1話 転生? そんな事より驚愕の事実なんだが
目を覚ますとそこは雪国だった。
しんしんと降り積もる雪に暫し見惚れていたが、自分の体が冷えて居る事に気が付く。
どうにか立ち上がろうともがいて見る。
だが熱を失った身体は思い通りに動かず、結局そのまま雪に埋もれていった。
「っという訳で戻ってきました」
「戻ってきました。じゃないわーーー!!!!」
スパーン!と小気味の良い音を響かせて自分にツッコミを入れてくるのは自分を異世界へ転生させてくれた女神様。
詳細は省くがザックリ言うとPCにウィルスが感染したからワクチンを投入、という事らしい。
何故ワクチンが自分なのかとかは色々吟味して魂の加工が容易、且つ生き意地汚いのを選んだんだとか。他にもゴニョゴニョと言っていたが小声だったので聞き取れなかった。
「もう少しマシな所に飛ばしてくださいよ! 気が付いたら体温低下して身動き取れないままに死ぬとか本気で怖いんですよ!」
「だから! あそこがマシな所なのよ! 敵も少ない、襲う動物も少ない! どこに不満があるのよ!」
「だったらそれらしい服装にして飛ばせやーーー!!!!」
何せ自分が着ている服は『Tシャツにジーパンとスニーカー』という如何にも『夏』といった服装で、こんな格好で雪の振る場所に放り出されたらあんな事になるのも当然だ。
「大体これで何回目だと思ってるんだよ!! 女神なんだろ!? もうちょい気を配って下さいよ! 人間なんて簡単に自然に負けるっつーの!」
「だからって負けすぎでしょ! これで4回目よ!? 4回!! もうちょっと頑張りなさいよ!!!!」
「だから! 何で毎回環境が苛酷なんだよ! 砂漠、沼地、熱帯、雪国! 脱水、窒息、毒、体温! 碌な死に方してねぇよ!!」
そう、これで4回の死に戻り。死ぬ度に女神の元へ舞い戻る。
目的というか役割としてはワクチンである俺の種を残す事らしいが、そもそも人に会う前に死ぬってどうよ? もうちょいサービスしてくれても良いんじゃなかろうか。
「だからかなり優遇してあげたじゃない! ステータスだって見れるんだからやり様はあるでしょ!?」
最近流行りの異世界転生らしく、特殊能力を付与してくれたが……。
「そのステータスとか関係無しの死に方……つーかソモソモ意識が戻る前に詰んでるってどうなんだよ……」
ガックリと肩を落とし、ジト目で女神に訴えかける。やはり自覚があったのか女神がプイっと目を逸らす。
頻繁にではないが過去にも異世界転生というものはあったらしい、そしてその殆どが赤ん坊からやり直すというケースばかりで、俺の様にある程度の年齢で再スタートというのは今回が初めてのケースらしい。
その為、現地に身体を置いてソコへ俺の魂をインストールするという工程が仕様なんだとか。だがその仕様の為に俺は4回死んで4回とも意識が戻る前に『詰み』の状態になっていた。
「そこはホラ……気合でどうにかしなさいよ!」
「無茶苦茶言わんで下さいよ、こっちは普通の人間なんですよ? 何でもかんでも不思議パワーで解決出来る訳じゃないんですから」
「でもあなた元々超能力……EPSを持ってるじゃない。特殊型だけど」
「無自覚で使ったことの無い物は持ってる内に入るんですかね?」
頭を掻き毟りながら相槌を打つ。
「兎も角、もうちょっとマシな所無いんですか? 起きてからトラブルっつーならまだ対処出来ますけど、意識戻る前に詰むとどうしようも無いんですよ」
もうこの際、細かい所は良いからまともに起きれる場所なら良い。
「平原とか町の近くとか、そういった危険の少ない所をお願いします。本気で」
「そんな事言われても……配置はランダムなのよ」
……はい?
