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対決

 医療センター管理棟の地下、200mの深さに作られた極秘の区画に、一行は降りていった。巨大なエレベーターホールから水平に移動したその先に、ほぼ白一色で塗られた円形の空間。

 その中央に穿たれた『ケージ・ピット』と呼称される竪穴の中に、円形ステージのような一段高くなった台座があり、その上にラピスが写真で見たままの物体があった。

 胎児のように、あるいは屈葬人骨のように体を折り曲げ、顔に当たる場所を腕で覆った、人形(ひとがた)。写真で見られたような表面の土は取り除かれ、金属質の輝きを帯びた黒っぽい外観をしている。あの写真は恐らく、発掘されてすぐの状態を写したものではないかと思えた。


「これが……『Principal』か。確かに似ている、あの『銀色』――千尋たちの言う『鏡面(ミラーフェイス)』に」

 目の前の物体から受けた印象を、ラピスが口にした。

「だがこいつには翼があるようだ。これが『天使』の根拠というわけか……」

 ばかばかしい、とラピスはその思考をつま先でどこかへ蹴飛ばした。翼など、天使は言うに及ばず鳥にでも悪魔にでもある。西洋のドラゴン、地中海のセイレーン、翼持つものは枚挙にいとまがない。

(エルフだのなんだのの尖った耳と同じだ。『人間ではない』という記号にすぎん)

「しかし、大丈夫なのか。これのこんな近くに、遮蔽もなしで。STORMはこれが発生させるのだろう?」

「心配いりません。電磁波嵐が観測されるのは、いつも地表部分だけです。こいつは多分、人間を狙ってそれを起こしてる。地面の下にはそれほど沢山いないってことを知ってるんじゃないかな」

「ヴィエニャフスキ」と読める名札を胸につけた、古参研究員の一人がそう言った。

「なるほど、吐き気がするな」


 千尋は基礎麻酔を施され、ケージピットの傍らにあるベッドの上に裸体で横たえられていた。心電計のモニタ電極をはじめ、無数の計測機器が取り付けられ、失禁に備えて尿道にはカテーテルが挿入されている。半ば朦朧とした意識に、羞恥心のそよぎはない。

「気分はどうかね?」

 ミルトンがベッドの傍らまで下りてきて、千尋に声をかけた。

「特に、問題……ありません……すこし、寒いかな」

「そうか、わかった。これを」

 体の上に、薄いタオル地の毛布が掛けられる。

「君がSTORMの影響を免れるメカニズムは、科学的にはまだ解明できない。脳の、我々には見つけられない微小な変異かもしれないし、純粋に精神性の問題かもしれん。できればそれを研究する時間がほしかったが……」

 ミルトンは奇妙な形をしたヘルメットのようなものを、千尋の頭蓋に被せた。

「我々の科学者たちによる研究の、一つの集大成だ。これを介して君の脳と『Principal』とは電気的に接続される。意識をつなぐ、と言ってもいいだろう。基本的な原理は脳波計と似ているが、これは接続相手の『意識』をお互いに理解できる形で送受信させ、我々は主に君の脳が描くイメージを、CG映像としてモニターすることが可能だ」

「凄い……ですね……」


「さあ、ではリラックスして。危険な反応が現れた場合は、そこで実験は中断する、安心してくれ……」

「行って、きます……」

 点滴で送り込まれた薬物が、千尋の意識状態を変化させていく。

 目の前がうす暗くなり、ミルトンの顔がいくつにも増殖してぐるぐると回り始めた。視界が完全に闇に包まれると、その中に紫がかった光の雲が現れ、千尋はその光が次第に『門』として認識されていくように思えた。


 すっ、とそれを潜り抜けた。ほぼ視覚だけだった千尋の主観的知覚の中に、やがて普段の制服を付けた自分の姿が現れる。奇妙なことに、その時、千尋は自分の姿を第三者的に斜めやや上方、後ろから見ているように感じていた。


