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海浜問題  作者: 貴神
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海浜問題(前編)

夏の会議で、海辺のリゾート地の議題が上がり、


異種の夏風の貴婦人の意見と貴族たちの意見が、


ぶつかってしまい・・・・。

冬の長いゼルシェン大陸も熱気に包まれる夏真っ盛り。


農耕をする人々も太陽が南中に達すると、樹々の陰で身を凌ぐ。


そんな一日で一番気温が上がる刻、


夏風なつかぜの貴婦人は東部の議事堂で会議に赴いていた。


今日は夏風の貴婦人の他に翡翠ひすいの貴公子とあかの貴婦人が出席している。


「では、北部のネオン地方は以上の通りで。休廷!!」


進行員がベルを鳴らすと、議員たちがわらわらと立ち上がり、書類で顔を仰ぎ乍ら、


それぞれ休憩室へと向かう。


夏風の貴婦人も立ち上がると、翡翠の貴公子と赤の貴婦人と一緒に会議室を出ようとする。


すると長い白髭を生やした、年の割りには元気そうな男が声を掛けて来た。


「やぁやぁ、夏風の貴婦人」


「ダグー将軍!! 御久し振りです」


夏風の貴婦人が挨拶をすると、翡翠の貴公子と赤の貴婦人も目礼する。


ダグー将軍は夏風の貴婦人とは長い付き合いで、彼女の事をとても気に入っており、


プライベートでも逢う事が多かった。


「此の暑いのに、君は元気そうだねぇ。皆だれてきて会議どころじゃないみたいだがねぇ」


「私は夏は得意なんです」


夏風の貴婦人がニカリと笑うと、ダグー将軍は咽喉を鳴らした。


「夏風の貴婦人なだけあって、夏が得意か!! ふぉっふぉっふぉ」


話し乍らT字型の廊下の突き当たりまで来ると、ダグー将軍は右へ曲がろうとする。


左が休憩室で、右は玄関へと続いている。


「今日は、もう御帰りですか??」


夏風の貴婦人が問うと、ダグー将軍は頷いた。


「こう暑いとな、一日通しては、なかなか出られんよ。夏は若いもんに任せた任せた」


じわりと額に浮かぶ汗をハンカチで拭き乍ら、だが、ダグー将軍は、ふと思い付いた様に言った。


「おお、そうだった。夏風の貴婦人!!」


「はい??」


「此の夏の間に、儂の屋敷に遊びに来んかね?? また釣りをしようじゃないか」


「ええ。喜んで」


「カキ氷も用意しておこう」


「カキ氷ですか。夏はいいですね、カキ氷」


「そうじゃとも。では又な。後日、使いを出すよ」


「はい、御待ちしています。ダグー将軍、御機嫌よう」


子供の様に落ち着きなく去って行く将軍を見送ると、夏風の貴婦人は休憩室へ向かう。


異種には男女各一室ずつ部屋が与えられており、翡翠の貴公子だけ別の部屋へと入る。


夏風の貴婦人と赤の貴婦人は同じ部屋に入ると、


議事堂の給仕がアイスティーをテーブルに用意してくれた。


二人は其のカップを一気に飲み干すと、ぷは~!! と一緒に息を吐き出す。


会議中も飲み物は出されるが、そうガブガブと飲む訳にもいかず、二人は咽喉がカラカラだった。


夏風の貴婦人が緊張をほぐす様に背を伸ばして身体をほぐしていると、赤の貴婦人が、


ぐいっと首に腕を回してきた。


「夏風の姉~~」


チュッチュ、チュッチュとキスをしてくる赤の貴婦人に、夏風の貴婦人は、


「暑苦しい」


と払い除ける。


「暑いの得意って言ってたじゃーん」


赤の貴婦人が「ねー、ねー」と、しつこく擦り寄ってくる。


夏風の貴婦人は、どかりと椅子に座ると、鬱陶しそうに言う。


「まだ会議在るんだから、駄目だっつの。汗かくだろうが」


しかし赤の貴婦人は、めげずにくっついてくる。


「じゃーさ、キスだけ。ね、キスだけならいいでしょ??」


日頃、夏風の貴婦人への熱い想いを抱いている赤の貴婦人だが、


なかなかこうして二人きりになれる事がなく、


今がチャンスだとばかりに赤い瞳にらんらんと真面目な炎を燃やしている。


「んー、じゃあ、キスだけな」


夏風の貴婦人が仕方なさそうに言うと、赤の貴婦人は、


「わーい!!」


と跳びついて彼女の唇に接吻した。


どうやら火系ひけいの赤の貴婦人も夏が得意な様であった。









会議、再開。


午前中とは少し変わったメンツで話し合いが始まった。


