揺さぶられている。でも、そんなに強い力ではない。揺すられているのが心地よくて、再び意識が遠のく。


「もう、起きろってば!」


 それにしても、なんだか聞き覚えのあるような声。でも、少し幼いような……。


 声の主を確かめようと、頑張って目を微かに開ける。


  見上げると、ぼんやりした視界の真ん中に、誰かが立っている。だんだん視野がはっきりしてくると、そこに立っていたのは、見覚えのある漆黒の角を生やした人物だった。


「へーミシュ……?」


 何気なくその名前を読んだ途端、今までの記憶が一気に頭の中へと雪崩れ込んできた。

(そうだ、私、へーミシュを助けに……!)


「へーミシュ!」

 ソフィアは飛び起きた。


「お、おう、やっと起きたか……てかあんた、なんで俺の名前知ってんだ?」


「……え?」


 よく見ると、少年の背はソフィアが知っている人物よりもずっと小さく、その顔も、随分と幼なげな顔立ちだった。だが、一度見たら忘れられない、血のように紅い瞳が、ソフィアのことを不思議そうに見ている。

「へーミシュ、だよね……?」

 ソフィアは首を傾げた。

「確かに俺はへーミシュだが……あんた、俺に会ったことがあるのか?」

 少年まで首を傾げた。

(……なんだか既視感のある光景……)

『夢喰いの程度からするに、彼のソフィアに関する記憶も、すでに食われていると思う』

 マラキアが確かそう言っていたのを思い出した。そういえば、最初に出会った時も、へーミシュはソフィアの状況に首を傾げていた。見た目の雰囲気は違えど、目の前にいる少年はへーミシュで間違いなさそうだ。キョトンとしているへーミシュを見て、懐かしくて思わず微笑む。

「な、なんだよ。突然笑ったりして」

 へーミシュが訝しげな顔をする。

「ふふ、ごめんね。私はソフィア。ところで、ここは……?」

 ソフィアはそう言って、座ったまま辺りを見渡した。


 そこは、霧と雲に覆われたテルミヌス城の、南側にある庭だった。しかし、苔むしていたはずの城壁は、少し新しく見え、庭の木々の配置も少し違っていた。そして、そのどれもが、霞がかかったように、少しぼんやりとしていた。


(これが、へーミシュの夢の中……これが、へーミシュの"過去の記憶"……)


 古ぼけた風景画のように不思議な光景が、ソフィアの周りを取り囲んでいた。


(そうだ、これは夢……早くへーミシュを起こさなきゃ……!)


「ここは《《俺の城》》だ。というか、なんで人間がこんなとこで寝てたんだ? 今日は朝からポテスタスたちが”城のけいびを固めるぞー!”って言ってたのに、どうやって忍び込んだんだ?」

「えっ!? ええっと……」

 夢の中とはいえ、ソフィアは勝手にテルミヌス城へと忍び込んだことになってしまっている。このまま誰かに見つかるのも、あまりよくなさそうだ。とりあえず、へーミシュにことの成り行きを正直に話すことにした。

「あ、あのね、へーミシュ……」

「ん? どうかしたか?」


 ソフィアは大きく息を吸った。


「これは、夢なの。今へーミシュがいる《《ここ》》は、過去の記憶なの。だから、目を覚まして」


 ゆっくりと落ち着いた口調で語りかけると、へーミシュは目を見開いた。


「何言ってんだよ……これが夢の中なわけないだろ。だって、ほら」

 一瞬わかってくれたような気がしたが、へーミシュは呆れたように言うと、ソフィアの肩に触れた。

「ソフィア、だっけ? あんたに触れても、ちゃんと触った感覚があるし。夢の中なら、そーゆー感覚もないはずだろ?」

「ち、違うの、それはソヌムストルムが見せてる幻覚で——」

 そこまで言った時、上から何かに乗られたように体が重くなった。押し潰されるような切迫感から、呼吸が荒くなる。

「おい、大丈夫か!?」

 体を起こしているのも辛くてうずくまっていると、へーミシュがかがみ込んで背中をさすってくれた。


(へーミシュ……優しいところは、今も昔も変わってないな……)


 そんなことまで考えるほど意識が遠のいた。



「へーミシュ?」



 自分ではない誰かの声が、へーミシュを呼んだ。それを聞いた途端、少し体が軽くなった。

(……誰……?)

 顔を上げようとした時、へーミシュのまだ幼さの残る声が、鮮明に聞こえた。まるで世界に他の音がなくなってしまったかのように。




「母さん」




 顔を上げると、そこにいたのは、紫水晶(アメジスト)のような瞳の、儚げな女性だった。


《第26話 昏睡 了》

最後まで読んでいただきありがとうございました!

拙い文章ですみません……(汗)。

これからも連載頑張ります。


《次回予告》

ぼんやりと霞がかかったような世界。そう、ここはへーミシュの夢の中。そして、ソフィアの前に現れた、儚げな女性。紫水晶のような瞳を持つ、その女性の正体とは——?


感想、お待ちしています!!

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