あなたと甘い時間 ~ コンビニスイーツが結ぶ恋 ~
「あっちゃん! あれ来た?」
私はコンビニの店内に駆け込むと、レジにいた男性に訊ねた。
「よぉ、琴音。来てるよ……お待ちかねの…」
あっちゃんはそう言うと、奥から小さな箱を持って来た。
「ほらっ、『ピュアポップ』。本当は取り置き禁止だから1個だけだよ」
そう言って私の目の前に差し出したそれは、色とりどりのジュレとフルーツが入ったスイーツ。
「うんっ! 1個で充分っ! ありがとう、あっちゃん!」
嬉しくて思わずスイーツに頬ずりをすると、あっちゃんが笑いながら私からそれを取り上げた。
「まだ、会計してないだろ」
「ごめん」
「ピッ」と電子音が鳴り、画面に金額が表示される。税込で198円。
お財布から100円玉2枚を取り出し、あっちゃんに手渡す。彼はお金を受け取ると、レジのキーを叩きお釣りを私に返した。
「はい、2円。ちょっと待ってろ」
そう言うと、『ピュアポップ』に保冷剤を入れてくれた。
「保冷剤が入ってるから暫くは冷たいよ。家に帰るまでは大丈夫だろ」
「ありがとうっ!」
手渡されたレジ袋を受け取りながら、私は笑顔でお礼を言った。
「可愛い琴音の頼みだからな。しかしこれ本当に人気なんだな。入荷してすぐに売り切れだぞ」
「でしょ? だって美味しいもん。私だってまだ1回しか食べた事ないし」
「あの……すみません。『ピュアポップ』ありますか?」
不意に背後から声がして、慌てて振り返った私は思わず固まった。
「あー、申し訳ありません。もう売り切れてしまいました」
あっちゃんがその人に謝った。
「そうですか……」
がっかりした様子でコンビニから出て行こうとするその人を、私は思わず呼び止めた。
「あっ、あのっ……」
すると、その人がこちらを向いて目が合った。
や、やっぱり……恐いかも……でも…
「もっ……もし、良ければ…こっ、これ…」
私は目の前のその人に、手にしていた袋を差し出す。
「は?」
その人は訝しげな表情を浮かべた。
「これっ…『ピュアポップ』ですっ。どうぞ!」
「いや……それはあんたのだろ? いいよ、今度見つけた時にでも買うから」
そう言うと私の方に袋を押し戻し、お店から出ていった。
「おい、琴音……あいつ、知ってるのか? スゲー恐そうな奴だったけど?」
後ろからあっちゃんが訊ねた。
「うん、同じ学校の人」
私は頷きながら答えると、彼の後を追うように店を出た。
辺りを見渡すと、少し先を歩く彼の後ろ姿が見えた。
一瞬……躊躇ったけど、私は彼の後を追いかけた。
「まっ…待って下さいっ!」
息を切らせながら呼びかけると、彼が振り返った。
「あんた……さっきの…」
「あのっ…」
私はただ彼の前に『ピュアポップ』の入った袋を差し出す。
「何?」
少し苛立った様な声色が耳に届くけど、怯んじゃだめだ。
「わっ…私は、前に食べたことがあるんで、これっ……佐久間さんにっ」
「はっ? あんた…何で俺の名前……」
驚いた表情を浮かべて私を見る。
「同じ学校です……学年は違いますけど…」
俯きながら答えると、彼が小さく息を吐いた。
「だったら、俺の事は知ってるんだろ? 何でわざわざ声を掛けるんだよ」
彼……佐久間さんは、学校でもその怖そうな外見で皆から敬遠されている。だけど問題を起こす様な事はしてない。
「佐久間さんは、悪い人じゃないって知ってますから」
半年程前、私は他校の男子に絡まれてるところを、佐久間さんに助けてもらった事がある。
それからは学校で彼を見ると、つい目で追ってしまった。もう1度、話すきっかけが欲しかった。
「何を……」
「これっ、あげます!」
明らかに動揺している彼に、私は袋を押し付けて走り出した。
「あっ、おいっ!」
呼び止める声が聞こえたけど、私はそのまま駅まで走った。
「あっちゃん、お願いしてたもの……」
あれから数日後、やはりどうしても『ピュアポップ』を食べたくて、あっちゃんに無理を言って取り置きしてもらった。
「あるよ……さて、この前の話、聞かせてもらおうか?」
「うっ……」
