21:招待状、白く輝く彼女
玄関のポストはまだ誰も手に触れていなくて、中身は配達されたままに残されていた。
一通、結婚式の案内状がその中に入っていた。
ハートマークの封筒を開き、そして中の案内状を見た。とても懐かしい名前が書かれていた。宮松は記憶をさかのぼらせていく。
彼女……坂口はクラスの中でも目立って綺麗な女の子だった。記憶の中では、宮松の彼女に対する印象は、長いウェーブの掛かった髪と、たまに見える可愛い耳やうなじだけだったりした。別に彼女のことをどうこうというわけではなく、自分より前の席にいれば自然と目に入るし、彼女はクラスの中では特に目立ったから、いつの間にかふと目がいっているのは自然だった。彼女は綺麗で、どちらかというと物静かな方だったけれど、周りには男の友達の方が多くて、いつも何人かの男子に囲まれて楽しそうに話をしていた。
段々とよみがえる記憶。彼女のイメージで「白」があるのは、きっと、彼女のすぐそばの窓から太陽の光がさんさんと差し込んでいて、それが机に反射して照らされていたからだと思った。南向けで、校舎の最上階で、眩しいくらいに光が入っていても、あまりカーテンを閉めるようなことが無かった。
でも新学期が始まって一ヶ月くらいで、彼女は急に学校に来なくなった。誰もそのことの理由を詳しく知らなかったけれど、曖昧な噂は陰の中でよく広まった。表面上の「結果」としては、彼女は退学したということだけだった。
彼女が強姦されたと、表に……はっきり口に出して言うやつは誰もいなかった。
しかし、宮松の記憶の中では、やはり光っている彼女の姿しか思いつかない。
電車を二本乗り継いで、坂口の今住んでいるという、隣の県まで足を運んだ。隣の県といっても、宮松の住んでいるところから一時間も掛からずに到着した。
詳しい場所は、手紙の住所からインターネットの地図で調べて、場所をプリントアウトしておいた。大通りに面したマンションで、あっさりと見つかった。
宮松は一度、前を通り過ぎた。――行き過ぎる前に何とか足を止めて、道路と歩道との境の手すりに、もたれかかるように腰掛けて、マンションの上を仰ぎ見た。そしてまた目を下ろし、マンションの前を通り過ぎる人々の姿を眺めた。皆、誰も自分のことを知らん振りしているように、顔を伏せて歩き過ぎていく。
再会は、あまりに不意だった。
恐る恐るといった調子で、彼の名を呼びかける彼女の声が聞こえたからだ。
小さなお洒落なバッグを肘に下げた彼女は、今も変わらない白さだった。髪の毛はあの頃より長くなり、さらに垢抜けた空気を、付けまつげを備えた細い瞳の辺りにふんわりと蓄えていた。
彼女は、さらに美しくなっていた。本当に、眩いほどに美しくなっていた。