表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の秘密  作者: 綿世しば
第1章 出会い
7/78

6.エレニアの焦燥

 リンノが来てから2ヶ月。

 ハミットは暇さえあれば『往診』『薬草を摘みに』『愛馬の散歩』と理由を付け屋敷に上がり込みティータイムを楽しんでいく。他の来訪者がない応接室は、すっかりハミット専用となり始めていた。

 リンノも心を許しているようで、私の目を気にしながら控えめに笑う。


 「リッツォ家は元々コールブルトのさらに南の領地を治めていて、エリーシオには縁もゆかりもない家なんだ。御当主はディビッチ・リッツォ子爵。前当主から爵位継承されたお坊ちゃまながらも、政治・経済のやり手らしい。」

 「・・・・。」

 「末席とは言え、本来ならある程度の地位を与えられるはずが、こいつは本の虫だから『田舎にでも引っ込んでろ』と追い出されたわけさ。」

 「・・・おい。」

 「なんだいエレニア? あ、リンノ、このジャムと紅茶の相性最高だね!」

 「ありがとうございます。」

 「最高な紅茶が飲めて満足した。下がっていいよ。」

 「畏まりました。御用がございましたらお呼び下さいませ。」


 リンノが退室すると、エレニアは対面のハミットを睨み付けた。


 「・・・今日は何の用だ。」

 「美味しい紅茶が飲みたくて。」

 「抜かせ。」

 「友の家に来るのに理由が必要かい?」

 「町唯一の医師様が、町の外にいてどうする。」

 「町の鐘が聞こえる範囲なら、全て俺の診療範囲だよ。もちろん、ここもね。」


 ハミットは先程までベラベラと喋り倒していた男とは思えない程、優雅にティーカップへ口を付ける。


 「今日は、エレニア。君の質問を聞きに来た。」


 (・・・やはり、この男が苦手だ。)


 自信に満ちた表情に、それを裏付ける頭の良さ、年齢にそぐわぬ風格、身に付いた無駄のない所作。()()と言うのは、白衣であっても品を出すらしい。


 「リンノにこの家の事、何も教えていないそうじゃないか。そればかりか、まともな会話すら拒む始末だ。俺が寄越した使用人がそんなに信用できないのか?たかがメイドに全てを晒す必要はないけれど、どのような家に仕えているか自覚は持って貰わないといけないよ。」

 「それでさっきの講釈か。」

 「我ながら上手く言ったと思うよ。核心には触れず(いつわ)りもない。」

 「ふん。()()()()()()と言う割には随分と御執心じゃないか。お前の愛人か。」

 「成る程、君の目は節穴らしい。」

 「リンノの住み込みを強引に頼み込んできたかと思えば、お前が頻繁に通ってくる。色々な可能性を考えるだろう。最初は懐妊しているのではないかとも思ったがな。」

 「浅はかで下劣だ。」


 (挑発には乗らないか。)


 ハミットは侮蔑や嘲笑なども一切感じさせず、冷めた視線だけ寄越す。一瞬怯みそうになるが、引くわけにはいかない。


 「では、私の監視か。」

 「それも違う。」

 「なら何故、使用人を寄越した。そろそろ理由を教えてくれてもいい頃だと思うんだが?」


 誤魔化しも、視線を反らす事も許さぬと精一杯威圧する。今までゴードン家としてエレニアの生活に必要以上の介入をしてくる事は一切なかった。それが突如使用人を寄越し給金も支払うという。

 先程のやり取りもそうだがいつもハミットとリンノが只の主従とも思えない。

 リンノ・マクレーンとハミット・ゴードンの繋がりがわからない。


 暫しの沈黙の後、ハミットが目を閉じため息を漏らす。


 「エレニア、君はいつからそんな()()()()()()()

 「・・・・。」

 「君の監視なんてしてどうする。ファンタジーの読みすぎじゃないか?リンノの事は働きたい者と、雇いたい者が出会ったら雇用するのが当たり前だろ。」

 「ディビッチへの近況報告は続けているんだろう。」

 「そりゃね。君をこの屋敷に置く条件だもの。『ふた月に一度、エレニアの様子を知らせるように』とね。でもリンノは関係ない。」

 「・・・ゴードンの名に誓えるか。」

 「もちろん、我がゴードンの名に誓おう。」


 ハミットの真っ直ぐな視線が、嘘偽りはないと語っている。


 (・・・くそ。)


 リンノが来てからと言うもの、疑念は増えるばかりだ。彼女、リンノは出来過ぎている。

 屋敷も管理者ができ不備は少なくなったし、私との距離感もわきまえている。肌寒い日には薪が用意されているし、庭の手入れで汗をかいた時にはいつの間にか着替えが用意されている。不思議な程に住みよい。


 しかし、それが気味悪い。


 「おっと、紅茶もスコーンも品切だね。そろそろ帰るかな。」

 「待て!まだ、答えを聞いていない!」

 「質問を聞きに来たとは言ったけど、答えるとは言ってないよ。」

 「ちっ。」

 「それに、知りたいなら彼女に聞いたらいいだろう。俺が彼女に科した条件はただ一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事だけ。彼女はその条件の理由も知らないし(たず)ねない。」


 ハミットはエレニアの心を折るように毒を吐き続ける。


 「彼女にしたら聞きたい事は多いだろうな。何故、君はいつも不機嫌そうに眉をひそめているのか。

何故、君は人が嫌いなのか。何故、よくしてくれているメイドを倦厭(けんえん)してるのか。

何故、過去のメイド達が不当に解雇されたのか。そして、エレニア・リッツォは何に怯えているのか。それを訊かない彼女の献身を考えろ。」

 「・・・・・。」

 「安心しろエレニア。アレはお前が思うよりずっと、(したた)かな女だよ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