楽しそうに私を見る、彼に思わず顔を顰める。
取り置きして貰う条件として……この前、私が追っかけて行った理由を話せというもの。
「あっちゃんには、関係ない話……」
「そーんな事はない! 可愛い琴音に関するものだぞ。気になる」
「それ……誤解されるよ」
私はため息を吐いた。
「何が?」
「あっちゃんは、鈴音ちゃんと付き合ってるんでしょ! そんな誤解を招く様な発言は止めて下さい」
「鈴は俺の大事な恋人。その鈴の妹である琴音は、可愛い妹に決まってるだろ」
「もう、その『可愛い琴音』は止めて。鈴音ちゃんの事知らない人は、私があっちゃんの彼女だと誤解するんだから」
「そうか?」
鈴音ちゃんは私の5つ上のお姉ちゃん。あっちゃんと鈴音ちゃんは同級生で中学校の頃から付き合ってて、とっても仲良し。あっちゃんは鈴音ちゃんの妹である私を、自分の妹の様に可愛がってくれていた。
あ、でも……私はあっちゃんに恋愛感情を持ったことは一切ない。あっちゃんは優しい人で、良いお兄ちゃんといった感じ。
私が好きなのは……佐久間さん。怖そうな外見だけど、私を助けてくれた時の表情はとても真剣でその横顔を見て胸がときめいた。
佐久間さん、彼女いるのかなぁ……きっといるよね。
「おい、琴音。何を考えこんでるんだ? 琴音が嫌ならもう『可愛い琴音』は言わないよ」
「是非、そうして下さい」
私が頭を下げると、あっちゃんが楽しそうに笑った。
「やっぱり、琴音は面白いよな。からかいがいがあると言うか……」
「失礼な……早く『ピュアポップ』頂戴っ!」
私が不機嫌な顔で催促すると、『はいはい』と奥から『ピュアポップ』を持って来た。
「で、あいつは琴音の何なんだ?」
「へっ?」
待ちに待った『ピュアポップ』を手にした途端、あっちゃんがそんな事を言った。
「この前、追っかけて行っただろ?」
「あぁ……うん、そうだけど…」
何て言えばいいんだろう? 友達でもないし……勿論、恋人でもない……
私が考えていると、あっちゃんが入口へ視線を向け『あっ』と呟いた。
自動ドアの開く音がして、思わずそちらへ目を向けた。
「良かった! やっと、会えた」
そう言ったのは佐久間さんで、私は目を瞠った。
「な、何で?」
それだけを言うのがやっとの私に、彼は近づいて来ると私の手を掴み何かを手渡した。
「はっ?」
「198円。『ピュアポップ』の代金だよ」
思わず自分の手を見ると、確かに100円玉が1個、50円玉が2個乗っていた。
「200円ですけど?」
「細かいのが無いんだよ。いいよ……2円は」
すると佐久間さんは、私に背を向けてそのままお店を出て行こうとした。
「まっ、待って下さい! 2円…2円返しますっ」
「いらねぇ……」
振り向きもせずにそう言って、お店を出て行ってしまった。
「おーい、琴音。いいのか? 追っかけないで?」
その場から動けない私に、あっちゃんが呼びかけてくれて我に返る。
そして、出て行った彼の後を追いかけた。
「佐久間さんっ、ま…待って下さいっ」
彼の背中に向かって呼び掛けると、佐久間さんが私の方を向いた。
「何だ? 金は返したぞ」
「ちっ、違います。この前の『ピュアポップ』喜んでもらえましたか?」
誰にあげたのかは分からないけど、私は話をするきっかけを見つけたくてそう訊ねた。
「あぁ……美味かった」
「そうですか……美味しかった……え?」
咄嗟に佐久間さんの顔を見ると、気まずそうな表情を浮かべていた。
「えっ? あの……もしかして、あれ…佐久間さんが食べたんですか?」
まさかと思いながら、恐る恐る訊ねると彼は更に顔を顰めた。
「……悪いか?」
「佐久間さんて……甘党ですか?」
「………」
佐久間さんは答えないけど、頬が少し赤くなっているのを見て思わず笑みが浮かぶ。
「何だよ? 俺が甘いのを食ったら可笑しいかっ」
自棄気味に言う彼に私は首を振る。
「違いますよ……嬉しいんです。私が好きなスイーツを佐久間さんも美味しいって言ってくれたから…」
私の言葉に、佐久間さんは驚いた表情を浮かべた。
「笑わないのか?」
「何でです?」
