プロローグ
僕は、夢を見ていた。
真夜中の学校で、何かに追われる夢。
それは何かの獣のようで……でも、獣じゃない。獣でなければ、人でもない。
そんなよく分からない存在。分かるのは、捕まったら殺される。それだけだ。
誰もいなく、月明かりだけが照らす薄暗い廊下をひたすら走る。走る。
そういえば、こんな夢、前にも見たな。
体育館で何かに襲われる夢。
運動場で何かに追い掛け回される夢。
図書室で何かに見つからないように隠れ続ける夢。
……僕、夢の中で追われすぎじゃない?
何回か廊下を曲がり、階段を上り、時には下り、
何かから逃げ続け、体力の限界を感じた僕は、ある部屋に逃げ込んだ。
………………真っ暗だった。月明かりすらない。
暗闇の中、手探りで扉に鍵を掛ける。これで時間は稼げるはずだ。
カタン
何かを置く音がした。中に誰かいたのか!?この真っ暗な部屋の中に!?
しばらくすると、マッチをする音が聞こえ、部屋の中に小さな光が見えた。
炎がゆらゆらと動き、その炎が蝋燭にうつされた。
蝋燭を持った人がこちらへ向かってくる。
僕と少し離れた場所で止まり、僕の顔をジッと見つめた。
蝋燭の明かりは小さくて弱く、僕には蝋燭を持ったこの人が誰なのか分からなかった。
蝋燭の位置からして、身長は僕よし少し小さいくらいだと思う。
そして、明かりのお陰で唯一見ることが出来る服装――――――制服から、
彼(制服は、男物だったから、『彼』だと思う)が、僕と同じ高校に通う高校生だと知った。
「ねぇ」
彼は口を開いた。少し声が高いが、男の声だった。
「ここで何をしているの?今は夜だよ」
まるで子供が親に質問しているかのような幼い喋り方で彼は問いかけてきた。
「僕は……その……追われてるみたいなんだ」
とりあえず、彼は僕に危害を加える気はないらしい。
それが分かっただけでも嬉しかった。
今、この時間は夢の時間だということも忘れて、
僕は彼に何かに追われている事を話した。
「……へぇ。また君、追われてたんだ」
『また』
その言葉に引っかかりを覚えながらも、僕は彼の言葉を肯定する。
「にしても、彼らは懲りないなぁ。
前もひどい目に遭わせたのに、まだ懲りてない……」
彼は独り言を言いながら僕から遠ざかった。
『前もひどい目に遭わせた』
彼のその一言で、僕は思い出した。
そうだ。彼は『あの人』だったんだ。
何回も見ていた、何かに追われる悪夢。
夢の終わり方にはある共通点があった。
それは「誰かが僕を助けてくれること」
体育館のときは、その何かを返り討ちにしてくれた。
運動場では、転んで足を怪我した僕を背負って、あの何かを撒いてくれた。
そして、図書室では、囮になってくれたうえに、抜け道まで教えてくれた。
ガタン
窓が開かれる。カーテンによって遮られていた月の光が再び姿を現す。
「この梯子。降りていったら裏庭だから」
言われるがままに窓を覗き込む。
手から伝わる冷たい金属の感触。
少しずつ目が慣れると、梯子が下まで続いているのが、かろうじて見えた。
これは、あとで思い出したことだけど、
夢の中で体育館で僕が襲われ、彼が返り討ちにしたとき、
現実の体育館は、半壊していて、立ち入り禁止になっていた。
夢の中、運動場で怪我をしたとき、目を覚ますと、その場所に怪我は残っていた。
図書室の抜け道も、現実にちゃんと存在していた。本や本棚も倒れたままだった。
つまり……今まで夢だと思っていたものは、現実だった。夢ではなかった。
でも、それについて僕が気づくのは、この夢じゃない夢から醒めたあとである。
初めて、このような場所で小説を書かせていただきました。
感想とか、たくさん書いてくれたら嬉しいです。
不束者ですが、どうか応援、よろしくお願いします。