 実験の前に予想していたような苦痛や恐怖は、今はなかった。ただ静まり返った、空っぽの劇場のような印象。距離感のない白いホール。


         * * * * * * *


「被験者の生命徴候(バイタル)、安定しています。脳波、心拍、呼吸すべて異常ありません」

「結構。だがどんな変化も見逃すな。前例のない試みなんだ」

 研究員たちの冷静な読み上げと、ミルトンの指示が実験室に響く。


 壁面のモニタースクリーンには、純白に塗られたホールのような場所に立つ、千尋の後姿が映っていた。

 その映像が次第に変化していく。立っていた床が消え失せ、千尋の姿は、ちょうど夢の中で飛ぶ時のような、足先を後ろへ残した前傾姿勢になった。

「『Principal』の内部電位が高まっていきます」

「被験者のイメージ映像に有意味な変化が現れた。接触したのか?」

「脳波に変化。『Principal』の電位脈動とシンクロしているようです」


(『デート』の始まりというわけだな)

 少女と怪物とを同じベッドに上げ、成り行きを見守る。見ようによっては救いがたいほどに悪趣味な見世物だ。ラピスはうんざりした思いで画面を見守った。



         * * * * * * *



 千尋は闇の中に浮かんでいた。千尋の心象イメージではそこは足元に深く口を開けた深淵をのぞき込む崖の上と感じられた。無限の深さに落ち込んでいく奈落。その奥底では発光する赤い霧のようなものがゆっくりとたゆたい渦巻き、星々が瞬いていた。


――ここ、前にも来たわ……ああ、宇宙なんだ、ここは。

 唐突に千尋はそう理解した。その瞬間、奈落の底にあった星々が浮上し、幾条もの光となって千尋の周りを駆け上がっていく。満天の星の海が目の前に広がった。

(凄い……)

 空気のよどんだ都会の夜の底にはとどかない光。たとえ空気の澄んだ高山に登ろうと、この半分にも及ばない。だが、その光の海の中で、『それ』が発した叫びを千尋の心は聞いた。触れ得るものが何もない。どこにも手が届かない。孤独。

(寂しかった。そうなのね?)

 今、自分の肉体とケーブルを介して繋がっているものは、きっと恐ろしいほどの距離を何者にも触れずに飛翔してきたのだ。


 星の海が上下に切り裂かれ、切断面に灰色の平面が現れる。サン=ロレ島への移動中に見た、ブルターニュの海と砂浜を連想した。

 そこに、『鏡面(ミラーフェイス)』が――いや、『Principal』が立っていた。それには複数対の、半ば非物質的な光でできた『翼』があった。


『Principal』の周囲に、いくつもの人影が現れた。それは次第に増えていく。無限遠の彼方へと広がる灰色の野を埋め尽くしていく。

 千尋の脳に加わる圧力が高まり、再びあの耐え難い不安と恐怖、孤独が沸き上がった。


――そうか、これは私じゃない。『Principal』の感じていたものなのね――


 Principalが震え、声のない咆哮を上げた。


 顔のない人波に変化が起きた。千尋たちのいる場所を起点に、人影の一つ一つがPrincipalとよく似た姿に変わろうとしかけて――あるものはそのままはじけるように消滅し、あるものは変化を拒絶するようにもがいた後、ねじ曲がり歪んだ姿で固まった。その奇怪なビジョンはPrincipalの咆哮とともに拡がっていく。



         * * * * * * *



「電位が急上昇していく……このパターンは! 局長、このままではSTORMが発生します! この実験室は大丈夫ですが、地上が……」

「STORM警報(アラート)を発令しろ、 急げ! 励起(アタック)タイムは?」

「予測、一分後です!」

 一分ならいっそましだ。ラピスは壁の有線電話に手を伸ばし、オフィスを呼び出した。

「ノーマン、そこにいたか。私だ。STORMが発生する。可能な限り、学生と一般職員の避難を助けろ」

〈はい! 隊長のご命令とあらば!〉

 ノーマンの応答の声は、ひどくうれしそうに聞こえた。



         * * * * * * *



「フェイスアンカー、投錨(レッゴー)!」

 崇はアンカーを装着、起動した。STORMが吹き荒れていた。ビアンカとラエマ、それにほかの学生たちが心配だが、今はどうすることもできない。前回の真正STORMをはるかに上回る強烈な圧力が脳を襲い、測鉛アラートがけたたましく鳴り響いた。