「通常の転生なら母親の胎から生まれるから母親の指定が出来るんだけど、身体を持ち越す場合は人が居る場所は無理なのよ。だって行き成り人が湧いてしかも死体、かと思えばある程度時間が経つと生き返るって……ホラーじゃない?」
「確かに」
思わず頷いて納得してしまう。
「だから人の居ない場所で、且つランダム生成が仕様なのよ」
「まじかぁ」
希望が断たれた。
「じゃあアレか? 意識が戻るまでに生存できるかトライし続けるしか無いって事?」
「そうなるわねぇ」
神は死んだ!!!!
「失礼ね、生きてるわよ」
「俺は後何回あの苦しみを味わうんだよ! 沼地に沈んで窒息した時なんざ恐怖と苦痛でどうにかなりそうだったんだぞ!!」
「転生の苦しみ……まぁ、産む苦しみみたいなもんだと諦めなさい」
「イヤじゃーーーーーー!!!!」
アノ後、十数回程繰り返してやっと転生が叶った。あれ等が産む苦しみだとしたら世の母の何と強い事か……母親って凄い。
そんな事をつらつらと考えつつ平原を歩く。
ランダムでやっと当たりを引いて意識を取り戻した俺は道なき道を歩きながら与えられた役割を思い返す。
「良い? アンタにはワクチンとして動いてもらうけど即効性は無いの。勿論役割としてある程度は地ならしして貰いたいから身体のスペックは高くしてるけど本質はソコじゃない。アナタと言う種を蒔く事で何れ訪れる災厄に対応するのが目的なのよ」
「つまり?」
「早い話が沢山女を抱いて孕ませて生ませなさい。出来ればちゃんと生き残れる子が良いわね、死んだら意味無いし」
「身も蓋も無い……」
「分かりやすいから良いじゃない。それとも小難しくて難易度高い方が良かった?」
「いえ……そもそも女性に子供産ませるってだけで難易度高いですから」
「何言ってるの、アンタって子供が5人も居るじゃない」
「……は?」
何言ってるんだコイツって顔で見返したらキョトンとした顔で返された。
「え? だって30前半で子供5人居て、その上5人とも認知してない下種なんでしょ? しかも全員と別れてるからそういった方面にも抵抗無いでしょ「ちょっとまてぇ!!!!」うし……何よ?」
「待て待て待て!! え? 何その重大な情報、俺って5児の父!? つーか……え? アイツ等子供出来てたの!? 俺一切何も言われて無いんだけど?!?」
「え? もしかして無自覚だったの? ………………ある意味才能だわね」
「嘘だろおおぉ!??!???!??!!!!」
盛大に落ち込み地面に手を着いて過去に付き合っていた女性との関係に考えを巡らせる。行為自体は確かにしてた……してたがちゃんと避妊は怠ってなかった。
なのに子供って……正確には俺の子供じゃないんじゃ……。
「『俺の子供じゃないのでは?』って思ってる所悪いけど、全員アンタの子供よ? 別れる前の事を思い出しなさいよ。思い当たる事あるでしょ」
「……2人程……思い当たる」
「ほらー」
「でも残りは分からん! いや、そもそも何で別れた男の子供産む訳!?」
「まー、女ってそんなもんよ。自分の体の中に別の命を宿すのよ? そりゃ産みたくもなるわよ。男には分からないかもしれないけど」
ショックで考えがまとまらないままに話は進む。
「兎も角、アンタは割りとソッチ方面も才能があるのよ。というかソッチと超能力の2点に才能が偏ってるのよね。だから他の事に関しては努力で……って、聞いてる?」
「子供……俺に子供……しかも5人……」
「ちょっと、シャキっとしなさい。ちゃんと役割果たせばその辺りは優遇してあげるんだから」
つい、オウム返しに聞いてみる。
「優遇?」
「っそ。ちゃんと役割をこなした暁には元の世界に戻ってその5人……正確には親子10人との縁を「ちょっと待てぇ!!」……何よ?」
「無茶苦茶だ! いや、この場合責任は俺にあるかもしれんが、ソレは一旦横に置いとくとして、10人も養う能力もなけりゃ相手に恋人が居ないって決まっても無いだろ!!」
「……確かに」
「頼むから俺の終わった人生はそっとしといてくれ!! 死んだはずの人間が生き返って、尚且つ複数の子供が居て、全員とよりを戻して生活するって無茶苦茶にも程があるわ!!!!」
