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第3節 謎の行動

    ●魁人:赤十字病院 病室にて

 さきほど友里也から報告があった。もうじきに吉崎たちが到着し、俺を解放するそうだ。この病院に潜伏中の茎の者の話では奴らの支部が一つ落ちたそうだ。同時に警視庁のほぼすべてが攪乱された。柚紀ちゃんのお父さんは亡くなったそうだ。彼は茎の幹部だったのだが、前回の戦いで呪いを受けたとのこと、はなから死は決まっていたようだな。だが柚紀ちゃんの心に深い傷を負ってしまっただろう、吉崎がうまくフォローしてあげれれば良いのだが。

(ガチャ)

誰かが病室へ入ってきた。そちらを振り向くと、そこに立っていた人物を見て驚きを隠せなかった。

「やあ、失礼するよ・・・」

月平の神差、敵の親玉がなぜこうも何度も現れるのだ。一体こいつは何を考えているのだ。

「何をしに来た・・・」

思えば結界が張られている。これでは江舞寺の者も気づけない。

「なに、とって食うつもりはないさ。今日は半時だけでいい、君と話がしたくてね」

神差はそう言うとベッドの横の椅子に座った。

「まず、詫びを入れよう。君の友人を二人も奪ってしまった。赤乙が逃がしてしまったのはこちらの過ちだ。それにより、罪もない人間を殺してしまった。申し訳ない」

本気で言っているのか、動揺させる目論見だろうか・・・

「詫びのしるしに君に僕からの贈り物だ。一つ目は情報を差し出そう。君は妹を探していたね・・・」

桜のことだな、それがどうしたというのだ。

「実はね、すでに君は彼女に会っているのだよ」

なんだと、だとしたらなぜ気づかなかったのだ。俺が驚いている様子を見て、神差は言った。

「驚いているね、無理もない。兄妹であれば本来は分かるだろう。そのうえ、僕が今言ったことで、その存在を察するものだろう。しかし、それは出来ない。なぜだと疑問に持つだろう・・・すべて明影の掛けた術による効果だ。誰も江舞寺桜を把握できない。本人さえもな。そこにいる者は別の存在と定着する。君と彼女は第六感で繋がっていたハズだね、それが今はない。それが理由だ。こうなれば明影の能力を打ち破るか、許可してもらうの二つしか把握する方法はない」

まったく誰だか察しがつかない。いるような気がするが、記憶が置いてけぼりにされているんだ。これが明影の術だと、ふざけたマネをしてくれるじゃないか

「今の君に明影を出し抜くのはまず無理だろう。よって僕から二つ目の贈り物として、これを授ける」

神差は透明に透き通る宝玉を差し出した

「これは場合によって明影の術を無効化する。次に妹に会ったとき、君は彼女を把握することが出来るだろう」

「なぜだ?」

不信に思い問いただす

「なぜ、江舞寺を憎むお前が俺にこんなことをする?何が目的だ」

神差は鼻で笑った後、俺に振り返り言った。

「たしかに僕は江舞寺が嫌いだ。だがね、君はまた別なんだよ・・・何より僕の大事な人がね、君のことを特別に見ている。だから僕は君には手を出したくないんだ。あわよくば、ともに永久の月に来ないか?」

なんだと・・・江舞寺の若である俺を誘うというのか。オヤジもそうやって唆したのだろうか

「君の妹もいるんだ。君の父上もな。江舞寺にいるよりも、こちらに来た方が有意義ではないだろうか?君が下れば、他の兄弟にも君の友達たちにも手を出さんことを約束しよう」

できない。俺は江舞寺の頭首としての責任がある。舞様や狂歌、侘眞おばちゃんを裏切るなんてことはできない。何より、俺は美弥を待たなければならないんだ。

「できないさ、そんなこと・・・江舞寺の仲間たちを裏切ることはできない。何より、俺は友を待たないといけないんだ」

「朝舞美弥のことだね」

よく分かっているな。実際、美弥の存在が大きい。俺には江舞寺に対する忠義はない。ただ、生まれ持った定めに従っていただけだ。美弥は俺の道しるべだった。今も変わらないハズだ。