午後の内容は東部地方の納税額と、大陸外から大々的に輸入する品について話し合った。


今日は其れで終わるかに見えたが、進行員が更に新しい議題を出してきた。


「先日、南部の議会に、ハミルトン家の土地が返還されると云う話が出ました。


ハミルトン家は南部の海辺の土地を所有しているのですが、先々月に御主人が他界し、


今は奥様のサーシャ婦人だけが暮らしています。


息子さんと娘さんが一人ずついる様ですが、娘さんは海外に嫁いでおり、息子さんも又、


海外で商人を遣っており、海外で自分の家、家族を持っているそうです。


そして、サーシャ婦人も海外からゼルシェン大陸へ渡って来た身で在り、御主人が居なくなった今、


私有地を議会に返還して生まれ故郷へ戻るつもりでいる様です」


新しく出された議題に、だが議員たちは、もう疲れているのか、


机に肘を着いたり欠伸をしたりしている。


背筋を伸ばした儘なのは、異種と何人かの若い議員だけだ。


だが進行員の次の言葉に会議室が一変した。


「それで何が問題なのかと申しますと、ハミルトン家の私有地が海辺に在ると云う事で、


此の時期ですし、高級リゾート地を作ったらどうかと云う案が出たのです」


此の言葉に、今し方まで、だらしなく椅子に座っていた議員たちが目を輝かせる。


「おお!! 高級リゾート地か!! 其れはいい!!」


「なかなかない機会じゃないか!! 是非、其の案で行こう」


「いいねぇ。高級リゾート地。賛成だね」


盛り上がる議員たちの中、夏風の貴婦人が手を挙げた。


「ハミルトン家では其の海辺は、どの様に使用していたのでしょうか??」


進行員が答える。


「ハミルトン家では、特に商売などはしていなかったそうです。


ただ私有地に持っていたと云うだけの様です」


夏風の貴婦人は質問を続ける。


「では其の海辺は今迄、無人だったのですか??」


「ええっと・・・・其の事については書かれて在りませんね。調査を出しますか??」


「ええ。出して戴きたいです」


夏風の貴婦人と進行員の遣り取りに、中年の貴族のフルー公爵が口を挟んできた。


「サーシャ婦人が返還すると言っておるんだろう?? 今迄の使われ方など関係無いではないか!!


其の土地は議会の物になるのだ。何か問題が在るのかね??」


夏風の貴婦人はフルー公爵を向くと、冷静な表情で言った。


「議会に返還される事に問題は感じていません。ですが高級リゾート地と云うのは反対ですね」


はっきりと否定する夏風の貴婦人に会議室がざわめく。


「高級リゾート地の一つや二つ、何だと云うんだね?!」


「公共的なリゾート地を作ろうと云っているんじゃないか!!」


声を張り上げる議員たちに、夏風の貴婦人は真っ直ぐな橙の瞳で言う。


「では、民衆向けの公共的なリゾート地を作りましょう。


高級リゾート地では、貴族や一部の富豪しか楽しめません」


しかし夏風の貴婦人の此の言葉に、多くの議員たちが憤慨した。


「元々貴族の私有地だったんだ!! 貴族が楽しんで何が悪い?!」


「そうだ、そうだ!! 大体、近頃は、民衆向けの公共施設ばかり作っているじゃないか!!」


一斉に責め立ててくる議員たちに、だが夏風の貴婦人は強い口調で言った。


「此処は民衆の為の議会です。私が言いたいのはハミルトン家の海辺に、


極自然に民衆が来ていたのだとしたら、其処に議会が高級リゾート地を建てたならば、


民衆から反感を買い兼ねないと云う事です」


「民衆の為、民衆の為と云うが、それでは私ら貴族は、どうなるのだ?!」


「そうだ!! 私ら貴族には何も与えられないのか?!」


「貴族の為のリゾート地を一つくらい作ったっていいだろう!!」


興奮した議員は立ち上がると騒ぎ立てる。


「翡翠の貴公子!! 君の意見は、どうなんだ?!」


正面に座る議員に指を差され、翡翠の貴公子は淡々とした口調で答えた。


「・・・・俺は、夏風の貴婦人と同意見です」


「そうか!! そうか!! 異種は結局そうか!!」


「何だかんだ言い乍ら、異種は貴族から何もかも奪う気なのだ!!」


「そうして私たち貴族を潰して、自分たちで何もかも掌握するつもりなんだろう!!」


口々に異種を批難する波に乗って、フルー公爵が大声で言った。


「御前たち異種は・・・・異種は・・・・反逆者だっ!!」


挿絵(By みてみん)


