幸せ
─────────と、ここまでが、ここで出会った初めての友人である、キングと僕の出会いだ。
この後僕らもここに来た経緯を彼に話した。僕らの方は、彼のような大層な理由もなかったが、強いて言うなら、孤児院にいた友達のため、と言ったところだろうか。
ところで、唐突なのだが、僕は人の夢を絵空事だと笑うのはあまり好きではない。実際、彼の夢である「誰もが幸せな世界」も、当時は素晴らしいものだと思ったし、そんな世界があったらどんなに良い事かとも思った。しかし、そんなもの、今考えれば唾棄するべき巨悪に違いない。
そんな世界があったとして、それは「誰もが妥協する世界」に他ならないはずだから─────────
士官学校の朝は早い。早朝に起き朝食をとったらすぐに座学の始まりだ。ルークは板書をメモしながら、余裕があれば講師の豆知識もノートの端にメモしていく。シュロスは寝る。キングは窓の外をボーッと眺めていた。
「えー、パウンという単位がある。こちらは皆聞き覚えのない単位だと思うが……。オイそこ、なーに窓の外見てやがんだキング=サベージ。名前のとおり随分偉そうだな?」
赤いメッシュの入った黒髪をオールバックにまとめた講師が持っていた指示棒でキングを指す。
「へーい、さーせん」
「ったく……」
講師は頭を掻きながら授業の続きを始める。
「さっきの続きだが……パウンって言うのは重量の単位だ。キノとかトマとかなら聞いたことあるだろうが、パウンは聞いたことないって奴も多いだろう。これは簡単に言っちまえば、1パウン=1人と覚えていい。要は1パウンの火薬を大砲に突っ込めば人1人殺せるわけだ」
講師は指示棒で黒板を叩きながら生徒たちに向き直る。
「つまりだシュロスハントォ!!!!」
そして、シュロスに向かって声を荒らげる。シュロスはその大声にびっくりして飛び起きる。
「37パウン砲は何人相当の火力が出る!?」
「え、えーと、4人?」
「人の話は聞いとけバカ野郎がァ!!」
講師はチョークを全力で投げ、それがシュロスの額にクリーンヒット。シュロスは大きく仰け反ったまま額を押さえていた。
「ったくバカ野郎がよ……。今日の俺の講義はここまでだ。飯食ったら戦闘訓練だからな、今のうちに準備しておけ!」
そう言うと、講師は乱暴に講義室のドアを開けて出ていってしまった。
「……なあシュロス、入学式の日の人があの人じゃなくて良かったな」
「……それに関しては本当に同意だ………」
シュロスはため息をつくが、明らかに自業自得なのは誰の目からもわかってしまうのだった。
おはようございます!!!!
寝てません!!!!!