「10年前までは彼女に苦戦を強いられたよ。今は行方不明らしいな。ならば、もし出会えたら二人で相談して決めるといい。両者とも受け入れよう」

一体何だ。この流れはおかしいのではないだろうか。神差は立ち上がると、俺の目の前に来て言った。

「最後に、君に問う」

そう言うと、俺の頬を触った。その瞬間、またも俺の頭に炎の光景が写る。今度は目の前で燃えながら消滅していく男の姿だった。

「やはり、そうか・・・」

目の前の神差がそう呟いた。

「今日はおいとまするよ・・・次に会うのが僕のアジトで会ってほしいものだ」

神差はそう言うと、部屋を出ようとした。

「待て!お前は、何を知っている?」

俺の問いに、神差は向こうを向いたまま言った

「そのことならば、僕ではなく明影に聞くといい。あの子の方がよく知っているだろう。そうだ、僕がここに来たことは秘密にしておいてくれ、君のボスにも明影にもね、頼んだよ」

そう言い残すと神差は消えてしまった。同時に結界は解けた。舞様、明影、神差、彼らは俺の身に宿る何かを呼び起こす。少なくともこれはこの体の記憶ではない遠い前世の記憶だ。いつぞやか、この魂が経験したことなのだろう。

 そんなことを考えていると、目の前に狂歌が瞬時の移動でやってきた。

「魁人様、どうなされました?結界の中にいらしたようでしたが?」

とても焦った様子だ

「いや、少々客が来ていた」

神差の目的はよく分からんが秘密にしろと言われた以上、言う必要はないのかもしれない。あいつが話せる相手なのかは分からないが、俺に向ける態度は微影といい悪意を感じない。それこそ計画がないようにも感じる。そう思ったのだ。この宝玉にいたっても後で狂歌か舞様に見てもらうつもりだ。ちょうどいい、狂歌に見てもらうか

「狂歌、これを見てどうだ?」

俺は宝玉を見せた。狂歌は驚いた顔をして俺を見てこう言った

「これを、誰からもらったんですか?これは神の宝玉と言って舞様しか持っていないものです。なぜ二つ目があなたの手にあるのですか?一体、ここに誰が来たと言うのですか?」

狂歌の瞳が赤くなった。俺の心を見透かそうとしているようだ。

「見えない。そうか、その宝玉は私たち妖獣の力を防ぐもの。正直に教えてください。一体、どなたがここへいらしたのですか?」

狂歌は瞳の色を戻すと優しく俺に問う。俺は黙り込んだ。

 そこに

(ガチャ)

「魁人~元気か?」

吉崎が入ってきた。

「お?どちらさんだ?」

吉崎は狂歌を見て問う

「はじめまして、江舞寺専属使用人の狂歌と申します。このたびは魁人様をお迎えに参りました」

「な、魁人はこの後、俺たちと・・」

「そちらの事情は存じ上げません!」

その瞬間、俺と狂歌は炎に包まれ狂歌による瞬時の移動をした。移動先は南原亭だった。俺の前には舞様がいらした。

    南原亭大堂:舞

 魁人の手に持つ宝玉は確かに神の宝玉だ。それもこの国のな。だが、その数は二つ。妾の手にあるものとそこにあるもの。もう一つは神差が持っていたはずじゃ。なぜ魁人の手に渡った。三つめが蘇ったのか?それとも四つめが目覚めたとでもいうのか、だとしても魁人に渡るとは考えにくい。

「魁人、ソナタに会いに来たのは神差か?」

魁人は疑問を持ったように答えた

「そのようです、少なくとも私にはそう見えました」

ありえんな、せっかくの自分の宝玉を魁人に渡すなど、もしも魁人の中のモノに気付いたのであれば、あるいは・・・いや、それを知るのは、妾とあの子だけだ。奴は知りはしない。もし、あの子が目覚め、その宝玉を魁人に渡したとしても納得は行くが、どちらにしろ、どちらかが渡したとみて間違いはないな。そうだな、宝玉に悪意はない。何のために渡したのかは定かではないが、これがあるとないとではあった方が有利だ。魁人にはこれを持たせておこう


