13.重なる時
ずっと描いてみたかった続きです。
王子に連れられ、ホールの真ん中へとたどり着いた。
勿論、なるべくダンスで注目を集めて王子の婚約者と匂わせるためである。
もう結構な歳なんだから身を固めりゃいいのに、と思うが、その言葉はそのまま自分にも返ってきそうなので言わない。
カトリーヌは進められるままに手を取ると王子に合わせて踊る。
決して踊りが上手だとは言えないが、王子が卒なくフォローしているお陰で見映えが良く見える位まではなんとかなった。
本当は踊りを練習するより領土経営について考えていたかったが、今はカトリーヌなど不要らしい。
カトリーヌとの契約の条件だった人が早速、シュピオナージェ領の経営状態を向上させている。
流石、王子の息のかかった者であるともいうべきか、領土経営の専門知識を持っているだけに限らず、実践することもできるとは。
…ダンスが長くてつい考えごとをして現実が見えていないカトリーヌと違って、周りは何かとでこちらに注目していた。
ふと王子が微笑んだかと思うと、お姫様を扱うように抱きしめた。
何事だ。
と顔を上げたカトリーヌの間近には王子の顔があった。
さらに近づくどころか、ちょこんと柔らかいものが当たった。
会場は騒がしくなり、若い娘達の悲鳴から国を担うような重臣達の驚きの声まで聞こえた。
先程までは婚約者以外の可能性も考えられたが、あれ程女性を引き付けなかった王子が宝石を持つかのように大事にするのだ。
会場にいる誰もが、あの女性の正体を探るのだと決めた。
しかし、もうすでに会場にその姿はなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。