ビシッ!! と夏風の貴婦人を指差したフルー公爵に、一瞬、会議室が静まり返る。


「・・・・・」


「・・・・・」


沈黙が流れる。


先程まで大声を張り上げていた者たちがヒソヒソと言い合う。


「今のは流石に言い過ぎだろう・・・・」


「あれは言ってはいかん言葉だ・・・・」


例え日頃そう思っていたとしても、余りに言ってはならない言葉だった。


気不味い空気が流れる中、とうとう進行員が声を上げた。


「本日は此れまで!! 此の議題については次の会議で行います!! 閉廷!!」


既に立っていた者たちが、ぞろぞろと扉へと向かう。


夏風の貴婦人も立ち上がると、会議室を出て行こうとする。


其処へ、


「な、夏風の貴婦人!!」


フルー公爵が激しい感情の顔で、ぶるぶると震え乍ら声を掛けてきた。


「ハ、ハミルトン家の土地の高級リゾート化に反対するのなら、


わ、我々貴族を納得させるだけの証言をしてみせるがいい!!


ま、まぁ、異種ごときに貴族のプライドを、どうこうする事は出来んだろうがな!!」


は、はーはっはっは!!


フルー公爵は何とか声を奮い立たせ乍ら、笑って去って行く。


夏風の貴婦人は無言のまま廊下を歩く。


其の後を、翡翠の貴公子と赤の貴婦人がついて来る。


「反逆者だってさー。何か、うちら、凄いこと言われちゃったねー」


赤の貴婦人が後ろ頭に手を組み乍ら、ぼやく。


夏風の貴婦人は無言の儘である。


赤の貴婦人は何となく言ってみた。


「あたしはさー、高級リゾート地とか憧れるな~~」


「・・・・・」


ふと、夏風の貴婦人が赤の貴婦人を見た。


お、怒られる!! ・・・・かと赤の貴婦人はヒヤリとしたが、


夏風の貴婦人は何も言う訳でもなく議事堂を後にした。









「えー!! そんなこと言われたのぉ~~!!」


夕食時、太陽の館では夏風の貴婦人から話を聞いたらんの貴婦人が、


此れ憤慨!! と怒りを露わにした。


「フルー男爵、最悪~~!! 私たちが何したって云うのよ~~!!」


フォークとナイフを掲げる蘭の貴婦人に対し、


夏風の貴婦人は静かにメインのフィレ肉を食べている。


「そんなこと言われて、言い返さなかったの~~??


失礼ねっ!! って、ガツンと言っちゃえば良かったじゃない!!」


「・・・・うーん・・・・」


夏風の貴婦人は珍しく唸ると、赤ワインを飲み乍ら言う。


「正直、貴族が面白くない事してるのよ、私たちは。貴族の納税額上げたり、


主の居なくなった土地を議会に返還して民衆に分配したりしてるし」


「でも其れって、民衆の為になってる事でしょう??」


「そう信じているけれど、民衆=貴族には、なかなかならないものなのよ。


其れを無理に一緒にしようとすれば当然、貴族はプライドが傷付くし、


私たちは貴族からの反発を受けるのよ」


「うーん・・・・」


蘭の貴婦人は、とろとろとじゃが芋の冷製スープを飲み乍ら、足りない脳みそで考えると、


ふと疑問に思った。


「あれー?? 其の話って最初、南部で在ったんでしょ??」


「そうよ」


「どうして南部では、高級リゾート地を作ろうって事になったの??


白銀はくぎんの貴公子は止めなかったの??」


南部の議会には白銀の貴公子、しろの貴公子、漆黒しっこくの貴公子が出席している。


白の貴公子と漆黒の貴公子はともかく、白銀の貴公子ならば、


きちんと反対していたのではないだろうか??


蘭の貴婦人の意見に、夏風の貴婦人はばつの悪い顔をする。


「シェパード家は、海辺の土地を持ってるのよ。あと港も」


「えええええ!!」


思わず蘭の貴婦人は仰け反りそうになる。


「そ、それじゃあ、反対出来ないじゃない!!」


「そう・・・・言い難い」


だから高級リゾート地を作る方で、南部では話が進んでしまった訳である。


「くぅぅ・・・・!! 白銀の貴公子ってば、こんな時に限って貴族側の奴なのね~~!!」


「仕方ないでしょ。上流貴族のシェパード家の総帥なんだから」


ふーっ、と溜め息をつく夏風の貴婦人。


いきり立つ貴族たちを鎮めるのには、有力貴族の白銀の貴公子がもってこいであるのに、


どうやら今回の件については白銀の貴公子は大人しくしている方が良さそうである。


「じゃあ、結局、どうやって議員の人たちを納得させるの??」


蘭の貴婦人が訊ねると、夏風の貴婦人はワインを見詰め乍ら呟いた。


「其れが・・・・問題なのよねぇ」

この御話は、まだ続きます。


貴族たちを納得させる為に、夏風の貴婦人は、どうするのか・・・・?


このゼルシェン大陸編を順番通りに読まれたい方は、


「夏の闘技会」から読まれて下さいな☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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