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黄水仙〖キスイセン〗

作者: 木鷺


「あんたの子供になんて、生まれなきゃ良かった」


言い放って通話を切った。追い討つように間髪入れず鳴り出した携帯の電源を落として床に転がす。怒りに震える手でたばこを手に取り火をつける。感情のままに吸い込んだ煙はやけに辛くてつい涙が出た。泣くのはいつ振りだろうと何処か冷静な頭の奥で考える。


あぁ、そうだ。


久々に再会した実父がいつの間にか冷たい石になっていた時だろう。声も覚えていなければ顔だって唯一残った古い写真でしか思い出せない私が物言わぬ墓石に縋り付いて泣きじゃくっていたのを祖母はどんな気持ちで見ていたのかなんて、考えても仕方ないけれど。





一人暮らしを始めてもう5年が経つ。実家は無い。

…というより、あるにはあるけれど、私の生家という感覚がしないのだ。母と血の繋がらない父と半分だけ血の繋がった3つ下の弟が住んでいる家に行ったところで疎外感しか覚えない。


高校卒業と共に飛び出して、10代のうちはSNSで知り合った物好きなオジサンの家を転々として。20を超えてからは髪の先までどっぷり風俗業に染まって。


自分の、25歳の誕生日に、実の娘が売春婦として生きているのはどんな気持ち?と在籍する風俗店の写真と、現在の連絡先を同封した手紙を送った。

馬鹿馬鹿しいと分かっていても、それは衝動だった。


単純に構って欲しかったのかもしれない。

成人した良い大人が何を、なんて思われるかもしれないけれど私はずうっと寂しかったのだと思う。

気づいたらお父さんはいなくて、コンクールで入賞しても校内トップの成績を修めても、お母さんは見知らぬ男性と急に出来た弟を優先するから。



そうして今日掛かってきた電話は、私を産んだことに対する後悔の言葉だった。そりゃあそうだろう。

頭では理解してるし、想像だって容易に出来た。

というより、家出した娘を探す事さえなかったのだから考えなくたって分かっていたくせに。



言い放った言葉は本心で間違ってない。



だから、きっと私は明日も明後日も吐きそうな温もりに身を委ねて、奉仕の代わりに薄っぺらい愛を貰って生きるのだ。


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