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また会う

作者: 月出穂霧

「また会った!」

 やぁ、久しぶり。

「堅苦しすぎない?私たち姉弟だよ?」

 そりゃそうだけどさ。

「それに、そんなに久しぶりじゃないよ。この前会ったのは夏休みだったっけ?」

 そうだったっけ?あぁ、そうだ。従兄弟の自由工作手伝わされた時だった。

「そうそう!あの子ももう小学生になってたなぁ。早いなぁ、私が最後に会った時はまだ赤ちゃんだったのにね」

 近頃全然会ってなかったからね。子供の成長は早いよ、ほんとに。

「ふふ、よく言うよ。自分だってまだ子供のくせに」

 もう高校生だぜ?子供呼ばわりするなよ。

「そういうのは、ちゃんと家を出て、自立してから言いなさい。まだ卒業してからどうなるか分からない、ってお母さん嘆いてたよ?」

 ……まだ目標がないんだよ。目標ができたらちゃんと頑張るから。

「そんなこと言って、本当はやりたい事あるんでしょう?言わなくてもお姉ちゃんには分かっちゃうんだから」

 いや、それは目標っていうか夢みたいなものだし。それこそ子供みたいな無謀な夢。

「だからってきっぱり諦められてもいないんでしょう?やりたい事があるならやった方がいいと思うよ。私も応援するから」

 姉ちゃんに応援されたところでなぁ。

「何だよぉ、お姉ちゃんだって応援したいもん!ちゃんとお母さんとかお父さんにも相談してみなさいよ?」

 分かったよ。言うタイミングがあったら言ってみる。

「絶対いい返事くれるよ!だって2人ともいい人だもん」

 はは、何その客観的な言い方?

「いやぁ、一緒に暮らしているときは何も感じないけど、離れてみると分かることもあるっていうか……両親も人間なんだなって感じ」

 ふっ、なんだそりゃ。

「自分の子供がいなくなったら悲しいんだなぁとか」

 ふぅん。じゃあ俺がこの家から出たらもっと悲しいのかな?

「私のときの悲しみとは違うよ、きっと。まぁ、あんたはこの家から離れられないんじゃない、末っ子長男さん?」

 馬鹿にしているだろ?

「ふふふ。ちゃんとお嫁さんもらっておうち継がなきゃねぇ。あ、そうだ!ねぇねぇ彼女とはどう?まだ続いてる?」

 え!?なんで知ってるの?あれ、俺言ったっけ!?

「自分で報告してたじゃない、嬉しそうに。確か去年の冬じゃなかったかなぁ。私も嬉しかったからよく覚えてる」

 俺も浮かれていたんだな……

「あの幼なじみの子なんでしょ?あんた昔っから彼女のこと好きだったよね?かわいいなぁもう!」

 う、うるさい!あぁなんで言っちゃったかな、俺。姉ちゃんも知っている奴だから絶対言うまいと思ったのに……

「お姉ちゃんに何でも言いたがるあんたの昔の癖は今も健在なのね。ほんとお姉ちゃんっ子なんだから。」

 おい、人をシスコンみたいに言わないでくれない?

「え、違うの?」

 違うわ!上が1人しかいなかったから頼りにしてただけで、兄弟がいっぱいいたら姉ちゃんだけでなく他にも頼ってたし。

「末っ子ポジションは譲らないんだ」

 頼られるなんてごめんだからね。

「でも今あんたひとりっ子状態よ?兄弟いなきゃわがままになっちゃう……」

 高校生にもなれば性格はだいたい決まってるだろ。今更変わんねぇよ。ていうか、何だよ、その「ひとりっ子はわがままだよね論」は。

「だってひとりっ子ってそんなイメージあるんだもん。……そっか、もう高校生だもんね。あの時の私とおんなじ年かぁ」

 そんな事より、彼女の話はどうした。聞くの?聞かないの?

「え。なぁんだ、結局言いたいんじゃない。聞くよ、もちろん聞くよぉ」

 っていっても言うことなんて何にも無いよ。内容は無いよ。

「なんてつまらないダジャレをさらりと……そうねぇ、彼女とどこまでいったとか?」

 そんなもん姉に言うわけないだろ、馬鹿か!

「それを聞いてこその恋バナでしょ。滅多に無いお姉ちゃんと話せるチャンスだよ。話しちゃいなよ」

 う、うるせぇ!

「手はつないだの?キスはいつもしてる?家には遊びに来るの?あ、もうやることやっちゃっ……」

 いや、本当に黙って!姉にそれ聞かれて弟どうすりゃいいの!?まだキス止まりですけど何か!?

「ふふ、答えてはくれるんだ」

 馬鹿にしてる、何だよその目は。

「んんと、お姉ちゃんよりも遅れてるなぁっていう憐れみの目?」

 そういうカミングアウト急にするの止めて。彼氏いたのは知ってるけど、知りたくなかったわそんなこと。

「へへっ、照れますのぉ」

 じゃあ言うな!