    ●吉崎:病室

 なんだよ今の、これが柚希や辻井が言っていた江舞寺の力なのか、ガチの化け物じゃねえか。

「お前は今の奴みたいなのに襲われたのか、よく無事だったな」

「せやね、あらためて驚いとるよ・・・」

 その後、俺たちは魁人は身内に連れていかれたのだから無事だと信じ、今日の会議は魁人抜きで行うことを決めた。俺はこのとき、本格的にみんなに手を引かせた方がいい気がしてならなかったのだ。まず羽賀の危険性をみんなに言っておかなければならない。メールで羽賀に気を付けろと連絡はしておいたが、詳しいことを話す。これがまず何よりも大事なことだろう。


    ●吉崎:帯刀市役所

 俺と柚希が入口に入ると梅前が受付にいた

「あ、みんな集まってるよ。ウチは事務仕事あるからここを離れられないから後で内容教えて」

「分かった。ご苦労だな」

「今日もありがとな」

俺たちは先へ向かった。そうだよな、梅前は柚希に怖いから協力はしても参加は控えると言っていた。それでいいんだよ。俺たちは本当に危険なことをしているからな。

 俺たちが中へ入ると、そこには吹雪鬼をはじめとし、健ちゃん、矢沢、ナギ、松村、たっくん、涼さんの7人と中年男性がいた。

「これで全員か?」

俺の問いに吹雪鬼が答える。

「弥生が蘭と安美を連れてもうすぐ到着する」

「だいたい揃ってるやんか、ところでそこの人はどちらさん?」

柚紀が中年男性を見た。梅前が言うには、吹雪鬼たちの知り合いだそうだ。見覚えはあるが

「覚えてないか?」

中年男性は面白そうに柚紀を見た

「もしかして・・・」

あ、分かった。

そこへ榊が竹下と枯間を連れて入って来た。

「お待たせ~」

「もしかして蘭たち最後?」

タケシは回りを見渡している。ああ、そうだよ。

タケシが中年男性を見ると驚いたように言った

「え?先生、なんでいんの!?」

この中年男性は山上という人で、俺たち歩中生に理科を教えていた教師だ。そういえば吹雪鬼たち冒険部の顧問だったな。教師は辞めたとナギから聞いていたが、何しに来たんだよ。しかもこの人俺らの担任じゃないしな。

「山上先生なの・・・津川どうした?」

山上先生は言った

「津川先生は都合により来ない、俺じゃ不満か・・・」

「え、いえいえ・・・」

都合って失踪中なんすけど。先生はいきなりみんなに向けて言った

「そんじゃ、始めるか・・・」

この人、偉そうだな。リーダー誰だっけか・・・

「はい・・・」

俺のか細い声でみんなは席に座った。俺は気を引き締めてみんなに話す。

「まずは富田のことだ・・・これは俺ら刑事の極秘情報だが、犯行は全て京都県警に侵入していた、奴らのスパイの犯行とし、処理された。全体の警察官の中で、このことを覚えているのは俺と坂本だけだ・・・他の奴らはみんな、記憶を改善されちまった」

「そのおかげで魁人は解放してもらえたんやけどね・・・」

柚希が言うと、たっくんが言った

「そういや魁人はどうした?」

「ああ、江舞寺の使用人に連れていかれた。多分今日はここに来ないだろう」

俺がそう言うと不満そうに健ちゃんが言った

「富田を殺した奴のことは聞いてないのか?」

ああ、そのことか、聞いたことは少ないが、一応話しておこう

「魁人の話では富田を殺した奴は一度死んだ化け物だとよ」

あたりが沈黙する。普通は信じないよな。柚希が話し出した。

「どう思ったか楓ちゃんはあの女を桜ちゃんと勘違いしたみたいなんよ・・・」

たっくんはそれを聞いて言った

「間違えるか普通・・・」

「奴らは人の記憶を改善できる・・・楓ちゃんも、惑わされたんよ・・・私はその女見たけど、桜ちゃんとなんて結びつかない。まったくの別人だもの」

勘の鋭い柚希が断言する。そうなのだろうな。みんなは黙り込んでいる。

「それとな・・・みんなに伝えなきゃいけへんことがあるんよ・・・こないだ吉崎がみんなに忠告したと思うけど、実は羽賀さんね・・・」

(ガチャン)