「だって……みんなから怖がられている俺が、甘いものが好きなんて笑えるだろ?」
「そうですか? 別に可笑しいとは思いませんよ」
首を傾げながらそう答えると、佐久間さんは少し安心した様な表情を浮かべた。
「あの……もし良かったら、今度から私が買っておきましょうか? さっきいたコンビニの店員さん……知り合いなので1、2個なら取り置いてくれると思います」
私の提案に佐久間さんは少し躊躇っていた。
「だけど、迷惑だろ?」
「いいえっ、1個も2個も大して変わりませんよ」
そう、これをきっかけにもう少し佐久間さんとお話をしてみたいし。
ニコニコと笑みを浮かべる私に、彼は視線を逸らして頷いた。
それからは毎週金曜日---私はあっちゃんに、私と佐久間さんの分の『ピュアポップ』を取り置きしてもらっていた。
「なぁ……琴音、お前とあいつ、どうなってんの?」
今日も2人分の『ピュアポップ』を買う私に、あっちゃんが訊ねた。
「どうって? 」
「付き合ってるのか?」
あっちゃんの言葉に顔が赤くなるのが分かる。
「なっ、つ、付き合ってないわよっ、そんな事…言ったら……佐久間さんに迷惑になる」
「そうなのか? 俺はてっきり……琴音は好きなんだろ? あいつの事」
「……っ」
もう、恥ずかし過ぎてあっちゃんの顔が見れない。
俯いた私の頭をあっちゃんが『よしよし』と撫でてくれた。
「琴音も恋する年頃になったんだなぁ……俺、少し寂しいかも…」
「何よ…それ。あっちゃんには鈴ちゃんがいるでしょ」
「鈴は恋人……琴音は妹か娘みたいなもん? 何か兄貴か父親になった気分だなぁ」
あっちゃんが感慨深く呟いた。
「じゃ、毎週2人で会って…何してんだ?」
「……何って…2人で一緒に『ピュアポップ』食べてるだけだよ…」
「はぁっ? 何だよ、それっ!」
私の返事にあっちゃんが呆れた様な顔をした。
「お前ら……今時の小学生でももう少し進んでるぞ…」
「へ?」
進んでるって? 何が?
首を傾げる私に苦笑いを浮かべながら、あっちゃんは保冷剤を入れた『ピュアポップ』を手渡してくれた。
「まぁ……そこが琴音の可愛いところだけどな……あいつが気の毒かも…」
「気の毒って? 私、佐久間さんに何かした?」
『ピュアポップ』だけじゃ、駄目なのかな? あ、1個じゃ足りないのか。
「あっちゃん! 今度から3個お取り置きお願いね」
「はぁ? 何でいきなり3個?」
「えっ、だって『気の毒』って、1個じゃ足りないって事でしょ?」
私の返事にあっちゃんが頭を押さえる……何か、間違ってる?
「そ、そうだな……うん、分かった。3個、置いててやるよ」
「ありがとう、じゃ……またね」
私は笑顔であっちゃんに手を振ると、コンビニを出て待ち合わせの場所へと急いだ。
「ご、ごめんなさい! 遅れてしまって……」
急いで待ち合わせた公園へ行くと、佐久間さんが既にベンチに座りスマホを弄っていた。
「いや……俺も今さっき来たばかりだから……」
彼はそう言うと、ベンチの端に移動して私が座れるように場所を空けてくれた。
私は佐久間さんの隣に少しだけ間を空けて座ると、コンビニの袋から『ピュアポップ』を取り出して彼に渡す。
「わざわざ、ありがとう……大変じゃないのか? いつも……」
「平気です。私も食べるのを楽しみにしてるので」
笑顔を浮かべながら答えると、いつもは厳しい顔つきの佐久間さんがフッと笑みを浮かべた。
「……っ!」
佐久間さんの笑顔は普段の恐そうな印象と違って……目尻が下がりほわっとした表情になった。それが可愛くて、思わずその笑みに目が釘付けになる。
まじまじと見つめる私の視線に気づいた彼が、その貴重な笑顔を引込めて怪訝そうな表情を浮かべた。
あーっ、残念……もう少し見ていたかったのに。
「何?」
ガッカリした表情の私に、佐久間さんが窺う様に訊ねた。
「あ……いえ、佐久間さんの笑顔、初めて見たので…」
さすがにもっと見ていたかったとは、言えなかった。
「……さ、さっさと食べようぜ。冷えてるのが温くなるっ」
そう言ってパッケージを開けて食べ始めた彼の顔が……心なしか赤い?
