10.笑っているのは誰?
執務机や必要な資料の束。
無駄な物等一切置かれておらず、徹底的に部屋が綺麗にされている。
執務部屋の超一級品である真紅の椅子に腰掛け、報告書を読み終えた所で声が掛かった。
「坊っちゃま、これが調査結果であります。」
「御苦労、爺や。これはまた、誰でも知ってる古典的な方法だな。しかも何処にでも流通してある物で絞り難い。」
調査結果は不服であるはずなのに、何処か満足気な顔をするのは、イルソーレ王子である。
爺やが調べていたものは、黄色いスカーフに包まれたナイフの産地である。
これは建国祭で暗殺のメッセージになる。
誰もが知っている昔の故事で、黄色いスカーフは建国した際に突き立てた黄色い旗を意図し、また懐剣のようなナイフは暗殺を企む者がいると示唆する時にも用いられる。
つまりイルソーレ王子が狙われているといった具合の警告だ。
これなら馬鹿でも伝わるだろう。
逆に言えば誰にでも伝えることができる。
伝えた者が分からないようにする為の工夫をあの娘は考えていた訳だ。
だが、隠れられると意地でも見つけたくなるものだ。
フルーツタルトのレシピは勿論、即位した時のための分かりやすいご機嫌取りのために用意していたのだが、一人の娘を見つけ出すためだけに施行を早めた。
ここまで向きになるのはいつぶりだろうか、いや初めてかもしれない。
理由等ないがここまでムキになるのは不思議な気持ちになる。
おもむろに立ち上がり、風に揺れる束ねられた真紅のカーテンの間から広がる蒼い空、城下の方向を見た。
名も知らない娘だが、気の毒なことに容姿はバレてしまっている。
加えて頭もそこそこ使えるようだ。
もしあの娘なら竿に吊るした餌に食いかかってくれる事だろう。
これから先、信頼できる味方を見つけなければならない王子。
使える手駒になってくれることを期待しているのか、はたまた味方に取り込むのは必然と思っているのか、窓の外に向ける顔は笑っているようだった。
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