3.伯爵家にその娘あり
彼女は馬が一頭しかいない簡易馬車から降り、従者を見送ると、シュピオナージェ伯爵家に入って行った。
「お帰りなさい、愛しのカトリーヌ。今日の舞踏会で良いことでもありました?」
部屋で待ち構えていたのは、母のジュリエッタである。
「ええ。叔母様がお姉様に最新の技術で作られたウェディングドレスを譲ってくださるそうです。」
カトリーヌは貰うまでに至った経緯を伝えず、簡潔に述べ、もう仕事を何から片付けようかと思案する。彼女から見て陽気な母親はいまだに喜んで仕事部屋に行かせてくれない。
「本当に素敵なことね。あ、丁度良い所に来たわ。」
目線を上げると、お母様お気に入りの小洒落た階段から姉様の姿が見えた。姉様の物腰は叔母様に鍛えられただけあって、見事なものである。
「カトリーヌ、お帰りなさい。結婚の支度がなかったなら、叔母様のパーティには行きましたのに。叔母様は御元気でした?」
「ええ、周囲の方を虜にしてしまう程お綺麗でしたよ。」
そうよ、良い話があるのよ。とお母様が嬉々として姉様に話し、姉様とお母様は結婚式の準備の続きに取り掛かった。
そっと彼女はその場から抜け出し、やれやれと仕事部屋へと向かった。
素っ気ないが、姉と母親のためにウエディングドレスを用意する家族想いな年頃の令嬢である。
実は、カトリーヌこそがシュピオナージェ伯爵領、次期当主なのである。
事細かにいうなら、15歳という年で領主代行として仕事し、16歳にて伯爵位を貰う予定である。もちろん身分を貰おうと伯爵家を乗っ取ろうと婚姻を迫ったり、邪魔したりするものもいるが。
やっと、名前を出せてホッとしました。