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丘の上の秘密  作者: 綿世しば
第1章 出会い
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13.晩餐会

 「それでは皆様、(さかずき)をお持ち下さい。」


 執事アドニス・バーヴァの掛け声で、席に着いた者たちが一斉に立ち上がりグラスを持ち上げる。


 「「「我らは当主ジャンカルロ・リッツォから次兄ディビッチ・リッツォへの当主継承を認め、それをここに示します。コロラの地に住まうリッツォ家に繁栄あらん事を。」」」


 予め教えられていた(ことば)をつむぐと杯に口を付け、ディビッチ・リッツォの当主継承を讃える。


 「必ずやリッツォ家に繁栄を。」


 ディビッチの合図で会食が始まると、奏者たちが楽器を奏で始める。席は序列順に用意されていて、エレニアは従兄弟たちとまとめられて座った。

 ‛継承の儀’と聞いていた事もあって堅苦しい式典を予想していたけれど、晩餐会の様な形式で執り行われている。親しい親族がいないエレニアにとっては、室内全てが同じリッツォの者と言う光景はとても不思議な感覚だった。


 「エレニア様、ご気分はいかがでしょうか?」


 いつの間にか近くにいたアドニスが声をかけてきた。

 一昨日の晩。エレニアはイミタの紅茶を飲んでから体調を崩し、先程まで部屋で伏していた。

丸一日横になっていたおかげで気分はいくらかマシになっていたが、そのせいでエレニアはディビッチと会う機会を逃していた。


 「なんとか、大丈夫そうです。」

 「何かございましたらお近くの者にお声かけ下さい。」


 エレニアはイミタの事を誰にも話さなかった。それを話せばあの怪しい使用人と何を話したのか説明しなければいけない。イミタが、アドニスひいてはディビッチの差し金でない可能性を否定しきる事もできなかった。ディビッチが無関係だったとしても、イミタがエレニアの客室を知っていた事から親族内で関わりのある人物が糸を引いているのは絶対だ。

 親族との親交だけでなく権力も地位もないエレニアに、何故脅しのような事をしたのか。目的の知れない敵意が怖かった。

 主の元へ戻ったアドニスは、ディビッチに耳打ちをする。ディビッチがこちらを向いた。その視線は鋭くエレニアは落ち着かない気持ちで視線を反らした。


 「どうかしたの?」


 隣席に座っている従姉妹のアーシアが心配そうに声を掛けてくれた。


 「もしかして、まだ気分が悪い?」


 アーシアは父ガストーネの姉の娘だ。彼女は親族の集まりに初めて出席したエレニアをとても気遣ってくれていた。体調が悪いのであればと両親は欠席を勧めたが、エレニアは継承の儀に参加しイミタ(もちろん偽名だろう)が親族にいるかいないかをハッキリさせたかった。

 強く欠席を進める両親を説得して居た所にアーシアが現れ、エレニアに気を配るようにすると言ってくれ何とか出席できる事になった。


 「いえ、少し考え事を。」

 「エレニアって大人しいから。ハッキリと言わないとダメよ。」

 「その、アーシアさんはディビッチ様とお話しされた事はあるんですか?」

 「呼び捨てでいいわよ。私はディビッチ様に何度か声を掛けて頂いた事があるくらいね。叔父と姪と言っても私は学院の尞に入ってしまっているし、お会いするのは年に一度くらいかしら。」

 「学院?」

 「えぇ。花嫁訓練所のような所よ。名家のお嬢様の婚約者が見つかるまでの待機所ね。」

 「婚約・・・。」


 エレニアの瞼に彼女の事がちらつくが、軽く頭を振って幻影を振り払う。


 (今は思い出してはダメだ。)


 「ディビッチ様は、ご結婚されていないのですか?」

 「そうなのよね。美しい赤髪にあのお年を感じさせないあの爽やかさならよりどりみどりだと思うのだけれど。不思議ね。」


 テーブルの向かいから二人のやり取りを見ていた、アーシアの弟ドミニクが我慢が出来ないと声を上げる。


 「アーシア!そんな奴ほっとけよ。」

 「エレニアは殆どが知らない人なのよ。可哀そうじゃない。」


 (殆どって言うか一人も知らないんだよな。)


 「じぃさんが倒れた時も、次の当主どうすっかって時も、今まで参加しなかったのはそいつだろ?」


 ドミニクは蔑むような目でエレニアを一瞥する。初めて会ったはずなのだか何故かエレニアを敵視しているようで、キツイ言葉を投げかけてくる。その悪態を隠そうともしないドミニクの言葉にハッとした。


 『旦那様は、うなされながらセヴィリオ様の名を呼ばれるそうです。』


 あの晩のイミタの話が甦る。


 「あの、前当主・・・お祖父様はどこかお悪いのですか?」

 「え?」

 「は?」


 先程まで言い争っていたアーシアとドミニクの二人が声を揃えて驚きの表情をした。会話に参加していなかった近くの席の人たちも、遠巻きにこちらの様子を伺っている。


 「あの・・・」


 周囲の雰囲気に気圧され身を固くするエレニアを見かねてアーシアが口を開いた。


 「エレニア、あなた知らないの?」

 「実は物心ついてからお会いした事もなく、お顔も知りません。今日は出席されるものと思っていたのですが。」

 「ハッハッ!こりゃ傑作だな。」


 ドミニクが腹を抱えて笑う。騒々しさに気が付いたメイドが近寄ってきた。


 「アーシア様、いかがされましたか?」

 「どうもしないわ。それより、エレニアはまだ本調子ではないみたい。部屋で休ませてあげた方がいいわ。」

 「アーシア?」


 アーシアの突然の言葉に今度はエレニアが驚く番だった。


 「エレニア、今夜はもう部屋に戻った方がいいわ。」

 「おい、姉様が言ってるんだぞ。」


 周囲の者やアーシアさえも、感情のない目でエレニアを見ていた。唐突なアーシアの変貌に混乱する。


 「アーシアなんでだ。」

 「ささっと下がれ!」


 それは命令だった。先程までのおどけた調子と一変し低い声音でドミニクが吼え、畳みかけるようにアーシアが冷たく微笑む。


 「探し物のお時間はもう終わりよ」


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