私は黙々と食べる彼を横目で見ながら、一緒に『ピュアポップ』を食べた。
いつもはフルーツのジュレとはじけるキャンディーを美味しく味わうのに、今日の私は隣の佐久間さんが気になって何の味も感じる事は無かった。
「あー、美味かった。ありがとうな……はい、198円」
佐久間さんは食べ終わるといつも『ピュアポップ』の代金198円を差し出す。
私はそれを受け取ると、小銭入れの中へ。
そしてその場でさようなら。また来週までは佐久間さんと会う機会はない。
「じゃ……また来週…な」
私が食べ終わるのを待ってから、佐久間さんはそう言ってベンチを立ち上がる。
「はい…あっ、あの…来週は佐久間さんの分、2個持って来ますね」
「2個? 何で?」
「足りないかと…思って…」
「え、俺…1個で充分だよ。2個は無理だ」
「そうなんですか? じゃ、あっちゃんに1個はキャンセルって言わなきゃ…」
私がそう呟くと、佐久間さんが躊躇いがちに聞いて来た。
「彼……お前の彼氏?」
「あっちゃんですか? ちっ、違いますっ、仲は良いですけどっ…」
彼がそんな事を訊ねるとは思っていなかった私は焦った。
「そうなんだ…ごめん、変な事聞いて。俺には関係ないのにな……それじゃ、また来週」
そう言うと佐久間さんはさっさと公園を出て行ってしまった。
関係ない……か。そうだね、私達はただの『ピュアポップ』大好き仲間で、一緒に食べるだけの関係だもんね。
もしも……『ピュアポップ』が無かったら、こんな風に一緒に過ごせなかったんだな……と私は思った。
学校ではなかなか顔を合わせる機会が無く、本当に週1回の待ち合わせだけが私達を繋ぐ唯一の約束。だから『ピュアポップ』を買う事は、私にとってはとっても大事な事だった。
それなのに……
「ごめんっ、琴音っ! 今日はないんだっ!」
いつもの様にコンビニに行くと、あっちゃんが申し訳なさそうに私に謝った。
「えっ、何で? 2個はいつも取り置いてくれてたのに……」
だから安心して買いに来ることが出来たのに……
「それが……発注ミスをしたらしくて、今日の入荷がないんだよ…本当にごめん!」
頭を下げるあっちゃんを見て、小さく溜息を吐いた。
「いいよ……あっちゃん。そんなに謝んないで。取り置く事を無理してお願いしたのは私だもん……私の方こそごめんね」
「…琴音」
「あー、でも佐久間さんがっかりするだろうな……早く行って謝らなきゃ……あっちゃん、私行くね……来週はお願いします」
「うん……分かった」
あっちゃんが頷いたのを見て、私はコンビニを後にした。
佐久間さん……がっかりするだろうな。
急がなきゃいけないのに足取りは重くて……公園の前まで来ると、私は入口で立ち止まってしまった。
他のコンビニに行ってみようか……もしかしたら、あるかもしれないし。
そう思って踵を返そうとした私の腕を誰かが掴んだ。
驚いて見ると……佐久間さん。
「何してんだよ……さっきから…」
「……っ」
見られていた事が恥ずかしくて俯く。
「ほら、行くぞ」
そう言って私の手を握ると、いつものベンチへと歩いて行く。
「あっ……あのっ、さ…佐久間さんっ」
私は彼の背中へ向かって声を掛ける……今日は『ピュアポップ』無いんです…と言う為に。
「何だ?」
彼は振り向きもせずに私へ返事をした。
「ごめんなさいっ……き、今日は『ピュアポップ』無くて……だからっ」
そこまで言った時、ベンチの前までやって来ていた。
「……大丈夫だ。今日は……俺が買って来た」
「えっ?」
驚いて彼を見上げると、いつもよりも真剣な表情の佐久間さんが私を見下ろしていた。
「どう……して?」
私の問いに彼は暫く黙り込んでいたけど、大きく息を吸い込むと一気に話し始めた。
「いつも……琴音が買って来た『ピュアポップ』を俺は食うだけだから…」
佐久間さん……今『琴音』って呼んだ?
私は初めて彼が名前を呼んでくれた事が嬉しくて、彼の顔をじっと見つめながら話を聞いていた。
「だから……今日は俺が琴音の分も買おうと思って……彰人さんにお願いしたんだ」
彰人さんって……あっちゃん?
「そしたら、彰人さんが『琴音をよろしくな』って……ごめん、俺……彼に誤解される様な事をした。琴音は彰人さんが好きなんだろ?」
え? 佐久間さん、何を言ってるんですか? 私が……あっちゃん?
私が心の中で疑問符を飛ばしている間も、佐久間さんは辛そうに話し続けていた。
「でも……俺、彰人さんの誤解を解かなかった……俺は、琴音が好きだから…『ただの友達なんです』なんて言えなかった。ごめん」
嘘……私を好き? 誰が?
