独白と序章の序章
儂は、どうやら普通ではないらしい。
正直、普通がどういう状態なのかを体験した事がないから何とも言えないのじゃが、漫画とかアニメを見る限り、魔法が使えたり超能力が使えたりする人間は、どうやら普通の範疇から外れておる様じゃ。
ならば、儂も普通ではないのじゃろう。なにせ、儂は魔法使いじゃからな!
うむ。まぁ、兄たちからは似非魔法使いなどと呼ばれてはおるがの。唯一の味方で同じ魔法使いの姉も、全く再現性の無い特殊魔法の使い手、となんだか遠回りで面倒な言われ様を受けておるが、魔法使いには違いない、筈じゃ。
で、まぁ、普通ではない事の影響なのか、儂の日常もまた一般人のそれとは大きく異なるらしい。
ぶっちゃけ、日常的に異形怪異の類に襲われる毎日を送っておる。
いや、別にそれに不満がある訳ではないのじゃ。むしろ、儂としては願ったり叶ったりというか、せっかくある力を無駄にせず存分に使えるのじゃから、もう充実した日々と言っても過言ではない。次兄などは、どうにもそんな日々は不満の様じゃが。
だから、普通ではない事に気付いたからと言って、まぁどうも思わん訳じゃ。
儂をその様に生んだ――意図した訳ではないのじゃろうが――父母を恨む気持ちなど無いし、儂を非日常漬けにした兄姉共を憎む気持ちも無い。ちゃんと愛情は向けて貰っておるし。最近、巷で問題となっているらしい家族間の冷めた関係、というのも儂の家では無縁の事じゃからな。言いたい事はずばずばと言って、ムカついたら殴って殴られての……うむ、巷よりも酷いかもしれぬの。まだ小学生の儂にも本気でパンチしてくる兄どもは狂っておるのじゃ。山が消し飛ぶレベルの魔法を放ってくる姉はもっと狂っとるな。正面からではパワー負けするからと暗殺業に磨きをかける儂も人の事を言えぬが。
ともあれ、儂にとってはその程度の話という訳じゃ。
普通か異常かなどどうでもいい。儂は楽しければそれで良い。大局を見る気も無いから――次兄は駄目だと言うが、他を見る限り何も考えていなさそうなので大丈夫じゃろ――割と好き勝手に暴れられる。
だから、場所が変わろうと、何が起ころうと、儂はありのままの儂でい続ける事じゃろうな。
これは、そんなクソガキの日常の一端を切り取った話なのじゃ。
大草原。
小高い丘から見渡せば、地平線まで続く広大な草原が見えた。
「うむ」
見渡すのは、一人の少女。
年の頃、十一、二、という所だろう。小柄で女性らしい起伏の無い身体付きをしており、墨を垂らしたような黒髪は肩までの長さで整えられている。黒を基調としたセーラー服を着ており、更にその上からは純白の千早が重ねられている。足には木製の一本下駄。腰には丈夫そうなベルトを巻き、左右に似た意匠の刀を一対吊るしている。
なんともチグハグな格好をした少女だ。
「うむ」
彼女はもう一度肯いて、頭を困ったとばかりにかく。
「参ったの。これが異世界という奴なのかじゃろうか」
空は紫に染まり、太陽は三つある。
他に証拠はないが、地球では見られない光景に、少女――姫武・朱火は呆然としていた。