一 プロローグ
昔々、人類の希望を背負った勇者は世界に混沌をまき散らす魔王を倒し、お姫様と結婚して平和な時代を築きました。めでたしめでたし。
とある国においてそんな勇者と魔王の戦いは三百年も前の昔の話。
かつて憎しみ合い、戦争を繰り広げていた人族と魔族は今やお互いを対等の存在と認め、関係を築き上げている。
しかし互いの立ち位置が変わろうとも、魔王、勇者の両者の存在意義が変わることはなかった。
魔王は魔族の王として、民のために善政を施き。勇者はこの世の平和のために、今日も剣を振るっている。
人族は文明利器の発明により、魔族は豊富な資源を元手に、それぞれ発展を遂げた。お互い手を取り合えば、より多くの民が幸せになれるのではないか。そう考えた三百年前の勇者と魔王は共存することを選んだのだ。
二人はそれぞれの国で英雄となった。それに続き人間界と魔界、種族の境界線を越えて国交を始める国が現れ始めた。種族、見た目、文化、住まう場所は違えど、お互いの発展のために手を取り合う。そんな思想が世界には広がっていた。
もちろん反対運動が皆無であったわけではない。改革に異議は付き物だ。そしてそれは残念なことに三百年経った今でも勃発しないことはなかった。
しかしそのために勇者と魔王は存在する。
双方はそれぞれの種族の代表、象徴として誰よりもまずお互いの理解を深めようとしている。太古から続く存在意義に新たなものが加わったのだ。
今や争いで全てを解決することは賢くない。より平和な方向へ、より幸福な世界をつくるために働いている。決して、分かり合うことが不可能ということはないのだ。
人間界において大陸一の王国の城下では、貿易のために訪れた魔族と、笑顔で商売をする人族の姿など珍しくない。
大陸一豊かな王国は遥か昔に人族と魔族が協力するきっかけを作った勇者を輩出した国であり、王族はそんな勇者の末裔である。そして最も魔族との交流が多い国でもある。
国民はそんな自国を誇りに思っていたし、王家一家に祝福あれと祈り崇める。
民が生活に苦しくないのはひとえに国王の采配によるものだろう。飢饉が起これば国庫を開放し、不正を行う役人は厳しく罰し、戦争などもってのほかである。他国を侵略せずとも貿易で国益は保たれる。
おかげで穏やかな国民性が確立され、最も暮らしやすい国と称されている。
この国において、人族と魔族の隔たりの壁が非常に薄く、低いのは勇者のおかげと言えよう。国王の命令、あるいは自らの意志により、勇者は各地でトラブルが起きれば迅速かつ温厚な解決のためにすぐさま駆けつける。
彼は平和の象徴である。その称号が有効である限り、人々の心の中には安心感が維持され続ける。
人類、ひいては魔族の希望を背負った勇者は、今日も平和のために奔走している。これはそんな、新しい英雄譚のある一節の物語である。