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酔狂領主様の怪奇譚  作者: 七色春日
間章 涙をあさる魔剣
8/31

-3-

 どこの街にも富めるところがあれば貧するところもある。


 住居という括りにしても、複雑で雅なものは手間も金もかかる。簡単で地味なものは安価だ。


 ヨークトン市における中央運河の堤防沿いは下級労働者や低所得者階級が住む地区だった。


 階層はどこも巨人に押し潰されたように低く、木材や泥煉瓦(どろれんが)、わら(ぶき)や鉄工所から払下げた鋼板(トタン)などで建築されて密集している。


 土地代を浮かすためであるのだが、防火法ないし建築基準法などは遵法されていない。


 道幅の狭い路地道に馬車は通れず、銀行の係留所に預けて三人は徒歩でコリンナの住処へと向かっていた。


「お見苦しいところにお連れしてすいません……」


「人がどんなところに住もうと自由だ。それにこれは俺の巡礼の旅。歩きたい気分だったんだ」


 目を伏せて影のある顔でいった。見るからに傷心している。


 アクネロ様は少し――心の平衡を失っておられます。


 背負いもせず、腰にもかけず、魔剣を抱いたまま歩いているのでミスリルは荷物として受け取ろうとしたが、ゆっくり首を振って断られた。


 なんとなく、ミスリルはほんの少しだが嫉妬した。恋人の亡骸を持って歩いているようにも見えなくもない。


 だとしても狂気的な姿であったが。


『火食い鳥』は特に気に入っていたのか時折、悩ましいため息をつきつつ愛しそうに刀身を撫でているのも気になる。


「ほ、本当に申し訳ありません」


 コリンナは恐縮しきりで、何度も謝罪を繰り返している。言外に(ゆる)しが欲しいとにじみ出ていた。


「ザインから話は聞いた。お前は職人肌で手入れを人に見せたがらないらしいな。今度ばかりはその秘密を俺に見せてもらうぞ」


「ひ、秘密というほどでは……命だけはお許し頂けるならどんなことでもします」


「心配するな。どんな過ちを犯したにしろ俺は命までは取らん。借金は背負わすが」


「え」


 コリンナの顔が凍りついたのでミスリルは深く同情した。


 それは死ぬより辛いのではないのかと。生きて償うことこそ最も険しい道なのだ。


「過失の具合によって金額も決めよう」


「あ、あの……じ、自分でいうのもあれなんですが……私、ちょっと……いや、かなり無能でして……お金稼ぎは向いてなくて」


「なら、俺がメイドとして雇ってやる。ちょうど足置き椅子が欲しかったんだ。どんな無能でもできよう」


 足置き椅子とメイドの関連性がいまいちミスリルには結びつけることができなかった、


 それは家具ではないのか、と突っ込みたかった。


 体裁がメイドで仕事が足置き椅子なのか。ミスリルもそこまでやらされた覚えはなかった。あまりにもむごい仕打ちではないか。


 怒るかと思いきや、当人であるコリンナは興味があるのか疑問を呈した。


「まかないとか出ますか?」


「三食出る。個室も提供する。月給銀貨十枚だ。休日は週末。就労時間変動制で実質一日五時間くらいだ」


「うわっ、いい条件ですね。明日にも履歴書出します」


「あの、コリンナちゃん」


「なんですか、先輩?」


 止めて、先輩とか呼ばないで――椅子になるなんて正気じゃないですよ。


 本音を出さずに別の方向からミスリルは探ることにした。


「いえ……博物館の仕事は辞めちゃうのかなと思いまして」


「まあ普通に考えてクビですから。そういうの慣れてるんで……借金を背負っても楽で続けられる仕事が欲しいんです。ぶっちゃけ生きていければそれでいいんですよ」


「アクネロ様」


 主人に助けを求めると、アクネロはしみじみと首肯した。


「街角で売春婦になるよりも椅子になった方がいいだろう。俺は優しいな」


「はい。領主様がお優しい方でうれしいです」


「ええ……と……ま、まあ、まだわからないですよね!」


 四つん這いになっているコリンナを足置きにして平然と読書にふけるアクネロの姿を想像し、ミスリルは怖気づいた。アブノーマルな嗜好が香り立つリビングで仕事するのは苦痛だ。


