初恋
眠いッ!!!!!!!
「まあ、あれだ」とキングは言う。
「未来が兵士くらいしか無いとは言え、俺もお前らも、理由なくここに来たわけじゃないだろ? だからまあ……なんだ、俺の身の上話でも聞いてけよ」
キングはそう言うと、自分がここへ来た経緯を話し出した。
聞けば、キングはいわゆる高位の生まれで、結構いい出自だそうだ。それもこんな場所に来なくても、家の力で生きていけるほどには。それでもキングがここに来たのには理由があった。
「……俺な、初恋の女の子がいたんだ。そりゃもう可愛くてさ。……俺は公務街の生まれで、その子は下町の生まれだったんだけどな、散歩の時に一目惚れして。それでちょくちょく下町に行っては1人で遊ぶその子を見てたんだ。……今考えりゃキモい奴だけど、話しかける勇気が、俺にはなかった」
キングがため息をつく。いつもは軽口を叩き合うルークとシュロスも、この時だけは黙って話を聞いていた。
「そしたらそんな俺に向こうから気づいてくれてさ。『どうしたの? 一緒に遊びたいの?』って。ちょっと離れたところに立って見てた奴をだぜ? それで何回か遊んでるうちに仲良くなれてさ。俺、告白したんだ。そしたら上手くいったよ。『うれしい!』だってさ」
喜ばしい話なのに、キングの表情は何故か暗くなる。ルークとシュロスはその理由を問えずにいた。
「だけどある日、その子は遊ぶ約束をした場所に来なかった。アイツが約束を破ったのなんて初めてだった。でもまあそんなの俺も都合とかでたまにやっちまうし、そんなもんかと思った。でも次の日も来なかったんだ。……なんでか分かるか?」
キングは顔をあげるが、その目にはルークとシュロスの、「?」を浮かべたような顔しか映らない。
「……攫われてたからだよ。初めて約束を破ったその日にな」
「……不思議に思ってその子の家に向かってみりゃ───ああ、俺、その子の家に案内してもらったことがあってさ。それで、向かってみたんだ。そしたらまあひでえ有様だったよ。家の中は荒らされて、約束を破った日が書かれた日めくりカレンダーで察したさ。俺は『俺の』親に頼んでその子の捜索願を出してもらった。当然受理されなかったよ。正式に公的機関が動き始めたのは、その子の叔母が捜索願を出した時さ。もう2週間は経ってた」
「まて、なんでその子の親が捜索願を出さないんだ? なんで2週間も…」
ルークの疑問は最もだ。近しいものがすぐに出すから仕組みとして回っているのに。
「それだよ、それ。最も近しい人間が俺だったんだ。後は言わなくても分かるだろ? ……叔母も自分の家族の都合があって毎日来れるわけじゃねえし、時間に関しては仕方ねえさ」
「んでさっきの話に戻るが、その子は下町生まれで、しかも親がいねえってんだからな。捜索はすぐに打ち切られた。やりきれねえけど、これが現実らしい」
「それで思ったんだよ。こんな仕組みおかしいだろって。だって俺が1番近い人間なんだぜ? そんな人間から出された願い事が、『家族じゃねえから』受理されない見向きもされないって、どうなんだよって」
「聞けば軍のお偉いさんになりゃあ政治にも口出しできるらしいじゃねえか。だから俺は決めたんだよ。俺が平穏な暮らしを手に入れたいってのはそういう事なんだよ」
キングはそこで話を切った。ルークとシュロスは、まだ子供だった。故に、彼になんと声をかければいいのかわからなかった。
凄く眠いッ!!!!!!!