突如、ドアが開いた。そこからヨタヨタと梅前が歩いてきた。目を見開き立ちくらみをしているような動き、明らかにおかしい。

「みんな、に、げて・・・」

梅前はその場で倒れた。

「はやみーーー!」

柚希が近づこうとした瞬間。

「動くな!」

開いたドアから羽賀を先頭に二人の男が入って来た。俺はこの二人を知っている。男たちが言った

「よおオメェら」

「元気か?」

男たちはニヤケながら言ったのだ。お前ら、何してんだよ・・・

「飯沼!」

「宇多じゃん!」

みんなは動揺している。消えた仲間が急に現れたんだ、魁人のときもそうだったよな。だがな、この構図は味方じゃねえんだよ。俺と柚紀は一斉に羽賀に銃を向けた。それに合わせたように飯沼と宇多も俺たち二人に銃を向ける。

「大河、どういうことだよ・・・」

置いてけぼりのみんなを代表してナギが問う

「こいつは人間じゃねえ・・・」

「少なくとも私たちの敵や!」

俺たちがそう叫ぶと、吹雪鬼が刀を抜き、羽賀に切りかかる。同時にヤスとタケシも飯沼と宇田に向かっていき、部屋から押し出した。

「テメェら!来い!」

「オメェらもだ!」

飯沼たちが叫ぶとゾロゾロと男たちがやってきた

「手始めにこの二人を殺せ!」

二人は同時にヤスとタケシを押しのけた。とたんにヤスとタケシに男たちが群がった。

 羽賀が俺たちに向けて言った

「江舞寺吹雪鬼、並びにその仲間たち、貴様らを抹殺する」

「望むところだ!」

吹雪鬼は羽賀を切り殺そうとしたが、羽賀はその刀を二本の指で止め

「お前をまず先に潰すとしよう」

そう言った瞬間、羽賀と吹雪鬼は消えた。

 俺が追いかけようとした瞬間、山上先生が怒鳴った

「コラー!外に出るな!死にてえのか!」

山上先生はドアの外にでると、俺たちに言った。

「しばらくここでジッとしてろ」

先生はドアを閉めた。俺はすぐに開けようとしたが、ドアはビクともしなかった。

「クッソ!」

「山上先生は何をするつもりなんやろう・・・」

榊がはやみに近づくと、首元を触った。

「やえちゃん、はやみは!?」

柚希が切羽詰まって榊に聞く、死んでいる恐れがあるが、なぜか俺はそう思わず、心配はしていなかった。

「大丈夫、生きてるよ。気を失ってるようだ」

榊の言葉を聞いてみんなは安心していた。俺は生きていると信じていたのだろうか。それとも・・・


    ●安美:廊下にて

 俺は蘭と二人で雑魚兵の掃除をしていた。しかし、何か変だ。こいつら手ごたえがない。弱いとかそういう意味でもなく、人を斬っている感覚がないのだ。何より、どんなに斬って血が出ない。そして死なない。俺たちはあっという間に敵に囲まれた。蘭と背中を合わせ俺は蘭に言う。

「どうする?」

「倒せないね。人間なの?」

蘭の疑問に宇多が槍をこちらに向けて言った

「いいとこに気付くな、こいつらは微影様に術をかかていただいた俺の部下たちだ。生身でお前らと戦おうなんてそんな危ないこと出来ねえよ!」

「俺たちは生身だけどな!」

飯沼が槍を構えると雷を纏い俺に突進して来た。俺はとっさに二本の刀で飯沼を止めた。

「おうおう、止めてくれるじゃねえか。じゃあ・・・」

「これはどうだ!」

反対側にいた宇多が薙刀を振り払う、とたんに風の斬撃が俺たちに向かってくる。

「蘭!」

蘭は妖術の黒い球で風の刃を止めた。あたりを見れば、この二つの攻撃でも雑魚兵は無傷だ。不利だな。

「う~ん、やっぱ邪魔だな・・・」

宇多が言った。飯沼が続けて言う

「ああ、お前ら!撤退!俺たち二人残して帰っていいよ」

飯沼がそう叫ぶと、雑魚兵たちの体が土人形に変わった。これが術か、本体が操っていたのだろうか。

「枯間、それに竹下、俺は加減はしねえぜ・・・」

飯沼は俺に銃を向けた。よく言うな、その銃よりもう片方の腕が持つ槍の方がよっぽど強い力を秘めているのに、ただの銃を向けるとは、やる気がないのか舐めているのか、どちらにしろ吹雪鬼の敵は俺の敵、倒すまでだがな。