 優しさの意味も間違えている。本人のためになることが真の優しさなのに。


 肩に乗せた黒鳥は気ままに毛づくろいをしている。抜いた羽をミスリルの銀髪に差し込む。意図したわけではないだろうが狩人のような飾りつけになった。


 ――コリンナの住む長屋は土手に沿って建っていた。


 見るからに安っぽい洗濯物が物干し竿にぶら下げられている。共同トイレと共同キッチン。水は河川からくみ上げだ。


 中央の空間が物倉庫になっているのか、日陰の作りの衝立(ついたて)の向こうには木桶や油樽などが積載されていた。


 コリンナは二人と一匹を狭苦しい部屋に招待した。


 家具は最低限であり、床は打ちっぱなしのコンクリートで無理やり平坦にされているが施行ミスなのか、それとも雑だったのかひび割れがあり凹凸ができている。


 中央に鎮座する足長テーブルに二人を座らせると、コリンナは外に出て共同キッチンに向かう。


 その際、ミスリルは後を追った。


「お手伝いします」


「あ、はい」


 共同キッチンは土間であって石窯が並び立ち、食器や調理具は散らばって雑然としていた。


 番号が割り振られており、コリンナが立ち止まった窯にミスリルは手早く木炭を入れる。


 ポケットから蓮茶(ロータスティー)の粉末が入った麻袋を取り出し、積み重なって置かれていたカップを拝借した。


 なるべく汚れていないものを選んだが、くすみがあるのはハンカチでふき取った。


 近場にあった小壺(こつぼ)に入った液糖にも手を伸ばす。粗製されていない液糖は庶民の心強い味方である。


「先輩、手馴れてますね」


「ええまあ」


「やっぱあっちも上手なんですよね……」


「……あっち?」


 ミスリルは笑顔のまま顔に縦線を走らせた。


 下を向きながらコリンナは指輪を作り、そこに指を差し入れた。真昼間からとんでもない所作だった。


 この手の質問をぶつけられることは多かったが、未だにミスリルは慣れない。


 恥じらってしまい、顔に血液が集まる。


 しかし、やはりか、そう思われてしまう。


 済ませているのなら否定せずともいいのだが。


「そ、そっちはしません」


「え、椅子ってそういう意味じゃなかったんですか? 乗られる感じで」


「違いますよっ!?」


「じゃあどういう隠語なんですか?」


 純粋な目で尋ねられる。


 いや、普通に本気で足置き椅子にするつもりでしょう――そう真面目に答えていいものか迷った。気が散った隙を狙ってカップの液糖を肩に乗った黒鳥がごくごくと飲んでいる。


「私、領主様みたいな素敵な人ならお呼ばれしてもいいかなって……思うんです。うまくやれば生活苦から逃げられるし、幸せなことなんじゃないかなと」


 ネクタイを引っ張り、コリンナは桃色に頬を染めて照れながらつぶやいた。


 犠牲者が出そうだったので、ミスリルは血相を変えて首を振った。


 まだ十二か十三の娘――手籠めにされるのは哀れ――ミスリルはコリンナがアクネロと同じ歳だと知らなかった。


「そ、その、止めた方が……お尻触られたり、皮肉ぶつけらたり、こき使われたりしますから」


「別にそれくらいなら全然構いません」


 きっぱりと返され、ミスリルは「うぐっ」と喉をつまらせる。


 辺りを見回して人気がないのを確認し、内緒話をするように顔に立てた手を当てる。


「ここだけの話ですが、アクネロ様はほんとーに性格が歪んでらっしゃいますよ。たまに古書を読むふりをして官能小説を読んでらっしゃいますし、いつの間にか私のスカートの丈が短くされてたりもしました。変人でいやらしくて自分勝手なんです。いい歳をしてモテると思って黒スーツを着てますが、家に閉じこもってるせいで流行はクリーム色だと知らないんです。いいですか、外見だけで騙されてはいけません。遅れてるし鈍感なところもあって、よくジョークを口にしますが本当は滑ってるんです。大貴族だからお客様は笑うふりをしてくれてると理解してないんですよ」


