その9
「何故って言われてもなあ。ここはわたしの住まいだから」
困ったように眉根を寄せるシチュワート様を前に、マキシマムが喚く。
「し、しかし、私は結界を張っていたのです! それなのに何故?!」
言われてみれば、確かに。これだけ大騒ぎしても侍従や侍女や使用人たちが誰も集まってこない。答えを求めてシチュワート様を見上げる私を前に、シチュワート様が頬を掻いた。
「んー……。それは大事未来の妃に何かあっては困るから……」
「魔法を、ルナか私に仕込んでいらしたのですね?」
言いにくそうに言葉を濁すシチュワート様へ、私は問いかける。
「正解、って言ったら怒りますか?」
シチュワート様が罰の悪そうな顔をする。私は急いで首を左右に振った。
「いいえ。でも、一体どこに? シチュワート様の魔法は水のはずなのに、どこも冷たくありませんでした」
私の疑問にシチュワート様が頬を緩ませる。
「ああ、それは髪飾りの宝石の中に少し細工をさせて貰ったんですよ。少しだけ水の玉を仕込ませておけば、何かあった時にすぐわたしが転移できるのでね」
すると、それまで控えていたルナが、ならば、と口を挟んできた。
「お茶会の時に出てきてくださればよかったのです。エミリー様がどれほど辛い目に遭われたか……」
文句を言ううちに腹が立ってきたのか、ルナが渋面を作る。両手を固く握り締めるルナを目にして、シチュワート様が詫びた。
「すまない、ルナ。けれど、下手にあの場でわたしが出てしまったら、もっと話が拗れていたと思ったものだからね。軽蔑しますか、エミリー?」
私の顔を不安げな表情で覗き込んでくるシチュワート様に、私は口角を上げてみせる。
「いいえ。見守ってくださりありがとうございます。私を信じてお茶会の時は我慢してくださったのですね?」
問いかける私を前に、シチュワート様が唇を噛んだ。
「何度も出ていって直接文句を言ってやろうかと思いましたがね」
口惜しげなシチュワート様の頬に、私は手を当てる。
「よく思いとどまってくださいました。もし出てきたら、それこそ軽蔑していましたよ?」
そっと告げると、シチュワート様が頬に当てた私の手を握ってきた。
「だと思いましたので。本当に、忍耐力が試されました」
シチュワート様の答えに、私はくすりと肩を揺する。
「今後は何かを仕込まなくてもいいくらい信用されるよう、頑張りますね」
微苦笑で答えると、シチュワート様が小さく呻いた。
「う……。し、信用してないわけでは……」
「わかっています。大丈夫です、シチュワート様」
「エミリー……」
私はシチュワート様としばし見つめ合う。碧い瞳が温かく私を包んでくれて、私は心から安堵の息を吐く。不意に、後方から声がかかった。
「え、えーと……。申し訳ないのですが、わたくしのことを忘れてはいませんか?」
おずおずとした声音で我に返ると、シチュワート様が私の瞳から視線を外さぬまま答えた。
「ん? ああ、マキシマム君でしたね。エミリーが無事ならそれでいいので、君も帰りなさい」
「は、はあ……。そ、それでは……」
マキシマムが魔法で帰還しようとする。私はシチュワート様から身を捩り、マキシマムに声をかけた。
「あ、待ってください、マキシマムさん」
私が名を呼ぶと、マキシマムの動きがとまる。
「なんでしょう?」
「エミリー?」
私は怪訝そうな声音のシチュワート様の胸に手を置きつつ口を開いた。
「もう少し詳しくお話をお聞きしたいので、自室までお付き合いいただけませんか? お茶をお出しいたしますので」
私の提案に異を唱えたのはルナだった。
「エミリー様! なんでこんな者に!」
足を高く鳴らして一歩前へ進み出るルナに、シチュワート様が同意する。
「そうですよ、エミリー。これ以上彼になんの用が?」
眉間に皺を寄せるシチュワート様へ、私は理由を説明する。
「この方、何かもう一つ隠していらっしゃると思うんです。違いますか、マキシマムさん?」
私の推測に、マキシマムの目が大きく見開かれた。
「そこまでお見通しとは……。わかりました。お話いたします」
「ありがとう、マキシマムさん。では、部屋へ行きましょう」
私は口許を綻ばせ、シチュワート様とルナへ視線を送った。
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