2話 取りあえず二ゲル
6/26 操作可能なステータスの名称の一部を変更。
精神力→精神
思わず叫んでしまったが直ぐ様、手で口に蓋をする。流石に距離があるから大丈夫か?
心臓が痛い位に鼓動しているのを自覚しながらキーワードを口にする。
「メニュー、ステータス」
メニュー画面が目の前にポップアップし、そこからステータス画面が呼び出される。兎に角この状況を抜け出さないとマズイので打開出来る何かを探す。
「えっと……確かスキルが~、スキルスキル~~どこだ~?」
女神から『最初にステータスとスキルを取得するのをオススメするわ!』と言われていたのでソレに従う。
っと、ステータスの横にスキルタブ発見。ウィンドウに触れてタブを切り替える。
そこに表示されたのは複数のスキルタブとフッターメニューに現在の所持スキルポイントの『5』ポイント。各スキル種類別にタブ表示されており、タブを開くとスキルツリーが表示されている。
軽く画面を弄くり回してスキル取得は1つに付き1ポイント消費。更に各スキル毎にレベル設定あり。確定ボタンを押すまでは振りなおし可能っと。
戦闘系、生産系、特殊系、補助系がいくつかと、それぞれアクティブ、パッシブの2通りがあると……。今は暗転してるスキルツリーもあるのは条件付で明示化されるのか?
いかん、あんまり深く考えてる余裕が無いな。えーっと……どうすりゃいい? 目の前の状況打破には何を取ったらいいんだ~~~~??
「戦闘系は無い……かな? あんな大群に敵対したら死亡確定だしこっちには武器も無い。生産は今は意味ねーし……特殊系か?」
焦りながら特殊系のスキルツリーを見て行く。とはいえ、最初から獲得出来るスキルはそんなに多くない……軽く見たが2つ。
インベントリ開放、EPS覚醒の2つ。
「インベントリ開放……は、まんまインベントリ機能の開放か、EPSの方は……『超能力(回転)』の覚醒?」
女神が言ってた奴か……レベルのMAXは……?? 何だコレ、スキルレベルの表記が『0/?』って最大値が固定じゃない?
他のスキルは……全部じゃないけど最大値が未知数のがいくつかある……良く分からんが取りあえず1だけは取ってみるか。
『EPS覚醒』に1ポイント振って確定ボタンを押す。すると使い方が頭に浮かんでくる。
試しに足元に落ちてる拳大の石を拾い上げて力を使う。すると手の中にある石が浮かび上がりクルクルと回り始める。
それを手の平を押し出しながら打ち出すイメージで射出。すると石は近くの木に当たり、幹を少し抉り取った。
「すげっ……」
一瞬自分の起こした現象に放心したがコレで目の前に広がる大群に対抗出来るはずもないと改めて思い、ウィンドウに目をやる。幸いにも合戦の火蓋は落とされていない今がチャンスだ。
「EPS覚醒取ったから次のが開示されたけど……何で次がコレなんだよ」
EPS覚醒レベル1を取得した事で次に開放されたのは『三本目の足』というスキル。効果はナニのサイズ変更が可能というスキル。
思わず力が抜けるが思考を止めるのはいけない。脱力する身体にどうにか気合を入れてウィンドウを睨む。
スキルツリー的にこのスキルを取る事で有用なスキルが開放されないかを見るが、特殊のスキルツリーは取得条件が結構厳しく大量のスキルポイントが無いと有用なスキルは取れない仕様っぽい。
……ネタとも思えるが効果の詳細を見ると割りと使えるのがちょっとむかつく。
「くそ、特殊は駄目か……なら補助を」
と補助のスキルタブに手をかけた所で大きな音が鳴り始めた。ドラを叩く様な音が響き渡り、大勢の唸り声がそこかしこから聞こえる。
左右両方を見ればゆっくりと動き始めた影。先ほどのドラの音は合戦が始まった合図だったのだろう。
それを見ながら自分の心臓の音が頭に響く。震える指と渇く口に張り付く喉。
恐怖から足が震え、移動を始めたいのにその場から動けずにウィンドウを見る。
補助スキルをざっと見て身体能力を向上させるスキルを見つけた。但し各項目毎に分かれていて、取得順が体力→力→守備→速度と、今一番欲しい能力にギリギリ届く、というより届いてもスキルレベル1で3%向上という微妙な物だった。
悪態をつきながら更にスキルツリーを見て行く、焦りから何度も見直している時に目的に近い物をみつけた。
『スキル:足軽(0/10)』
移動速度にボーナス(レベル1毎に移動速度5%)
考える間もなく残りの4ポイントを全て突っ込んで確定ボタンを押す。確定ボタンを押した所でやっと動かなければいけないと思い至った。
そして弾かれる様に戦場に背を向けて走り出す。
かなり先で展開されている争い、直ぐ様この場所まで辿り着く訳でも無いのに緊張でお腹が痛くなってくる。あれが『殺気』、もしくは『場の雰囲気に当てられる』という奴なんだろう。
パッと見で数キロ先で展開されていた争いなのにその熱はしっかりと此方まで届いていた。
その熱に突き動かされる様に走り続ける。普段なら疲れて歩いてしまう所なのにアレが怖くてつい走る。走って、走って、走り続けて。
気が付けば自分が元居た場所から大分離れた所に居た。
「はーーーー、怖かったー!!!!」
汗だくのまま地面へへたり込む。1時間以上は走っただろうか? 普段なら考えられないスタミナで走りきり、Tシャツが汗で透ける程だ。
そして一度腰を下ろしてしまうと疲れが一気に襲ってきて動くという気にならない。息を整えながら地面を見る。
何となく小石を拾ってEPSを使う。小石は手の中でクルクルと回転して宙に浮く。ソレを指先へ移動させてから手を拳銃の形にして……撃つ。
バチンッ!!