〈バイザマーク――ファイブ! バイザマーク――ファイブ!〉

「いきなりファイブか。だが、好都合だ」

 STORMの浸食度は、崇の変容体としての能力にも比例的に影響する。


「現れたな、鏡面(ミラーフェイス)! 決着をつけてやる!」

 叫ぶ崇の前方に、背中を向けて『鏡面ミラーフェイス』が立っていた。沖の艦艇群を睥睨するように立ち、両手を高く掲げて。その全身には、紫の電光がまとわりついていた。

「あのふねに、STORMを誘導してぶつけるつもりか」

 そんなことはさせない。もしかすると、こいつは自分なりに、この島を守ろうとしているのかもしれない。だが自分は人間だ。人間の論理と、倫理に従って行動する。


 背中の排気ノズルを全開。『鏡面(ミラーフェイス)』に向けて疾走する。襲撃者に気づいた『鏡面(ミラーフェイス)』が崇に向き直った。

 圧搾空気を噴射し、空中へジャンプ。高空からの跳び蹴りを見舞おうとする崇へ、あのオレンジの氷柱が放たれる。

 キックのために落下の軌道を固定したと見えた崇は、だが氷柱が直撃する寸前、ふわりと空中に浮き上がり、滑った。氷柱はむなしく外れ、そのまま崇は『鏡面ミラーフェイス』の至近距離に着地した。


――その背中には、個人降下翼が装着されていた。落下の途中でアクチュエーターを稼働させて、翼を展開して軌道を変えたのだ。

「お前は半ば、非実体的な存在らしいな。殴ろうが蹴ろうが、手ごたえがない。びくともしない。しかし!」

 再び『鏡面ミラーフェイス』が光の氷柱を生成する。直撃すれば恐らくは体幹部の肉に深々と食い込んで内臓を損傷させ、次の瞬間炸裂して崇を死に至らしめるだろう。だが、発射前のその一瞬を、崇は狙っていた。

その光の氷柱(そ い つ)には実体がある! どんなに科学の常識を外れていても、この次元に存在しているよな! なら、撃ちだす瞬間のお前は、実在する物体に極めて近づいているはずだ――俺を殴るときも!」


 一度戦って生還すれば、次の対戦で見えてくるものもある。個人降下翼はそう長時間の稼働はできまいが、その間に決着を付ければいい。

 崇はカウンター狙いで直接打撃を待ち受け、氷柱射出の瞬間をうかがって縦横に飛び回った。


         * * * * * * *



――これは……これがSTORM……!――


 これまで立ちつくしたままだった『Principal』にも変化があった。歪曲した人影の一つ一つを触れ、撫でまわし、時に抱きしめるように覗き込みながら歩き回り始めたのだ。

 特に自分に近い形にとどまったものには、非常な執着があるようだった。だが、そうした相似形のものも、さらに異なる形へと緩やかに変化し、やがてそのいくつかは拡散していく。『Principal』がそれを追うように、虚空に伸ばした腕を彷徨わせた。


(理解……したかった? 理解されたかった?)

 星空が雲で閉ざされ、再び開いた空に巨大な恒星が明るく輝いた。肯定のしるし――千尋はそう解釈した。


 だとしたら、何という見当はずれで愚かなやり方だったことだろう。千尋の心は怒りよりも、むしろ悲しみで満たされた。

(間違っている! 異質なものを理解したい、理解し合いたい――それは当然だわ。でも。理解できない異質なものを、『自分を理解してくれるもの』にするために、自分と同質の存在に変えようとする。それは間違っている!)