「先輩」


「なんですか。わかりましたか?」


「後ろを」


「む……あ」


 ミスリルは後ろを見た。










 ☆ ★ ☆




 蓮茶の香りを楽しみながらテーブルに腰かけたアクネロは一口飲むと、四つん這いになっているミスリルの背にどんっと足を置いた。


 他にも脱いだジャケットや銃の入ったホルスターなどが置かれ、身がよじられる度に微動している。


「さて……コリンナ、手入れについて説明してもらうか」


「あの、アクネロ様」


「足置き椅子がしゃべるな」


 ぺらぺらと主人の悪口をいう従者をもっとわからせてやってもいいが、独占欲もあったのだろうからアクネロはこの程度で許すことにした。


 俺のジョークは面白いはずだ――アクネロは信じたかった。さもなければいい赤っ恥だ。


 疑念を打ち消した。絶対に面白い。いつだってバカ受けしていた。間違いない。


「うぅ……思ったよりも大変です」


「クァーッ」


 テーブルの脚下で椅子形態となっているミスリルの周りで黒鳥がうろうろしている。


 きょろきょろと家の中を見回し、落ち着かない風だった。まるで見慣れない場所にきて戸惑う迷子だ。


 そんな様子が苦境のミスリルを和ませたのか、笑顔が浮かぶ。


 コリンナはベッドの下を探り当て、長細い布包みを取り出した。アクネロに恐る恐る献上するように手渡す。


 封紐を解きつつ、手触りからアクネロは中身が刀剣であることを看過した。


 黒い刀身が外気に触れると、鼻腔に粘ついてくるような濃い油の臭いがした。


 血のように赤く古代文字が刀身に書かれている。


「霊剣『イェルサム』……」


 切っ先が四角形の無骨な剣であり、刃は潰れて厚みがある。


 剣というよりも鈍器に分類されるか――長さは一メートルにも満たない――用法からして砥石と見てもよいかもしれない。


「え、魔剣『涙刀』じゃないんですか?」


「現代語読みの説明書きでもあったのか? 刀身の古代文字は間違いなく霊剣『イェルサム』とあるぞ」


「あ、はは……大分と古い羊皮紙に所有者と名称が載ってて……捨てちゃったのですが」


「どこで手に入れた?」


「迷宮に入りまして……」


「あんな防空壕に入ったのか? よく生きて戻れたな。防犯設備で大抵の人間は死ぬのだがな」


「う、運が良くて」


 ひっくり返したり、柄頭を見たり、剣のバランスを確認――やはり、使用されたためにすり減り歪んでいる。


 知識として霊剣『イェルサム』のことは知っていた。魔剣の創成期にマッドサイエンティストに造られた異形の剣だ。


 霊剣と名のついているのは自然霊を触媒にしている。どんな生物の魂が埋め込まれたかわからないが、超魔術を応用するために必要なパーツだったことは間違いない。


 刃筋となるべき場所に指を滑らせた。滑らかすぎるほど滑らかだ。


「手に入れたとき……この剣はもっと長くなかったか?」


「は、はい。よくお分かりになりますね……」


「すり減っていっているのだ。使えば使うほど短くなり、最後には消える剣だ……鞘がないのはいずれ来る消失を意味している」


「アクネロ様、おいくらくらいなんですか」


 四つん這いのままのミスリルが顔を上向けて質問した。


 アクネロは何気なく脇腹を足のつま先で突っついた。ミスリルは「ひゃん」と()いて体を震わせる。


「金貨五枚くらいか。荷馬車一台くらいは買えるな」


「え」


 コリンナは愕然(がくぜん)とした。


 そして椅子から転げ落ちるように離れる。すすす、とアクネロの傍にぴったりと寄る。