宇多も蘭に銃を向けている。宇多が蘭に言う

「さっさと諦めろって、お前諦めるの得意だろ」

「言ってくれるじゃん!たしかに蘭は何でもすぐ投げだしてた。でも!好きな人を諦めたことなんか、一度もねぇんだよ!アホー!」

蘭は宇多に黒い球を5、6個投げた。宇多は薙刀でその球を跳ね飛ばし、蘭に向かってきながら

「あめぇんだよ!」

宇多は蘭に薙ぎ払おうとしたとき。蘭は腕を手前に引いた。すると、宇多の弾いた黒い球たちは蘭の元に戻ろうと、宇多の背中に直撃した。

「ッグ!なん、だと・・・」

宇多は膝を付き、苦しそうな顔で俺たちを見た。そのとき、飯沼が頭を抱えながら笑いだした

「ハッハッハ、宇多!いいザマだな!」

俺たちは飯沼に身構える。

    屋上

 すでに吹雪鬼は微影に倒されて気を失っていた

「所詮はただの人間か・・・彼とは天地の差だな」

微影は右腕を吹雪鬼に向けた。そこへ、どこからともなく山上先生が現れると、微影に問う

「その子をどうする気だ・・・どうやら殺すつもりはないようだな・・・」

微影は山上先生の方を向き

「お前が殺してほしくないと言うのであれば、私は殺そう。それとも、お前が変わるか?」

「ああ、それも悪くはない。俺が勝ったら、吹雪鬼は返してもらうぞ」

山上先生楽しそうにじっと微影を睨んでいました


    ●舞:小田原 海岸

「もう逃がさないぞ・・・妾の元へ帰るのだ」

妾の前で岩に座っておるのは妾の元弟子だ。彼女は潮風にあたりながら口を開いた

「智人君を取り返してくれたら考えは変わるかもね・・・」

彼女の名は北澤北風(ならい)、智人を追って江舞寺を去った。神術を仕込む関係で精神の束縛を解いていたことで自由を許したのだ。

「北風、もう知っておるように智人は自ら我らを去った。よもや敵だ。求めてはならん。もう一度、江舞寺に戻ってきてはくれんか、中のモノとともに・・・」

北風は少し考えておるようじゃ。少し思いとどまるような仕草をした後、小声で何かを呟いた。そのとたん、北風の妖力が別物に変わったのだ。北風の眼が桃色に光り、妾を見つめる。

「花鈴、お主の宿り木がソレか、もう何十年も前に江舞寺を抜けたソナタが、のんびりと観戦か?」

「そうね、私はただ、戦いの行く末を見てみたいのよ。ずっとおかしいと思っていたことがあってね、1200年もの長い間、永久の月との闘いは続いた。その中で私たち妖獣とあなたは強い力を持っていた、けどあなたは前線に立たない。それはなぜ?そんなに向こうの妖獣の戦うのが嫌なの?」

「勘違いをしておる、妾は何度も明影と交戦しておる」

「嘘よ、あなたもあの子も戦っていない。いつもどちらかが何かと理由を付けて戦いの場を後にする。まるで互いに壊せない絆があるようにな。あなたにとってあの子は何なの?」

その問いは誰にも問われたくなかった。花鈴は勘が鋭い。今までずっと疑問に思われとも仕方あるまいか、だが、真実は話せぬ。

「出会った当初にも言うたとおり、元は敵ではなかったのだ。それなりに仲も良かった。だから互いに傷つけ合えない。あの子にとって、ソナタたち他の妖獣たちもそうであろう」

あの子は敵である花鈴や狂歌にも手をあげない。それだけ自分の分身たちも大事にしているのだ。

「そうね、あの子が本気になれば私たちなど一瞬で倒せるかもしれない。でも今まであの子と直接戦ったことはなかった。あの子が避けていたのかもしれないね。でも、こんな状況がいつまでも続かないわよ」

