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短編集  作者: 威錯謎(いさめ)
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封じの禁忌

『封じの禁忌まじょ

ある少女が呟いた「私は魔女だ」と、

それ以前のちょっとした小話である。

賞味は保証しないので悪しからず...

 『パトマノア』とっておきの呪文だと、思ったのだけれど。如何やら先を超されていたらしい「絶対に言ってはいけないわ」“何を”とは明言しないけれど女の言いたいことは判った。ちぇと不貞腐れた私に女は続ける「その呪文を唱えたが最後、永久に陽の目を拝めなくなるわよ」重々しく告げる内容に絶句せず。

 唯、疑問を定義した。「何故そんなことを、あなたは知っているの?」純然たる疑問、尽きぬ不可解。黒髪の印象的な女は窶れた笑みを手向け「異端に掛かるから、よ。」


 その言葉、詰まるところの意味は誰もしらない、摩訶不思議だのに。追求するものは此の世にいない―何故?―「だって、遠い昔に禁じられてしまったもの」と(戸籍上)母に成り代わった女は言った。隠れても?との問いに苦笑いして、「如何してなのか理解しがたいけれど。その音節を口にしたものは遠からず捕まった、」何人なんびともかなわなかったのだと母は珈琲を啜る。筆記するのも要注意で、実のところ私の思い付きが確りそれを形作っているのか、真偽の程は定かでないのだ。(母が危惧するから今は大人しく執り成している…)


 母は非常に狡猾に、遠縁の女を謎って駆け落ちた父の遠戚を名乗った。


 両父母に先立たれた私は天涯孤独、けれど親戚が手酷いといって得体の知れぬ女に頼るのもはじめは恐れた。養子名義で女の手許、手中に納まりすこし不安だった。だが存外、女の傍は居心地がいい、亡き母の面影を彼女に見ていた。

 「あなたには才能があるわ、決してそれをそのまま眠らせて置いても害がない程度の安さじゃないの。」だから、と母は巷の分厚い参考書並の書を私に贈答すると美しく笑った。夏の一昼夜に限らず受験勉強と併行して、取り組まねば為るまい、私に取って鬼の所業とも言えた。「何かしら、鈴祢すずねにしては不服そうね?」慌てて首を振った。


 無事、山を越えた私。青のセーラー服に金の三つ編み。一眼レフの御高いカメラを向けて、笑顔を強要する母。私立の茶藍すすら学園への入学手続きも済み、憩いの一時―採寸の終わり送られて来たそれを早く着込め、と言うから不承不承。だが母の要求は止まらず「ほら、ほら。折角の天気だから少しくらい笑いなさい、」美人なんだし―あくまでも散る、散る、桜吹雪に仏頂面の私が被写体に納まった一枚の写真おもいで


 それ以外に私と、あの母が積み重ねた記憶らしきものは見当たらない。


 母は唐突に消えたのだ。何かを切掛けにしてであったはずなのに、その些細な切掛けを私はこの方ずっと思い出せずにいる。それが失踪した母の最後の贈り物だという予感を孕んで―、


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