子狸ポンキチとそびえる塔
森で事件が起きたとき、子狸くんが鮮やかな推理で解決……などというシリアスなお話ではありません。
なぞなぞが大好きな動物たちのお話です。
既出の『子狸ポンキチは迷たんてい』と同じ舞台ですが、お話は独立しています。
霜月透子様主催のひだまり童話館だより*「たぷたぷな話」参加作品です。
画・楠木結衣様
ぽかぽか森の動物たちが明日のパーティーの準備をしています。
会場となる子馬のサクラちゃんのお家に、子狸のポンキチくんがよたよたと入っていきました。
ポンキチくんは、重たそうな木のバケツを運んでいます。
そのバケツの中では、何やら透明な液体がたぷたぷと揺れていました。
炊事場に入ると、あまいあまいにおいがただよってきます。
「よいしょ……。んとね。キイジロウくん、あたらしいバケツを運んできたの」
かまどでおなべをかきまわしているのは、子猿のキイジロウくんです。
ポンキチくんは、かまどの横にバケツを置きました。
「ポンキチくん、ありがとう。バケツはそれで最後だよね。後は煮詰めるだけ」
ポンキチくんが運んでいたのは、森にあるカエデからとれた樹液です。
数日前に木に穴を空けて、いくつかのバケツに貯めていたものです。
朝からおなべにかけていて、湯気で飛んだ分をバケツからつぎたしています。
おなべの中で樹液がぐつぐつとにえています。
キイジロウくんはそれをおたまですくい、なべの中にゆっくりと垂らしてます。
こうすると水が飛んで、早く煮詰まるのです。
「キイロジロウくんもつかれたでしょ。そっちも代ろうか」
「ありがとう、ポンキチくん。でもまだしばらくはだいじょうぶ。そうだ。ポンキチくん。いきなりだけど問題だよ。いつもウインクしているムシって何かわかる?」
ぽかぽか森の動物たちはなぞなぞが大好きです。
もちろんポンキチくんも大好きです。
ちょっと考えて、ニッコリと笑いました。
「んとね。でんでんむしなの。かたつむりだからウインクしているの」
「せいかーい。さすがだね。あ、こっちはまだいいから、他の人たちを手伝ってくれば?」
「うん。そうするの。キイジロウくんもがんばってね」
ポンキチくんは、台所の方に行きました。
そこには子馬のサクラちゃんがいて、ボウルから粉の生地を取り出していました。
ヒヨコのカシワちゃんも手伝っています。
「サクラちゃん、何か手伝うことある?」
「あら、ありがとう。そうねえ、パンケーキの生地をコネるのは終わったところだし。それじゃあ、ポンキチくん。この生地を奥の部屋に運ぶのを手伝ってくれる? すずしいところで、ひとばんおいておくんだ」
「うん。わかったよ。まかせてっ」
ポンキチくんは、いくつかの生地のかたまりが乗った板を持ちました。
もうひとつの板を持ったカシワちゃんが言いました。
「ポンキチくん。たすかりますー。あ、そうだ。あたしもなぞなぞがありまーす」
「なあに? カシワちゃん」
「お部屋で歌いながらお掃除をしていたら、ソファーの下で何かをみつけたんです。つぎの3つから選んで下さい。1ばん、リボン。2ばん、メガネ。3ばん、木の実。どれが正解かわかりますかー?」
サクラちゃんは「えー? そうじ……どれだろうね?」と首をかしげています。
ポンキチくんはすぐにわかったようで、ニコッとしました。
「んとね。掃除じゃなくて、歌に関係があるの」
ポンキチくんが言うと、サクラちゃんが「もっとわかんなくなったよ」と言ってます。
カシワちゃんが言いました。
「さすがポンキチくんですね。もうわかりましたか」
「うん。ドレミファソラシドで、ソとファの下にはミがあるの。正解は3ばん」
「はい。せいかいでーす」
ポンキチくんは、おくの部屋に生地を運びました。
おくの方の部屋では子猫のミイタロウくんと子鹿のカノコちゃんが何か作業をしています。
台の上に木箱のようなものがあり、おなべのような円筒形の容器がついています。
これはミルクからクリームを取り出すための、遠心分離器です。
木箱についたハンドルを回すと、円筒形の容器が回ります。
ミイタロウくんとカノコちゃんが交代でハンドルを回しているようです。
