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いつもからかってくるクール系美少女な先輩の抱き枕になったら、いつのまにか立場が逆転していたんですが。〜なぜか先輩の体温がどんどん上がっていってるけど、とりあえずこのまま抱き枕を続行しようと思います〜

久々の投稿です。ご閲覧ありがとうございます。

 柔らかい日差しが窓の外から降り注ぎ、思わず眠くなってしまうような昼下がり。そんな静かな春の日に、俺────星宮(ほしみや) 斗真(とうま)は、なぜか女子の先輩の抱き枕にされていた。


「あの、来栖(くるす)先輩?」

「静かにして……抱き枕は、喋らない……」


 俺を両手で抱きしめながら目の前でそう呟くのは、高校で一つ上の先輩である来栖(くるす) 結衣(ゆい)。白色の髪と中学2年生くらいの体型が特徴的な美少女だ。


 俺の所属している部活『ボードゲーム部(部員3名、うち1人幽霊部員)』の部長であり、その少し(?)幼い外見とマイペースで猫のような性格からにより、男女共に幅広い人気を誇っている。


(……と、ここまで聞いたらただの可愛い先輩なんだけどなぁ)


 そんな先輩だけど、よく俺のことを揶揄ってくるし、感情を表に出すことも少ないからなぜそんなことをするのかも分からない。


 ある時はほとんどハズレのロシアンルーレットたこ焼きを『あーん』で食べさせてきたり、またある時はメイドのコスプレをして迫ってきたり……とまあ、俺は現在そのよく分からない人に抱き枕にされているわけで。


「いや、あの……なんで俺を抱き枕にしてるんです?」

「私の寝床に、斗真くんがいたから……」

「部室のソファは寝床じゃありませんよ?」


 部室に置かれた窓際のソファでうたた寝していると、いつのまにか先輩が俺のことを抱き締めながら俺と向き合う形でぐっすりと眠っていた。


 そしてそのまま離してくれなかった先輩に抱き枕にされつつ、今に至るのだが……


「あの、とりあえず離れません?」

「嫌。ちょうどいい抱き枕があったのが悪い」

「ほら、見られたらまずいですし……」

「大丈夫、私は楽しいから」


 こいつ、完全に俺の反応を楽しんでやがる。こっちは誰かにこの状況を見られたら社会的に終わるんだよ。


 いっつも俺のことをからかいやがって……なんか、今更ながら腹が立ってきた。ならこっちからも少しからかってみるか。


「確かに、身長的にはちょうど……うぐっ!?」

「抱き枕は、喋らない……!」


 そう思って身長のことをイジろうとすると、急にお腹の辺りの締め付けが息ができなくなるほど強くなり言葉に詰まる。この体のどこからそんな力が出てるんだ。


「ギブ、ギブですって先輩! はぁ、はぁ……」

「もしもまた身長のこと言ったら……分かった?」

「は、はい」


 ダメだ。今この人に抵抗したら殺される。今は先輩が満足するまで大人しく抱き枕にされるしかないのか。


「……あれ、もう終わり?」

「終わり、ってなにがですか」

「抵抗とか、離れたりしようとか……」

「だってそしたらまた締め付けるでしょ」

「……つまんないの」


 本当になんなんだこの人は。抵抗したら締め付けてくるのに、抵抗しなかったらそんなことを聞いてくるのはおかしいだろ。だが、これでもう呼吸困難になることはないはず……


「……それに、別に嫌じゃないですし……うぐっ!?」

「…………急にそういうの、よくない……!」

「なんで!? 先輩、苦しい、苦しいですって!」


 なんでだよ! 今なにも変なこと言ってなかっただろ! 


 顔を胸に埋めながら全力で腹を締め付けてくる先輩の背中を叩き、何度もタップアウトした後にようやく締め付けを緩めてくれた。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」

「……斗真くんが、悪い」

「身長の話はしてないじゃないですか……」


 どうして締め付けられたのか本当にわからないが、とりあえずこれ以上喋るのはやめておこう。


 俺は観念して、誰か来る前に先輩に早く満足してもらう方向にシフトすることに決めた。


「先輩、そのままじゃちょっと動いたら落ちますよ?」

「……大丈夫、動かなければいい」

「いや、危ないですって。ほら、こっち来てください」


 さすがにソファに2人は狭かったのか、先輩の背中が少し外側に出ているのが見えたので落ちないようにこちら側に抱き寄せる。すると……


「〜〜〜〜っ!?」

「先輩……先輩、だから急に強く締め付けるのやめて! 死ぬ! 爺ちゃん見えてますって!」

「ご、ごめん……つい」


 つい、で人を殺しかけないで欲しい。というかそろそろ体がもたない。だがこれで先輩が落ちる心配は無くなった……って、あれ?


