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理系男子の恋心  作者: 鈴木ユウスケ
第1章
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第3話 嫌な生徒

 僕は、義務教育期間中に教員から受けたいくつかのダメージのせいで、高校生のころには学校の先生を憎み、蔑むようにな人間になっていた。いわゆる不良ではなかったが、決して真面目な生徒でもなかった。かといって、先生にバカにされるのは、僕の自尊心が許さなかったので、勉強は一生懸命やった。学校の授業や定期テストよりも、次の模試をターゲットにして、自分で買った参考書や問題集を中心にやっていた。授業は、単なるペースメーカーに過ぎなかった ので、授業時間の半分は睡眠時間と化していた。その睡眠中に僕の椅子を蹴ったり、教卓からチョークを投げつける先生もいた。


 また、全員が出席する早朝の課外授業にも、2年になってからは出席していなかった。しかし、成績は学年の中でもいい方だった。先生から見ると、僕は間違いなく嫌な生徒だった。


 2年のある日、僕が校舎の階段を登っていると、下から生徒指導でツルピカの松井先生の声が聞こえた。

「その靴下はなんだ?」

僕は、日頃から黒い靴下を履いていた。当時クラスでは、いや多分学年全体でも僕だけだった。松井先生は僕の靴下が校則違反だと言いたかったのだろう。僕は生徒手帳を開いて先生に向かって突き出し、

「校則には、白または黒って書いてありますよ」

と主張した。

「ちっ、もう行け」

松井先生は、口を斜めにして、職員室の方へ歩いて行った。

「生徒指導のくせに、校則知らないのか」

と、面と向かって言ってやりたかったが、後々の面倒を考えて、心の内に留めておいた。

 

 帰りのホームルームが終わり、教室を出ようとしたとき、担任の河合先生が僕を呼び止めて、言った。

「高広、お前たまには朝の課外授業出ろよ。先生たちが厚意で毎朝1時間やってくれてるんだから」

「だめだよ、先生。俺、家での勉強が忙しくて、課外に出てる暇なんてないんだよ」

「またお前はそういうことを言う。明日から出るんだぞ」

「無理、無理」


 高校からの帰り道。僕は、国道の右側にしかない歩道を自転車で走っていた。その歩道は途中でなくなり、車道だけになっていた。そのまま100m程直進して脇道に右折するのが、僕の通学ルートだった。

 僕が歩道のなくなった道路の右側を走っていた時、後ろからスピーカーの大きな声で呼び止められた。パトカーだった。警察官が3人降りてきて、そのうちの一人が、僕に「お前、右側通行してたな。自転車は左側通行だろ」と言いながら近寄ってきた。何を幼稚なこと言い出すんだと思っている僕に生徒手帳を出すように命令し、紙ばさみに挟んだ用紙に氏名などを記入し始めた。


 僕は、「歩道が右側にしかなく、すぐ先で右折するのだから、国道を横断して、左側を走行するよりも、右側を走り続ける方が安全だろ」と主張した。すると、「なんだ、なんだ」といった感じで他の二人の警察官が僕に近寄ってきて、3人で僕を取り囲んだ。最初に因縁をつけてきた警察官が、自転車に記入されている住所、氏名を調べ、「盗難車じゃないな」と言いながら、さらに用紙に記入していた。他の警察官は、「お前どこの生徒だ?」とかどうでもいいようなことを言ったり、聞いたりしながら、僕をからかって遊んでいた。


 10分ほどして、用紙に記入していた警察官が、「よし、もう行っていいぞ」と言ったので、僕は自転車で国道の左側を走り始めた。僕の背中に向かって「生徒指導の松井先生には、よく言っておくからな」とやりもしないことを脅しのつもりで言ってきた。「お宅の生徒が、自転車で右側通行していました」なんて高校にチクる警察がどこにあるか。あまりにも幼稚な言動に腹が立ったので、「あいつは、俺には何も言えないよ」と、後ろを振り返りながら、言ってやった。40歳過ぎに見えた警察官が、揃いも揃って、幼稚で、低レベルだった。当たり前だが、後日生徒指導の先生から呼び出されることなどなかった。


 幸せなことに、田舎の警察は暇なので、このように立場の弱い高校生に言いがかりをつけては、暇つぶしをしていたのであろう。このころ僕の中で、学校の先生は、すでに憎しみと蔑みの対象となっていたが、この日以来、警察官も同種の唾棄すべきカテゴリーに分類された。教養がない分だけ、警察官の方が下位に序せられた。


 修学旅行は2年の秋だった。この時だけ、特別仕様の学生服を着る男子生徒がいた。僕もちょっと太めのズボンを従兄から借りて履いていった。弓道部の連中が、弓を持ち込んでいて、夜、宿で練習していたのが、修学旅行で最も印象に残ったシーンだった。印象に残っていると言えば、紅葉には少し早かったが、京都の嵯峨野が印象的だった。正確には嵯峨野の甘酒屋のきれいなお姉さんと、そこの甘酒にすりおろした生姜が入っていたことが印象的だった。


 受験生の一年は早い。あっという間に、3年の夏が過ぎ、体育祭、文化祭のイベントも終わった。


 僕は、なぜかある英語の先生から特に嫌われていた。まあ、どの先生からも好かれてはいなかったが、特別に嫌われる理由も思い当たらないのに特別に嫌われていた。その先生からは、机に肘をついて掌に顎を載せていただけで、授業態度が悪いと注意され、何度も教室から追い出された。僕はそのまま家へ帰ってしまったものだから、英語の次の授業だった数学の出席日数が足りなくなった。でも、数学の萩原先生が、「お前出席日数足りないけど、成績いいから、補習やったことにしておくな」と言って、繕ってくれた。


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