14:海へ
窓ガラスについた雨の水滴が景色をモザイクにする。時折水溜りをタイヤが踏み、飛沫の音を立てて進んでいく。光の量も幾分少なく、やや憂鬱な、くすんだ空色。イヤホンを、左耳だけはめて、右耳は開け放している。バスの中は、たまに強く吹かされるエンジンの音を除けば、落ち着けるほどに静かだった。信号待ちに、アイドリングさえやめてエンジンを切ると、道路の真ん中にたたずんでいるかのような気持ちになる。雨の音が綺麗だった。
そして、降りるべき停留所の名を聞き、停車意志を示すボタンを押す。しばらく走り続けた後、車体は横に揺れ、そしてつんのめりそうになりながら少し乱暴に停車する。しっかり止まるのを待って、その間にリュックの中の折り畳みの傘を取り出し、留め金を外した。立ち上がる。ボックスにお金を投げる。ステップに立って、傘を外に向けて勢いよく開き、外に下りた。その際、わずかに肩が雨水に濡れた。
空の蒼さが地にも染み渡ったかのように……濃い藍色から薄い水色まで、空と地表は様々なトーンに成りながら、まるで水の中の世界のようだった。もう夏に入りかけていることを忘れそうになるほどの、冷たい色合いを見せている。ただし、吹き渡る風だけはその季節らしい、生ぬるい。モノトーンの淡白な浜の姿は、夜明けか夕べの時を示しているといっても間違いないような、そんな寂しげな景色だった。
バス停を下りたすぐ目の前には、大きな海の姿を見せてくれている。浜辺と海の境目の線はゆったりと湾曲し、浜の先は雨のせいで煙って滲んでいる。海も、空も、一つとなっていていた。足元から、頭のてっぺんまで、蒼い、深い、海が果てしなく広がっている。
背の低いコンクリートの境目を越えて、湿った砂浜を歩いていく。差している傘は、その屋根が小さいこともあって、大して役目を果たしていない。風が不安定に、揺れ、渦巻いている。意味の無いことを分かっていても、フラフラと傘を立てて、足元を濡らしながら歩いていく、海へと。
時折叩かれるような風が吹いたり、または優しく撫でるようなそよ風になったり。しばらくして、傘は元通り折りに畳んでしまった。雨は段々と弱まり、無数のミストになってきた。
濡れて足に張り付いたズボンの感触と、風に舞いその上に張り付いていく砂粒のくすぐったさと、伸びては引いてを繰り返す波。
一人の男が、浜の先に、海原の彼方を見て立っていた。宮松は彼の側へと歩み寄っていく。
彼の目の前には、膝までの高さもない背の低い石碑が置かれていた。時折強く押し寄せる波に洗われながらも、流れずにじっと砂浜に座している。
彼は押し寄せる波を気にせず、しゃがみ込み、その石碑に人差し指の爪を立てた。そして、傷を付けるように引っかき、石に白い線を一本刻み付けた。爪が割れて、その傷が赤く染まる。指を離すと、そのまま手元の海水で洗った。口に含んで舐めると、彼は立ち上がった。
そして小さく、口ずさむのだった。海の詩を。