「……先輩、熱ありませんか?」

「気のせいだから」

「でも、なんか体が熱いというか」

「だから、気にしないで……」

「でも、顔も真っ赤に……痛い痛い痛い痛い! 足を挟んで捻らないで! 右足折れちゃいますって!」


 何で心配してるだけなのに足折られかけてるんだよ! あと何回も言うけどその体のどこからそんな脚力が出てるんだよ!


「ごめん、つい……」

「だから『つい』で人の足ねじ切ろうとするのやめません!? 結構痛いんですよ!?」

「でも、斗真くんも悪い……それに、お腹はキツく締めてないし……」


 だからなんでだよ。腹を絞めるのも足をシめるのも本質的には変わらないよ。マジでいつか怪我しそうだからやめてくれ。


「…………それ、に……すぅ……すぅ……」

「また寝ちゃったよ、この人……」


 と、そんなやり取りをしていたらまた先輩が眠りに入ってしまった。本当にマイペースだな、この人は……よく分からなくて、無防備で、自分勝手で……


(でも、本当に……こういうところがズルいんだよなぁ……)


 背中に伝わる少しの圧迫感と、体の手前から感じる先輩の体温。完全に安心し切ったその顔は、本当に人形のようで思わず見入ってしまうほどに綺麗だ。


 俺は先輩が落ちないよう、さっきよりもほんの少しだけ背中を強く抱き締める。これじゃ、どっちが抱き枕か分かったもんじゃないな。


「本当、寝てたら可愛い先輩なんだけど……」


 面倒くさいのに憎めない。突っかかってくるけど嫌じゃない。むしろ、このマイペースな先輩に振り回されている時間が少し心地いいと感じている自分もいる。


 心の中にくすぐったい感触が走り、俺は思わずそう呟きながら目を細めて先輩の顔を見下ろす。すると……


「「あっ……」」


 ……目が、合った。思わず一瞬で前を向いてしまったが、今確実に目と目が合っていた。えっ? 起きてたの? あんな安らかな寝息してたのに?


「……先輩、どこから起きてました?」

「また寝ちゃったよ、あたりから……」

(ほぼ全部じゃねーか!!!!)


 最悪だ! ってことは、ちょっとこっちに先輩の体を寄せたのも、つい目を細めてしまったのも、『寝てたら可愛いんだけどなぁ』とかいうセリフ吐いたのも、全部……!


(あぁ、終わった……これをタネに俺はからかわれ続けるんだ……)


 さようなら、俺の平穏な生活。きっとこの人のことだ、何日、何週間、いや何ヶ月経ってもこのことをタネに俺をからかうに違いない。


 もはや先輩がどんな悪そうな顔をしているのか見るのも恐ろしいが、俺は恐る恐る下を向いてその表情を見てみると……


「可愛い……斗真くんが……私に……」

(なんだその反応!?)


 当の本人は、顔を赤くして俯きながら何かを呟いている……って、なんだその反応は! いつもならオモチャを見つけた子供みたいな目でこちらを見てくるのに……


「…………ねえ、斗真くん」

「な、何ですか?」

「私……かわいかった?」


 やめろ。やめてくれ。純粋な上目遣いでそんなことを聞くんじゃない。なんか変な気持ちになってしまう。


 さっきまでは体がもたないと言っていたが訂正だ。今は心臓が持ちそうにない……!


「斗真くん、ドキドキしてる?」

「それは……そう、ですけど……」

「……目、閉じて?」


 なにこのシチュエーション!? えっ、どうなるの俺? 何されるの俺!? 


 もはや気が動転してどうすればいいか分からないので、とりあえず先輩の言った通りに俺はゆっくりと目を閉じた。こうなったら、もうどうにでもなってしまえ。


(心臓がやばい……俺、まさか先輩と……!)


 胸元ですこしもぞもぞと先輩が動く感触と共に、俺の唇に知らない感触が伝わってくる。


 柔らかくて、湿っていて、少し硬くて……あれ、硬い? 予想していたのとは何か違う感触に驚き、思わず目を開くと……既に立ち上がっていた先輩が、俺の唇に彼女自身の指先を当てていた。


「まだ、お預けだからね?」


 ものが言えなくなっている俺を満面の笑みで見つめながら、さっきまでこちらにあった指先をぺろりと舐める。どうやら、結局のところ弄ばれてしまったようだ。


(……『まだ』?)


 部室の扉を開け、荷物を持って帰っていく先輩を見ながら俺はさっきの言葉を反芻する。


 やけに熱かった先輩の温度が、しばらく消えることなく唇に残っていた。


読んでいただきありがとうございました。


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人気があったら続編出します。

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