「お、お売りできますか?」


「俺は買わんぞ。この霊剣は少しいわくがある……油に似た粘性の魔力を無機物に注ぎ込み、活性化させるのだがもう一つの機能が備わっているとされている」


「なんですか?」


「俺も知らん。考古学者である俺が知らんということは、ほとんどの古物商や刀剣商も知らんということだ。解明されていなくても値段はつくが、正規で売れるかどうかはわからんな」


「そうなんですか……がっくり」


 アクネロは改めて『イェルサム』を眺める。


 生命力が発散されているかと疑う黒身からは魔性の輝きを放たれている。油膜が張っているかと錯覚してしまうほど光沢のある刀身はずっと見ていれば虜にされかねない。


「あの、領主様にその剣を捧げますでどうか、今回の件はお許し頂けませんか?」


 控えめにコリンナは願ったが、アクネロは目線も送らなかった。


「いらんな……古代の美を感じる素晴らしい霊剣ではあるのだが、俺の『火食い鳥』や古式の宝剣を傷つけた剣でもある。憎みはしないが、愛情を注げるか自信がない」


「あ、愛情ですか」


 コリンナがどん引いた。


 顔つきに迷いや冗談の気配はなく本気であることを悟っているようだった。


 気にせずにアクネロは姿勢を正し、顔つきも真剣なものに変えた。よく通る朗々とした声で少女の名を呼ぶ。


「コリンナ・フラット」


「ははは、はい」


「今回の過ちは赦す。この霊剣がやったことならばお前に責はない。しかし、無自覚とはいえ他者の宝物を傷つけたことは事実。辺境伯アクネロ・ブラドヒートとして今後は価値のある物にこの霊剣を使用することを禁じる。それがお前のためとなろう」


「わ、わかりました」


「よし」


 コリンナは胸を撫で下したが、すぐに不安な面持ちになった。


 アクネロはその顔に気付かず、用は済んだとばかりに蓮茶を口に運んだ。






 ☆ ★ ☆





 屋敷に戻ると、アクネロは『火食い鳥』を鞘から引き抜いた。


 刀身に小さな(こう)がびっしりとも開いた奇怪な魔剣は赤錆びでぼろぼろになり、欠けが目立った。元は白かったのに赤褐色に染まり、ぽつぽつと粒々ができて傷んでいる。


 このまま廃棄したくはない。原因は調べてやらなければ――鞘に収め、気持ちを新たにする。


「ミスリル。陶器皿を二つ持ってこい」


「はい」


 ミスリルはキッチンに向かい、すぐに戻ってきた。


 大きさが告げなかったせいか大皿を二つ重ねて持ってきてしまった。アクネロは一皿だけ取り、懐から黄色の麻布を取り出し、距離を離して大皿に載せる。


「何をするんですか?」


「これはコリンナが手入れのために使った布と、こちらは手入れに使っていない布だ。同じ物を商店で買った」


「はぁ」


 アクネロは火打石で叩き、用意した灯明皿のしめった綿糸に火を灯した。


 左の布をつまみ、燃やす。


 右の布をつまみ、燃やす。


 両方とも炭になるまでの過程を注視し、アクネロは緩慢に金髪を後ろに梳いた。


「やはりか……」


「何かお分かりになったのですか?」


「念のため炎色反応を見ようと思ったが……炎の色は同一ながら片方は燃えにくかった。酸化し終わった物質となれば……恐らくはコリンナの布には塩化ナトリウムが含まれている」


「はい?」


「端的にいえば塩だ。細かい結晶がこびりついていてもしやと思ったのだが……この濃度なら三日もあれば刀剣はだめになるだろう。塩分は電解質であるがため空気中の酸素を吸い込み鉄を腐食させる。これは仮説になるが……超魔術によって保護油を途中で塩に変異させている」