木の幹に石が当たり幹を傷付ける。出来た傷は先ほどよりも幾分小さいが石の大きさを考えると妥当なモノだと思えた。
汗で張り付くTシャツに不快感を感じながら木の根元へ移動して、改めて腰掛ける。背中を木に預けながらこの先の行動を考えなければならない。
「メニュー」
改めてメニュー画面を呼び出す。幾つか暗転している項目があり、その内の一つがインベントリの項目だという事を考えると、スキルを得る事で開放される項目であると推察出来る。
一先ずメニューの暗転部分は後に回すとして、取得可能なスキルを確認していこう。
攻撃タブにあるスキルツリーで最初に獲得出来るモノは……武器や防具関連のスキルが殆ど。まぁ種類はかなり豊富にあるな。
生産タブの方は……物を作り出す際の補助スキルっぽい。ツリーの中盤で色々と使い勝手が変わってくるスキルが配置され、最後の方で生産したアイテム効果の底上げをしてくれるスキルが配置されている。
で、特殊タブはというと。何というか配置がランダム性に富んだものになっている。戦闘に使うだろうスキルかと思えば生産の為のスキルの開示条件になっていたり、かと思えばそのスキルの開示条件に性的なスキルが入っていたりと本気で謎だ。
「本気で特殊過ぎるぞ……」
思わず愚痴が出るが気になる記述があった。良く良くソレを読んでいくと、どうやら別タブのスキル取得が開示条件になっているモノもあるらしい。
一概に一つのタブだけをドンドン取得していけば良いって事でも無いらしい。
最後に補助タブのスキルツリーを確認する。……どうやら本当の意味で補助に関係するスキルが集められているらしい。
その殆どがパッシブ系のスキルで構成されていて、取得すると能力を微量に向上させるモノから特定の行動に関わるモノ。ちょっと変り種だと自分以外、所謂第三者が関係する補助スキルもある。
「随分詰め込まれてるけど……まぁ手段が多い分には良い……よな」
思わず疲れからウィンドウを閉じて目を瞑る。スタミナを無視して走り続けたからか、そのままストンと眠りに落ちた。
ハッと目が覚め辺りを見回す。空は暮れはじめ、日は傾き、風が冷たくなっていた。
眠ってしまった自分に思いっきり舌打ちをしてから立ち上がる。動きたい衝動に駆られるが、薄暗くなっている状態で移動は危ないと判断して直ぐに背を預けていた木に登る。
どこまで安全か分からないが地面に座っているよりはマシだと自分に言い聞かせて枝に腰掛ける。目の前に広がる暗がりに目を凝らしてみると、昼間に見えた戦場の方にチラホラと明かりが見て取れた。
恐らくまだあの場所で争いが続いているのだろう。他に無いかと見回していると戦場から少し離れた方角に灯りが見える。
明日は一先ずアソコを目指す事にして今日は落ちない様に仮眠を取る事にした。
翌朝、木を降りて昨日見た灯りへ向けて足を進めていた。
「人が居りゃいいけどなー」
そう思いながらメニューを弄くる。今操作しているのはステータス欄で8つの項目が変更可能になっている。
体力、精神、筋力、頑強、器用、速度、知能、幸運の8つ。それと操作が出来ない項目がそれらの右側に表示されてる。
恐らく操作可能な項目の数値を元に右側の能力値が算出されているのだろう、割と良くあるゲームシステムだ。
こちらもステータスと同様に確定ボタンを押すまでは振りなおしが可能になってる……なってるが正直何が何に対して影響を与えているかが分からない。一応今現在30ポイント所持しているので一つの項目につぎ込んだ際の結果というのは見れるが正直どれも劇的に変わるとは思えない。
因みに今のステータスはALL『1』に設定されているが、元と比べてそこまで力が下がったとは考えにくいので生活する分にはステータスってのは重要じゃないのかもしれない。
「はらへったなぁー、何か食いて~なぁ」
愚痴を言いながら、えっちらおっちらと歩を進める。
そこそこの距離を歩き、時刻は恐らく昼を迎える頃になってようやく目的地へ到着した。
うん……THE・田舎って雰囲気の村だな。つーか人の顔が暗い、近くでドンパチやってりゃそりゃ暗くもなるだろうけどさ。
「取りあえず話を聞くかぁ」