 情動を言葉に変え、思念の奔流として叩き付ける。

(それは、ただ自分と同じものを作るだけ! あなたが理解したかった『異質なもの』は消え失せて、あなたはいくつもの()()見るだけになるのよ。それではあなたの孤独を癒すことは、誰にも、永遠に、できない!)


 言語で構成された人間の思考を、異質な鉱物生命体がどこまで理解できるのか。それは千尋にはわからないことだった。だが、千尋は自分の叫びに対する『Principal』の反応を視覚的なイメージ、どこか無言劇(パントマイム)に似た身体の動作として感じ取った。

 心象風景の中の『Principal』にそれは投影され、目の前の姿は頭を抱えて体を左右に振り、うずくまってはまた伸びあがる。



         * * * * * * *



 二者の動線が交差する。崇は遂に、『鏡面ミラーフェイス』を捉えていた。原因はわからなかったが、この数分、『鏡面ミラーフェイス』の動きは著しく鈍くなっていた。

「ケンカの最中に、他のこと考えてるんじゃないだろうな、お前」


〈バイザマーク――スリー! バイザマーク――スリー!〉

 アンカーは測鉛(レッド)アラートを悲鳴のようにがなり立てるが、崇はもはや意に介さなかった。

 殴りつけてくる腕を巻き取る。訓練で崇を散々しごいた教官の拳打に比べれば、それは単調な攻撃だった。拳。膝。足尖。末端やはっきりした関節部にしか攻撃の意識がこもっていない。いうなれば桁外れのパワーを持つ素人だ。


 崇は相手の腕を固定したまま、非実体化する直前に肘で顔面に一撃を加えた。

「この間もそうだった。お前の動きは、重力に逆らっている。だからお前自身のパワー以上の威力がない」

 実体を持たないはずのV字型の顔に、亀裂が入っていた。『鏡面(ミラーフェイス)』は著しく戦意をそがれたように見える。数歩よろけると、その輪郭がぼやけ始めた。

「逃げるんじゃねえ!」

 走り寄って渾身の力を籠め、その胴を殴りぬける。ダメージを与えられたかどうかはもうわからなかった。崇のわき腹は、何度目かにわずかに回避し損ねた『氷柱』によって、ざっくりとえぐられていたのだ。そのまま、銀の立像は姿を消した。

「は、やっぱり俺は情けないな」

 丘の斜面に手足を投げ出して横たわり、崇は笑った。口の中に血があふれるような傷でないらしいのがありがたかった。誰かが早めに発見してくれれば、死なずに済むだろう。

 沖でフリゲートが停船しているのが見える。何らかの理由で侵攻を中断したらしい。千尋の安否が結局わからないのは気がかりだったが、崇は結果に満足していた。



         * * * * * * *



 千尋は、叫び続けていた。

(あなたの放出する変容の影響力(インフルエンス)――STORMを受けつけない私は、あなたの望んだものからは、多分一番遠いのだと思う。でも! ほら、私を見なさい。あなたのすぐそばで、あなたと繋がれている私を! 私は、あなたの渇きと苦しみを、理解しようとしているわ!)


――何も変わらず、私のままで!


 最後の独白は千尋の小さな胸のうちにとどめられたはずだったが、その揺らめきは『Principal』によって受け止められたように思えた。宇宙そのものの重さに等しいほどの真摯さと、優しさをもって。なぜなら――


 千尋の心の中に、彼女自身のものではないはずの痛みが。死の床に横たわるような自責と悔恨の念が。濁流のように流れ込み、次の瞬間、それが心象の天球を輝きとなって塗りつぶしたのだ。 


         * * * * * * *



 計器をにらんでいた研究員が、声を上げた。

「励起状態だった電位が下がっていく……平衡状態に戻っていきます」

「地表のSTORMも終息していきます。解放(レリース)タイムに移行」

 それは、規模と強度から考えれば、ひどくあっけない終焉だった。


「我々は、STORMによって変容した『難破者レックマン』たちの中に、『Principal』と対話できるものが現れるのではないかと考えていた……だが、それは間違っていたのだな……」