女神はしばらく考え込んでいたが、顔を上げてとても良い笑顔で言い放った。
「面白いからいいじゃない!!」
「良くないわああああ!!!!」
思わずグーパンが出たが逆にクロスカウンターを食らわされた。地面を転がる俺を横目にシャドーでパンチのキレを確認する余裕までありやがるのが余計にむかつく。
「役割をどうにか終わらせたら今度は元の世界で子供5人とか、俺の終わった人生を更に詰み状態でリスタートさせようとしないで下さい! 何でもしますから!!」
「ん? 今何でも(ry」
すっげぇドヤ顔で例の質問されるとココまで腹が立つのか……本気でぶん殴りたい。いや……抑えて、抑えて。深呼吸。
「えぇ、やります。やりゃーいいんでしょう? 但しソレに必要なアシストはして下さいよ? 後、元の世界に蘇生うんぬんは良いとしても、俺の知らない子供との縁は本気で簡便して下さい。希望が無いと心が挫ける」
「っちぇー、まあいいや。取りあえず100人位子供作ってくれればノルマ達成って事に「多いわ!!!!」……注文多くない?」
「イヤイヤ、子供100人ってどんなハーレムだよ! というかどれだけやったらそんなに子供増えるんだ!?」
「でも出来るだけ多く種を蒔いてくれないと困るのよ。 実際問題100人って後々の事を考えればかなり控えめな数字だからね?」
「せめて半分……」
「ダメ」
「2/3?」
「ダメ」
「4/5でも?」
「だーめ」
まじか。本気で100人も子供作るのが俺の役割なんか……。あまりの事に不貞腐れて地面で横になる。
放心している俺を他所に女神は喜々として何やら作業を始める。
「覚悟が決まった所で転生作業開始するわよー。子供からやり直すと時間かかるし……ある程度の年齢からスタートすればいいわよね~。
性欲が多い10代にして、それから体力も大目にサービスしといてあげる。顔は……まあ違和感少ない方が良いから元のままにして……身長……今が175? んー、ちょっと水増しして180にしましょう。
病気とかかかると面倒だしそこら辺もサービスしとくわ。性病とかになって種が汚染されるのは避けたいし……あ、となるとその手の回復が出来ると生存も? まぁ今すぐじゃなくても良いから拡張機能とかにしときましょ。
後はー……ねぇ、何か希望ある? 何ならアレのサイズ大きくしようか?」
ある意味究極のサービスを言い渡されたが色んなショックが強すぎて答え切れなかった。横になったまま手を振って答える。
「そ? 男の人ってサイズ気にするのよね~。男神の皆もアレの大きさで張り合う事有るらしいし……ま、ココも機能追加しときますか。うーん、私って優しいわねー。
後はー……っていうか割と本気で機能拡張可能なのよねー。無駄に魂のスペック高いわね、容量が大きいから割と詰め込みも出来る上にコレで初期値なら色々出来るわね。
んーメモリーの量がコレだから……コレとコレを最低限入れて。後は基本的に拡張機能にしといて……私って割と凝り性だから完璧じゃなくても高性能には仕上げたいのよね。あぁ! コレも入れて……こっちも入れたいけどそうするとメモリーが足りないから……もどかしいけどココは成長後かぁ」
「子供100人かぁ……」
平原を歩きながらつい口から漏れてしまう。何とも途方の無い数字で、コレを達成するには最低でも100人の女性と関係を持たなければならない。
エロゲの様な展開だが、正直気が重い。というかどうやって女性を口説けば良い? 女性との付き合いは確かにあったけどナンパとかはした事無いし、目標達成のビジョンが見えない。
「まぁ、一先ず生活の基盤が整うまで考えるのは止めるか……」
そうやって問題の先送りをし頭を切り替えていた所、丘を超えた辺りで妙な物が見えた。
ソレは辺り一面を覆いつくし、空へ向けて武器を翳し、乱れぬ隊列はぼやけていた俺の意識をしっかりと現実へ引き戻した。
慌てて反対側を見やるとソコにも同じような陰が見える。目を凝らすと両方が掲げている旗印が違う物が分かる。
つまりココは……
「思いっきり戦場じゃねぇか! あのクソ女神があぁぁ!!!!」