「そういえば、彼は元気かな?あんた知ってる?」

 就職したんじゃなかったっけ、確か。都会の方に行ったとかで、今は全然見かけないよ。

「そっかぁ」

 うん。

「彼には申し訳ないな。だってこんな恋の終わり方後味悪すぎるもん。私なら絶対に嫌」

 そんなの向こうはどう思ってるか分かんないよ。

「ずっと一緒にいるとか言っちゃった。今思うと馬鹿みたい」

 ずっと一緒にいたかったんだろ?気持ちにうそはついてないから大丈夫だよ、きっと。

「そっかぁ。うん、うそは言ってない。それならいいのかなぁ」

 うん。いいだろ、たぶん。

「ふぅん。あんたは彼女に本当の気持ちで好きって言ってるの?」

 うん、そりゃあ……あ、あぁ!?なんで俺の話に戻る!?

「ふふふ、だってあんたの恋はまだ続いてるわ。終わった話は話しててもつまらないもん」

 自分で言い出したくせに。

「……まだ彼のこと好きだから、つらくなるから、私の話は終わり」

 うん。じゃあもう恋バナ自体終わり。女子会じゃないんだよ、まったく。

「うぅん、弟のそういう話聞けたからもういっか。こうなってなかったら、聞けない話だったわ」

 確かにな。今までで一番長く一緒に話したかも。

「もっと一緒におしゃべりしてればよかった、仲は良かったのに。だって今すごく名残惜しい」

 俺も。今度いつになるか分かんないから。

「ふふ、私がいつ来るか伝えなれないもんね」

 さっきの話じゃないけど、俺が目標に向かって頑張るとして、大学行くとかになったら、やっぱりこの家一旦出ていくから。

「そうね。そうなったら、こんな時間が無いまま会えなくなるのかなぁ。寂しいなぁ」

 ねぇ姉ちゃん。

「ん?」

 やっぱり姉ちゃんも寂しいもんなの?

「そりゃ寂しいよ。普段は誰にも見えないから誰とも話せないし。独りぼっち。段々自分がいなくなる感覚。本当に怖いのよ?」

 そっか。それは怖いな。寂しいな。

「でもあんたが寂しがってるのは、申し訳ないけど正直嬉しいかな。絶対忘れないでよ?」

 忘れるかよ、生まれた時からずっと一緒にいた人のことなんか。死ぬまで忘れない。みんな忘れないよ。

「じゃあよかった!……なんかお母さんの声聞こえるし、あんたは戻らなきゃ」

 うん、じゃあ。

「お母さんとお父さんとおばあちゃんによろしくね!反抗期なんて馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと優しくするのよ?」

 うるさいなぁ。分かってるよ。

「猫の餌もちゃんと忘れずあげるんだよ?お母さん任せにしちゃいけない。自分で飼うって言い出したんだから、責任持って……」

 長い!別れがだらだらし過ぎ。母さんか!

「ふふ、確かにお母さんもそうだったね。やっぱり親子だ」

 どうせ、また会うから。もういいね?

「うん。また会うよね。じゃあね」

 じゃあ。

「ありがとう。ずっと見守っているから」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んんっ」

「やっと起きた。もう、いつまでお参りしてるのかと思えば寝てるんだから」

 母がこっちを見ている。あぁ、そうか、俺は寝てたのか。目の前の仏壇。お供えしてあるおはぎ。こっちを見て笑ってる、制服を着た姉の写真。お彼岸のお参りの途中だった。

「ここで寝るのが好きなの?この前のお盆の時も寝てたじゃない」

「誰が好きこのんでこんな所で寝るか。眠かったから、目閉じたら寝ちゃっただけだよ」

 何だろう、起きたのにさっきの夢での会話は鮮明に覚えてる。現実に話した言葉みたいだ。

「もう夕方よ?ミケが外から帰ってくる頃だから、ちゃんと餌あげなさいよ」

「分かってるよ。姉ちゃんにも言われたし、何回も言われなくても……」

 あ、しまった。

「え?お姉ちゃん?何言ってるの、お姉ちゃんがいた時はまだミケ飼っていないじゃない」

 夢で姉と話したんだ、お母さんによろしくって言っていたよ、っなんて言えるか。そんなこと言ったら、母は気味悪がるだろうか?それとも、羨ましがるだろうか?

「どうしたの、ぼうっとしちゃって。もうすぐご飯できるから、たまには準備手伝いなさいよ?」

「うん、やるよ」

「……」

 いや、母よ。自分で言っておきながらびっくりするなよ。別に姉に言われたからじゃないけど、なんだか素直になりたい気分だ。

 今なら言えるだろうか。自分がやりたいことを正直に。

「あのさ、話したいことあるんだけど」

「えぇ、今じゃなきゃだめ?鍋火にかけているから後ででもいい?あ、ほらミケ帰ってきた。先に餌あげちゃいなさい」

 そういって母は台所に戻っていく。おい聞けよ、息子の話を。まぁいいか、後で。ご飯が終わった後にでも話そう。父も帰ってきたら、父にもちゃんと言おう。俺は医者になりたいんだと。姉みたいに病気で亡くなってしまう人を助けたいんだと。姉いわく「いい人」の2人だから、きっとちゃんと聞いてくれる。

 俺はもう一回仏壇を見る。

「頑張れそうだよ、姉ちゃん。ありがとう、また会おう」

 ニャア。声の方を見るとミケが餌の催促をしにこっちまで来ている。最近餌あげすぎじゃないか?歩く俺の先を嬉しそうに小走りしている、なんだかまるくなってきたミケを見ながらそう思った。




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