「誰が……私を好きなんですか?」
思わずそんな事を呟いてしまった。だって……彼が私を好きなんて…有り得ない。
「俺がっ、琴音を好きなんだよっ!」
私の呟きに、ムッとした様に佐久間さんが答えた。
「最初は……ただ一緒に『ピュアポップ』を食べるだけで、何とも思ってなかった……だけど甘いものが好きな俺の事を笑わずにいてくれて、毎週…欠かさずに俺の分も買って来てくれる琴音と……会うのがいつの間にか楽しみになってた」
「本当ですか…?」
躊躇いがちに訊ねる私に彼は頷いた。
「うん、毎週…俺と会う時、待ち合わせ場所に走ってやって来る琴音を待つのが嬉しかったんだ。だけどその気持ちが何なのかに気づいたのは最近だった」
「え?」
「琴音が彰人さんの事を話す度に、胸の中がモヤモヤして苦しかったんだ。琴音に『仲が良い』って言われた時、やきもちを妬いている自分に気づいた……何で、俺じゃないんだ?って」
「あっちゃんは……鈴音ちゃんの…私のお姉ちゃんの彼氏です」
誤解されたくなくて私は鈴音ちゃんの事を話した。
「うん、彰人さんから聞いた……俺、『ピュアポップ』を買いに行った時、『俺は琴音が好きなんです……あんたは彼女の事、どう思ってるんだ?』って聞いたら『琴音は俺の彼女の妹だから、俺にとっても妹だよ』って……そして『琴音に告白してみたら? もしかしかたら上手く行くかもしれないよ』って、これを渡してくれたんだ」
そう言って佐久間さんが見せてくれたのは……『ピュアポップ』と『初恋ショコラbitter』だった。
思わず首を傾げた私に、『何故かこの2個を持って行けって言われたんだ』と答えてくれた。
2人でベンチに並んで座りながら、2つのスイーツを袋から取り出す。
すると袋の中から小さな紙が落ちた。拾って文字を読むと……思わず顔が赤くなる。
--- 琴音へ、佐久間君から『ピュアポップ』と『初恋ショコラbitter』を貰っただろ。2つのスイーツのキャッチコピーが今の2人に合ってると思うから選んでみたけど…どう? 「はじけるコイ……してみない?」「ねえ、きみと甘さの先も知りたい」なんだけど、佐久間君にはキャッチコピー教えたから渡されたなら彼の気持ちだと思っていいよ。琴音にも恋がやって来たね。おめでとう ---
あっちゃん、こ…こんな事書かれると、恥ずかし過ぎて…佐久間さんを見れないじゃない!
「琴音? どうかしたのか?」
俯いた私を心配するように、佐久間さんが覗き込んだ。
「あの……本当に私の事…好きですか?」
聞きながら恥ずかしくなってきた。
「あぁ……好きだよ。琴音は迷惑?」
悲しげな表情を浮かべた彼に慌てて首を振る。
「ちっ、違いますっ。私も…佐久間さんが好きです……たぶん、助けてもらった時から…」
「は? 助けたって……」
「半年以上前になりますが、他校の生徒に絡まれていた時に佐久間さんに助けて貰って……あれからずっと気になってたんです。だから『ピュアポップ』は近づくための口実っ……さっ、佐久間さんっ!」
話の途中で彼に抱き締められた。
「あの時の生徒が琴音だったんだ? ごめん、思い出さなくて……」
「いいんです。ただ見てるだけで良かったんですから」
そう、見ているだけで充分だったんだ……あの頃は。
「……今は?」
「え?」
「今はどうなんだ? 見てるだけでも良いのか?」
佐久間さんは窺う様に、腕の中の私を覗き込みながら訊ねる。
「見てるだけでは物足りないです。もっと、佐久間さんの事…知りたいし、週1回だけじゃなくて毎日会いたい」
「……俺も同じだ。なぁ、琴音……俺と甘い時間を一緒に過ごしてくれるか?」
「はい、これからも佐久間さんと一緒にスイーツを食べたいです」
私の返事に、彼は驚いた様な表情を浮かべた後、ニッコリと微笑んでくれた。
「そうだな……こんな風に一緒に過ごそう」
私を抱き締める力が強くなったけど、それが嬉しくて背中へ腕を回した。
「まぁ……もう少ししたら……もっと甘い思いをさせてやるから……琴音、覚悟してろよ」
佐久間さんの腕の中で幸せな気分を味わっていた私には、彼の囁きは聞こえていなかった。
そして……彼の言った言葉が実行されるのは、それから暫くしてからの事。
スイーツ好きな強面の佐久間さんは、私にはとてもとても甘い彼氏だった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。