「ええっと」


「霊剣『イェルサム』は他の剣を滅ぼす作用もあるということだ。なぜ、そういう機能があるのかわからんが活殺自在というわけだな。自由意思があるのか、なんらかの法則による反応なのかは未明だが」


「クァーッ」


 話についていけなかったミスリルの代わりに黒鳥が鳴く。


 アクネロは炭化してしなびた布を唾棄せんばかり見、顔を強張らせた。


「使い手に益を与え、その後に奪い取る……魔剣『涙刀』か。俺が買い取り、後に折るべきか」


 いいや、いいや、そんなことは許されない。


 即座に考えを訂正した。憎むべきは剣ではない。使い手を選ぶ剣というだけなのだ。


 造られ、生まれたものを憎んではならない。正しい用法がどこかにあると信じたい。


 無残な姿となった『火食い鳥』はもう元には戻せない。多少は修繕することはできるかもしれないが、存在した超魔術は発動しなくなるだろう。


 所有者であったが使ってやれなかった。だが、使うことなどできればない方がよい剣だった。


「これだけは修繕しよう。しばらくの間、俺は離れの石室で鍛冶をする」


「え、しばらくというと?」


「二週間くらいだ。食事だけ運んできてくれ。作業に集中したい」


「職人の方に……お任せたらいかがでしょうか、慣れないことをするのはよくないです。アクネロ様の『火食い鳥』への愛情はわかりますが」


「なんだ。寂しいのか?」


 からかうと、ミスリルは目を伏せた。


「アクネロ様が物言わぬ刀剣ばかりにかまけるのが少し恐ろしく思うのです。そうして、人嫌いになってしまわれるのではないかといらぬ心配をしてしまいます」


「素直にもっと構って欲しいといえ」


「もっと構って欲しいです」


 あっさりと本音をぶちまけたときには切実な瞳があった。『火食い鳥』の扱いに思うところでもあったようだ。


 アクネロはだらりと両腕を垂らすと、すぐに肩に手をやって筋肉をほぐした。


 他者の目には行き過ぎた情念だったかもしれない。ずっときつく抱きしめていた。


 近寄って涙目のミスリルの頭に手をやり、髪の毛をくしゃくしゃにした。


「剣に嫉妬するな。だが、お前のいうことも一理ある。餅は餅屋……確かに職人に任せるべきだ。俺も偏愛が過ぎたな」


「わかって頂けたならうれしいです」


「剣よりもお前の尻でも触っていた方が楽しいしな」


「そ、それはいやらしいです」


「馬鹿者。いやらしいことは自然な営みというものだ。男が女を求めるのは本能というもの。生命の流れすら否定することだぞ」


「だとしても、赤裸々(せきらら)にするのはいかがなものでしょうか」


 アクネロは芝居かかって落胆し、背中を見せて大仰に両手を広げた。


「今、ここには愛し合う俺たちしかいない。何一つとして問題はないはずだ。いやらしく尻を触ろうが、濃密なキスをかわそうが、子供を作るために性交渉をしようがだ。お前は俺を拒むのか? 俺との結びつきを絶つのか?」


 ミスリルは息を呑み、決断のために深呼吸した。


「アクネロ様がそこまでお求めになるのなら……私も覚悟を決めました。愛し合っても構いませんが一つだけ条件があります」


 さっと振り返る。油断ならない蒼瞳がきらめいた。


「なんでもいえ、愛のためならば俺は命すら投げ出そう」


「結婚してくれますか?」


 アクネロは感慨深く頷いた。


 胸ポケットから懐中時計を取り出し、ひらりと手首を返して時刻を確認した。


「おっと、ここで紅茶の時間だ。この続きは明日にしよう」


 顔を真っ赤にして怒り狂ったミスリルはソファーのクッションを掴み、逃げたアクネロに向かって放り投げた。






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