言われんでも分かっておる。次に妾があの子に会ったとき、そのときが決戦となるだろう。

「そのためにも、ソナタには戻ってきてもらいたいのだがな」

花鈴はそっぽを向いて言った。

「フン、私はただ観戦してるだけさ・・・私でなく猿の方を当たってみたらどうなの?」

「その猿を手の内においてあると言ったら、どうする?」

花鈴は驚いた顔で振り返り、妾に食いつく

「見付けたの・・・?」


    屋上

「それで、あなた一人で私に敵うと思ってるの?」

「やってみなけりゃ分かんねえだろ」

微影は山上を睨むと

「そう・・・やっぱり邪魔をするのね・・・いいわ、ちょっとだけ遊んであげる」

微影は羽賀の体から離れた。山上は首を鳴らしながら二回動かすと、ほんの少し若返り。微影を指さすと、うれしそうに言った

「我、山の妖獣、名は稲荷!江舞寺に尽くす者!」

「80年も昔に逃げ出したお前がか、自分勝手なもんさね!」

微影は風をまとい、山上(稲荷)に襲いかかる。稲荷は両腕を構えると、マグマの混じった岩を作りだし微影の風の攻撃を防いだ。そして力を込めると、その岩は爆発し、マグマを大量に巻き散らせ、微影を怯ませた

「お前ごとき、いかなる技も通用しない。分かりきってることだろう!」

「だからどうした!」

二人は激しい戦いを行っていた


    ●舞:小田原の海岸

妾の説明に花鈴は納得している。稲荷はすでに江舞寺に戻った

「そういうことか・・・あいつはもうあの子と交戦中って訳ね・・・」

「ええ、だから花鈴、他の者たちにも呼びかける必要がある。一斉にな」

「いいわ、私も戻ることにするよ」

北風の体から花鈴の本体が抜け出た。

「じゃあどうぞ・・・」

妖獣たちにはコアと呼ばれる心臓のようなものがある。それはすべて無線のように繋がっているようで、一つに呼びかけると他の全てに呼びかけることができる。妾は花鈴の背中に手を入れ、コアに触れた。花鈴は少し苦しそうだ、すまんな。

「全ての妖獣に告ぐ!」

 その発声に妖獣たちが耳を傾ける。


 微影と稲荷は戦いを止め、耳をすませた

「舞さんか・・・」

微影は少し引くと、呟きました

「おのれ・・・」

微影は瞬時の移動をして消えた


    西垣亭

料理をしていた狂歌は耳に手をあてると、火を消し。真面目に聞き入った。


    街角

桜が男を消し去り立ち去ろうとしたとき、声を聴いたのか耳を押さえると、桜の首元の蛇もそれを聞いていた。


    ロシア 雪原

一匹の狼が熊を倒しました。そして周りの狼にそれを食べさせていました。その狼は突如上を見上げました


    アメリカ 途方もなく長い道路

13歳くらいの少年がバックを背負って歩いていました。そして耳に手をあてると、眼を黄色に光らせました


    海底 深い深い水の底

とても大きい嬰が現れました。そして嬰の瞳が青く輝きました


    日本 山奥の古びた神社 

そこの床下に続く井戸の底、横に鎖と札で厳重に閉ざされた扉の向こう側、大きい石球がありました。その中に眠る狸が眼を開き、その眼が橙色に光りました


「世界は脅かされておる!今こそ散らばった妖獣たちよ!江舞寺の戦力になれ!明影に告ぐ!こんな戦いは止めるのだ。お前が止めれば、誰も傷つかん、平和が来るのだ。これ以上平和を乱す行為は直ちに止めるのだ!」


 明影は呟く

「なんで、なんでよ・・・どうしてこんな!許さん・・・」

明影は唇から血を流し怒りを露わにしながらあたりに嵐を巻き起こした。

「おのれーー!!許さんぞー!!」

その様子を紫色の瞳をした桜が見ていた。


 舞は通話を終えたのち、空を見て呟く

「すまぬな・・・」


またも新キャラのお知らせです。ここで出てきた北風というキャラは前節で姉津君に話しかけた女性です。今回の節は短めかもしれませんが、内容は・・濃くはないかもしれません。

なお、次の節がこの章の最終節ですので、そちらは内容が濃くなると思います。詳しいことも語るつもりです。

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