8.たまには雲にも隠れてみる
皆が同じ作り笑顔を貼り付け、自慢話もおべっかも飽き飽きしていた頃、表面ではにこやかに卒なく返していたが、心の中では面倒で仕方がなかった。
それもそのはずだ。
結局は自分の利益になることしか考えてない。
それは何処も同じだな、と何処か別の世界の事を考えていた。
だが今回、違和感を感じる事を見つけた。
酒に酔った者について行くのは成人したか、してないかの女。
人の色恋には興味がないが、いつもにはない違和感ある組み合わせに暇つぶしにはならないかとついて行った。
普段なら気にもしないがよっぽど舞踏会に飽き飽きしていたのだろう。
舞踏会の主役にも関わらず、後を追って行った。
…とまではいいが、急に女はバルコニーに出るなり草陰に隠れては耳を立て話を聞いている様子。
物陰に隠れているが、あまり近付き過ぎると特殊な訓練を受けた者には分かってしまう。
追う相手が小娘であろうと細心の注意を払って、風下で耳をすます。
と、無礼極まりない男の声が聞こえてきた。
どうやら暗殺を企んでいるらしい。
暗殺は慣れているのでそんなに気にならないが、草陰に隠れて話を聞く娘は話を聞くたびに腕を組み、考え事をしている。
表情に大きな変化はないが、作り笑顔を貼り付けた顔と異なり人間臭さが見えて興味深い。
話し掛けてみるか。
そう思える程に興味を持ったのは、初めてと言っても良いかもしれない。
しかし声をかけてみようと娘に近付こうとした時、何かを思い立ったようでそそくさと退散していった。
用はなくなったので会場に戻る。
流石に上手に巻いて会場を抜けて抜けて来たとはいえ、長時間主役が居ないとバレてしまう。
「うちの娘はいかがかな。顔は王子程良くないが器量があるぞ。ほっほっほ。」
「まだ若輩者でありますので。」
「まあ、謙虚なことだ。誉れ高き優秀なお方が何を言いますか。是非娘を挨拶させて頂きますとも。フィオーレ、挨拶なさい。」
「初めてまして。イルソーレ様。フィオーレ・ヴァレンティーナと申します。」
あの娘の名前は何と言うのだろう。
何か饒舌に話し掛けてくる者がいたが、もう退屈なパーティの事などどうでも良かった。
去り際にニンマリ笑った娘の顔を思い出して、思わず笑ってしまった。
役立つ時もあるが、過分に容姿が良いばかりに誤解されては困るので、気を引き締める。
見た所、この目の前の令嬢はもう手遅れかもしれないが。
少しスパイ娘の事を調べみるとするか、これは当分の良い暇つぶしになるだろう。
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