「うっま! 空腹は最高の調味料とか言うけど本当だな。薄味だけど……こりゃうめぇ!!!!」
「おいおい、勢い良く食うのは良いが詰まらせるなよ?」
「いや、だってウメーんだって! かー! ビール飲みたくなってくるなこりゃ」
今食ってるのはふかしたジャガイモとソーセージの入ったサラダとパン。パンは硬いしサラダは塩味オンリーだが、それでもやっぱり旨い。
この村に着いて色々聞いて回って現状の把握に努めていた俺だったが、空腹でへたり込んでいた所を目の前のガリバーさんに助けられた。今はガリバーさんの営んでる宿屋で飯を食わせてもらってる最中だ。
食事を堪能した後に、飯の礼として手伝いを申し出たら店の清掃を頼まれたので片付けていると外が騒がしくなった。何事かと外に出てみると兵隊が何人か着ていた。
「我が軍はイストル国との戦闘に入っており、兵士の食料供給の為に村の方には協力していただきたい!!」
宿に引っ込んでガリバーさんに兵士が来た事を伝えよう。
「ガリバーさーん! 何か村に兵士が着てっけど? 戦争だから飯寄越せってさ」
「はー、とうとう着やがったか。何れ来るってのは分かってたけどよぅ……」
ガリバーさんはため息を吐きながら眉根を寄せつつ頭を掻く。頭の痛い話なのだろうと予想は出来るが下手に相槌を打つのは止めて置こう。
「おめーさんは早目にこの村出た方がいいだろうな。下手すりゃ徴兵とか言い出しかねんぞアイツ等」
「そっか、まぁ掃除終わったら直ぐに村出るよ。ガリバーさん……つーか村の人達は良いのか?」
「ま、故郷だしなぁ。それに村出ても頼る先が無けりゃ結局厳しいからな。だったら村に残った方がまだマシってもんさ」
そんなものか、と返しながら掃除を再開する。1時間程で掃除を終わらせてガリバーさんに軽く挨拶をして店をでる。
「どっか行くアテはあるのか?」
「根無し草なんで取りあえずは別の所に行ってから情報集めますよ。まずはどっかに腰を落ち着けられる場所を探します」
「そうか、じゃあちょっと遠いが『ダンブラー』って町まで行ったらどうだ? 俺の親戚がそこに住んでてよ、役所で働いてるから色々知ってると思うぜ」
ダンブラー……ここから村3つ抜けた先にある町だっけ。
「そうっすね。じゃあソコまで行ってみようかな」
「まっ、何だ。おめーさんは礼儀正しいし大丈夫だろ。折角だし向かいの店で道具なり何なり買って行ったらどうだ?」
「あー、金が全く無いんで無理っす。この一張羅しか無いっすわ」
そう言うとガリバーさんは目を丸くしてから「ちょっと待ってろ」と言って奥へ引っ込むと何やら包みを抱えて戻って来た。
「ホレ、やるよ。旅するんならコレ位は持ってろ」
「良いんです?」
「良いも悪いも、無いと困るだろ。ついでだ、コレも持ってけ」
投げて寄越した小袋にはお金が入ってた。
「いや……流石に……」
「いーから取っとけ。多分俺が使う機会はもうねぇから気にするな。それと向かいの店に寄って『ガリバーの紹介で来た』って言え。で、ソコで品物受け取ったらもう一回コッチに戻って来い。それまでにちょっと頼みたい事を用意しとくからよ」
「分かりました」
言われたままに宿の向かいの店に入り、ガリバーさんの言うとおりにすると何やら包みを渡された。取りあえず受け取って宿へ戻るとガリバーさんが手紙を持ってきていた。
「荷物取って来たか? そいつに入ってる像とこの手紙をさっき言ったダンブラーに住んでる『ミューズ』って奴に届けてくれ、ギルドの何とかって部署で働いてるらしい。何なら別の町からギルドで依頼を出しても良いからよ。ああ、像以外のはそのまま使ってくれ」
「えっと……本当に良いんですか?」
「構わねーよ、おめーさんの役に立つ物だろ? 本人が良いって言ってるんだ、貰っとけ貰っとけ」
ガリバーさんは豪快に笑いながら俺の背を叩いてきた。折角なので有り難く頂いて置くことにして村を出よう。
「分かりました、これは頂いて置きますね。後、ちゃんと手紙と像は届けますんで」
「おう、じゃあ旅の無事を祈ってるぜ」
「はい、ありがとうございます」
そうやって少し涼しい時間になって村を出た。出る時に兵隊がかなり騒いでたのが気になったけど先ずは次の村まで頑張って歩こう。