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最初の夜


無言で部屋の扉を開けると、廊下の先で我が愛犬まかろんが伏せて待っていた。その光景に、私はかつての自宅をフラッシュバックして、重ねた。地球を離れた直後はそんなに感じなかった焦燥感が、時間を経て増していく。

今頃地球はどうなっているのだろう。一連の破壊事件は解決したのだろうか?藤名家の一件は報道されているのだろうか?妻と娘と愛犬を失った父は今頃──────


気付けば、頬に涙の粒が伝っていた。

地球では一滴も流さなかったというのに、気付いたら泣いていた。


まかろんが私の異変に気付いて駆け寄る。犬に表情なんてないが、小さく尻尾を振って見上げる様はまるで私を慰めてくれているようだった。


私はしゃがんで、その白い毛だらけの頭を優しく撫でながら、 頬に伝った涙を拭う。

やめよう。もう地球のことを想うのは。私はもう地球人ではないのだ。あの世界とはキッパリ縁を切った。またあそこで命の危機に瀕するくらいならここで安全な暮らしを送るほうが私の為じゃないか。居所にこだわって死ぬより、どんな場所でも生きている方が、汐理やお母さんだってきっと喜んでくれる。


私はまかろんを抱えて立ち上がり、部屋に入った。

室内はまかろんのためにつけた卓上ライト以外、すっかり暗くなっている。部屋の二面全面を占めるガラス窓も、今はカーテンを閉めているために外の光源は一切入り込んでいない。


この辺にスイッチがあったはず、と壁を触っていると突起に触れた。これだ。

スイッチを押すと瞬時に天井から垂れ下がった絢爛な照明が白く光る。

しんと静まる部屋。必要最低限の家具と、一纏めになった私の荷物しかない白けた部屋。

私はソファーに座り、まかろんを膝に乗せる。テーブルの上のリモコンに手を伸ばし、テレビのスイッチを入れた。

やっているのは、ニュースのようだ。基本的なスタンスはあまり日本のニュース番組と違いを感じない。アナウンサーらしき、原稿を読み上げる人も人間だし、内容も特別突飛したものではない。何より喋り言葉・テロップが全て日本語────と言う名の宇宙共通語なので異国のテレビ番組感がまるでなかった。異国というか、異星だが。

普段のニュース番組を流し見している私にそんなものが目に留まるわけもなく、ものの数秒でテレビのスイッチを切る。


「…………寝よ」


時刻は23時。いつもなら平気で起きている時間だが今はとにかく目蓋が重かった。

まかろんを膝からおろして、のそのそとロフトの方まで歩く。

階段を昇って、改めて正面からベッドを見ると、寝転がるのを躊躇うくらい綺麗に整えられた純白の布地に、所々金色の刺繍が施されていた。そうして実際に、ベッドに倒れ込むのを躊躇ったが次の瞬間、気付けば目の前には真っ白な景色が広がっていた。

ベッドに寝転がると、急に眠気が増す。

私は布団にくるまり、その中にまかろんを招き入れ、まばたきのように自然に、目を瞑った。

そこから先の意識は、全くない。


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