「ミイタロウくん、カノコちゃん。手伝おうかな?」
「あ、ポンキチくん。ぼくは大丈夫だよ。カノコちゃんは?」
「わたしも、まだまだだいじょーぶー。あ、そうだ。ポンキチくん。入口がひとつで出口がみっつ、しろくてふわふわのものってなーに?」
カノコちゃんがなぞなぞを出しました。
ミイタロウくんも「なんだろう? しろくてふわふわのクリームかな?」と首をかしげています。
ポンキチくんは少し考えて言いました。
「んとね。みんなが持ってるものなの」
「わ、ポンキチくん。すぐにわかったみたいだねー」
ミイタロウくんは「え、ぼくも持っているもの? なになに?」とききました。
「んとね。こたえはシャツなの」
「せいかーい。さすがポンキチくん」
ポンキチくんは、こんどは裏庭の方に行ってみました。
子狐のウカミちゃんとイノシシのボタンちゃんが、あみの袋を運んでいます。
袋には干した果物が入っているようです。
「ウカミちゃん。何か手伝うことない?」
「あら、ポンキチくん。あっちの物干し台にまだドライフルーツがあるから、取りこんでくれる?」
「うん。わかったよ」
そのとき、イノシシのボタンちゃんが言いました。
「あのねぇ。ポンキチくん。なぞなぞがあるのぉ。7階建ての高い塔が立ってたのぉ。そこでぇ、迷子の子猫ちゃんがおっこちたのぉ。でも子猫ちゃんはケガはなかったのぉ、なんでかなぁ?」
それを聞いてウカミちゃんも考えています。
「ねこ……こねこ……。なんだろう? もしかして死んじゃったからケガじゃないとか、言わないよね」
「そーゆぅ、こわい話じゃないよぅ。あと、ハゲてて『毛がない』という話でもないからぁ」
「うーん、難しいね。ポンキチくん、わかる?」
「うん、わかったの。んとね。建物のてっぺんから下まで落ちた、とは言ってないの。階段で1段だけ落ちたの」
「せいかーい、さすがポンキチくんなのぉ」
「なるほどね。やっぱりポンキチくん、などなぞを解くのが得意だね」
ポンキチくんは、あみの袋を運ぶのを手伝った後、キイジロウくんのいる炊事場の方にもどりました。
他の動物の子供達もきています。カエデのシロップができるまで、まだまだかかりそうです。
かき混ぜる係を交代でやるために、みんな集まってきたのです。
ついでに味見も楽しめるようですね。
カエデのシロップは夜おそくに完成しました。
* * *
翌日、動物の子供たちがまたサクラちゃんちに集まりました。
サクラちゃんちのお庭に、白いクロスがかかったテーブルが置かれています。
厨房では子熊のゴロウくんと子ウサギのピョンサクくんがフライパンでパンケーキを焼いていました。
香ばしいにおいいで焼きあがったパンケーキを、子豚のブウタロウくんがお庭に運びます。
動物たちは、焼きあがったパンケーキをお皿に積みあげて塔を作っています。
いくつかのお皿で、どれだけ高く積めるかを競っていました。
パンケーキの塔に、みんなで作ったシロップをドバっとかけました。
ドライフルーツやクリームやバターなどものせました。
完成したパンケーキの塔が並んでいます。
一番上のをほしがった子たちが、ジャンケンをしていました。
子狐のウカミちゃんがポンキチくんに言いました。
「ねぇ、ポンキチくん。シロップもフルーツも小分けにしているよね。なんでみんな一番上を欲しがるんだろ。あれが一番甘いから?」
「んとね。一番上の方がふんわりしているの。一番下は、ほかのパンケーキの重みで少しつぶれてるかもしれないの」
「え、そうなの? じゃあ、一番下のを取った人はかわいそうじゃない?」
「ほとんど変わらないの。ぼくは一番下のをもらうの」
「ポンキチくん、相変わらずだね。じゃあ、あたしも下の方をもらおうかな」
パンケーキはお代わりもたくさんありました。
ウカミちゃんがみんなと話して、最初に上の方をもらった人が、お代わりでは下の方のをもらうようにしてました。
どのパンケーキも、とてもおいしかったみたいです。
その証拠に食べ終わった後は、みんなのお腹がたぷたぷになっていましたよ。
楠木結衣様にタイトルバナー画像を作成していただきました。
描かれているのはヒロインの子狐ウカミちゃんです。