 その時、ケージ・ピットの底に安置された現身の『Principal』の傍らに、銀色の揺らぐ影が現れた。

「あれは!」

 影は数秒後に完全に結像し、『鏡面(ミラーフェイス)』そのものになった。

 ブースに座っていた研究員の数人が腰を浮かせる。だが、『鏡面ミラーフェイス』は彼らに何の関心も示していなかった。

 頭部にダメージを受けたその姿が、鉱物めいた己の似姿の上にかがみこみ寄り添って、やがて一つに重なり溶け込んでいく。数秒後、それは完全に『Principal』と一体化し、台の上は静まり返った。


「映像……いや、半ば物質化した思念体……分身(アバター)とでもいうべきか……」

「被験者の脳波も平衡状態に近づいていく徴候があります。危険だ!」

 千尋をモニターしていた研究員がそう叫んだ。

「そうだな、接続を解除しろ。残念だがここまでにしよう」

 研究員たちが、実験の終了に向けて慌ただしく動き始めた。



         * * * * * * *



 千尋の頭上を覆った輝きは、すぐに消えた。


 だが、あとに残った星空は無数の輝きに満ちた、拒絶と挑戦の宇宙(そら)ではなかった。黄昏の後に訪れる蒼い薄闇の中に浮かぶ小さな輝き。静寂と優しさ、そして憂愁に彩られた空だった。


 その薄闇が細かな四角に切り取られ、次々と消えていく。あとに残るのは、実験開始時に見ていた、距離感のない白いホールのような空間だった。

(ああ。実験室で接続を切ってるんだ……これでお別れみたいね)

 心象の中で、いつの間にか千尋は『Principal』と隣り合って佇んでいた。蒼い闇の下、小さな星を見上げて。翼を持つ訪問者は一歩彼女から離れると、両腕を体の横におろしたまま、顔を空に向けた。



         * * * * * * *



 鉱物化していたPrincipalの体が、輝きを発した。焼け焦げたような黒と灰色の中に、色彩が蘇っていく。青みを帯びた銀色と金属光沢のある黒が現れた。それらは次第に金色の輝きの中に溶け混ざっていき、同時にその四肢が、翼が、生き物の柔軟さを備えて動き始めた。


「電極が脱落していく! 『Principal』をモニターできない!」

「立ち上がるぞ!」

「おお……」

「被験者――チヒロ・ミナガワの安全を確保しろ!」


 翼を広げ、台の上に立ち上がったその姿は、やはり天使を思わせた。Principalは右腕を上げ、羽ばたくことなく上昇し始めた。地下室の天井に触れた瞬間それは位相を変え非実体化して天井パネルに吸い込まれていく。



 白い視界の中に、蒼い夕空の最後に残った一かけらが見える。その奥でPrincipalが舞い上がり、空へ登っていくのを、千尋もまた、見ていた。


(さようなら――)



          * * * * * * *



 サン=ロレ島の上空高く昇っていく金色の光を、崇は斜面に仰向けに倒れたまま見つめていた。27型フリゲート・アッシュダウン号から何発もの防空ミサイルが発射され、光を追っていく。だが、それはあるものは振り切られ、あるものは光の縁に触れた瞬間に早期爆発を起こして、目標に届かなかった。

 どこまでも高く高く昇っていくその光点を、ピンク色をした小鳥が追いかけていく。そんな幻を見たような気がして、崇は眼を瞬いた。



 照明がおち、過負荷を起こして吹き飛んだ機器が火花を立てる中で、千尋はもう一度呟いた。


 さようなら。




 突然襲った異常気象と計器の故障、おびただしい数の艦船乗組員が訴えた身体の不調のため、サン=ロレ島への上陸作戦はいったん中止された。

 その数時間後、明け方にラピスたちガードが投降し文書にサインすることによって、事件は終息した。

 国際社会は想像を絶するスキャンダルに揺れたが、数か月後ISLEとAIFはともに解体、PIF(post ISLE forum)と呼ばれることになる統合国際組織によって、その活動と資産が引き継がれた。

 

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