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企画

霞の向こう側

作者:

友人と会うために花屋へ寄っていく。もう何年ぶりに会うのだろうか、最早よく覚えていない。 久しぶりに会わないかと連絡が来たため会う事になった

彼の屋敷に着くと数人の召使いが私を客間へ通す。御曹司の彼の家は少し新しく豪華な造りとなっている。

「久しいねアカンサス」

「やあ、ルイファラ。君が私に会おうと誘うなんて珍しいね」

彼は変わらず細身で美しい服を着ていた。豪華な造りに引けをとらない華美な調度品が部屋に並べられている。

「わざわざ花まで買ってきてくれたのか」

「どこに呼ばれるときも花を買っていく主義だからね」

座るよう促され客用のソファに背をあずける。

「コーヒー派だっけ?」

「紅茶だよ」

彼はクスクス笑い召使いに紅茶を淹れてくるよう言いつけた。彼は何だか私の知っているルイファラではないような気がする。

「そう言えば君、鳥を飼い始めたようだね」

飼い始めた、という表現に不快感がある。彼らは人である

「そんな怖い顔しないでくれよ。すまなかった」

「君は今でも鳥と暮らしているのかい?」

彼はニコニコ笑っている。召使いが持ってきた紅茶を1口飲む。

「そうだよ。指輪も作っているし」

「…」

本当に彼はルイファラなのだろうか?

「君って変わったよね」

「ああ、そうでね。求めるだけでは与えてもらえないだろう?」

唖然とする。昔の彼とは全く違っている

「私は気がついたんだよ。求めるだけでは与えてもらえないと。君もそう思わないかい?」

「…」

昔よりもタチが悪くなった、というのが正直な所だ。昔の彼は愛に飢えていた。しかしその方がよかった気がする。

「これであれば平等に鳥たちを愛する事ができるだろう?私としてはこれが最善の考えと思うのだがね」

嗚呼もう私の知っている彼は消えてしまった。湖面の霞の向こう側にシルエットが残っているだけとなってしまった。いつかそのシルエットさえも消えてしまうだろう

「それでは彼ら鳥から深い愛を求められても応えない、ということかい?」

「恐らくそうだろうね。ひとりの子をひとりだけ愛するのは無理だよ」

「…」

彼は昔の面影を残したまま私の前で笑っている

「…そうか。それが君の意見ならば比定する気はないよ」

時間も時間なのでソファーから立ち、帰る支度をする

「ああもうこんな時間か。土産を持ってこさせよう」

「いや結構だ。この後また別の場所による用事がある」

こんなもの出任せだ。ただ、この場から早く立ち去りたい

彼は玄関まで見送ってくれた

「また遊びに来たまえよ」

「…」

無言で屋敷を出る。

外は底が冷えるような空気と鋭い風が渦巻いていた

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