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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
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第四章「反撃」

第四章「反撃」


 仕掛けが仕込まれている山をソード三機が抜け、ガンドック小隊が山間に突入した。

「ビッグハットよりソード。ダミーに熱を入れ、五秒後に全スモークグレネードを後方に炸裂させろ」

「「了解」」

 待機しているチームの出番が迫っているのでそちらにも確認をとる。

「ビッグハットよりクロスボウ。スモークが行動開始の合図だ」

「クロスボウ1了解」

「クロスボウ2了解」

 よし、準備は大丈夫そうだ。

 後はガンドッグがこちらの思惑通り動けば勝てるはずだ。

 ソードの遠隔操作により、ダミーが熱を持ちガンドッグのレーダーに表示される。

 いち早く気付いたガンドッグ2が通信で報告を入れた。

「隊長! 八時と十六時の方向に敵熱源反応を確認!」

「3・4は機体を回転! 後ろの警戒をしながらついてこい!」

「分かりました」

「まかせとけって」

 前傾姿勢で正面を向いて飛んでいたガンドッグ3と4は、胸部にあるバックブーストを片側だけ噴射し一気に機体の向きを反転させ、バックブーストに加え脚部を前に突き出しブーストを噴射することによって、速度を維持しながら前進を始めた。

うまく引っかかってくれた。

 そして、予定通りスモークがソード3機によってまかれ、ガンドッグ小隊がスモーク内に突っ込んだ。

「レーダーロスト。ジャマースモークのようです」

 ガンドック3が報告を入れる。

「隊列このまま。前方・後方からの攻撃に注意しろ」

 そのまま突破することを選んだようだ。

 五秒後スモークを突破したところで、ソードとクロスボウからの攻撃が始まった。

 ガンドック小隊は前方のソード三機からの射撃を回避することは出来たが、上空のクロスボウ二機から降り注ぐライフル弾、ミサイル、炸裂弾に反応出来ず、後ろを向いていたガンドッグ3と4にダメージを受けた。

「こちらクロスボウ1。ソードのみなさんお待たせ!」

 上からの攻撃を想定していなかったため、ガンドック小隊に動揺が広がる。

「おいおい!? 上かよ! レーダーには映ってなかったぜ?」

 ガンドック4が想定外の攻撃に驚いて叫んでいる。

「ジャマー圏内の上に、ジャマースモークまでまかれたんじゃ気付かないよ」

 やられたとガンドック3も抑揚の無い声で悔しがっている。

全機散開ブレイク!」

 そんな中でガンドック1は爆発半径の広い炸裂弾に密集は危険と即判断し、すぐに散開号令で部隊を前方に散開させる。一瞬にして動揺をしずめて適切な回避行動をとられる。

 だが、ここまでは想定通り。

 現在ガンドック小隊のレーダーにはソード3機とクロスボウの2機、そしてダミーの3機が映っている。

 ガンドック小隊は隊列を維持しながら前進してきたので、前を突破してその包囲から抜けるつもりのようだったが、ガンドッグ5がダミーに気付いた。

「隊長、先程後方に現れた敵影ですが、この状況で全く動いていません。こちらの注意を後ろにそらせるダミーです」

 よく気付いたが遅い。それにむしろ気付かれた方が好都合だ。

「よし、5は後方に下がり敵の遠距離砲撃を黙らせろ。残りで前方の敵を落とすぞ」

 ガンドック1の指示通りガンドッグ5は山側に後退し、残りが前進した。

 どうやらアックスを出す前に分断に成功したようだ。作戦を少し変更する。

 クロスボウ1はロングレンジライフルでガンドッグ5と撃ち合い、距離を敵部隊から離していき、ソード三機とクロスボウ2が残りの敵四機の対処を始めた。

 分断に成功した今ここで一気にガンドッグ5を落とすか。

「ビッグハットよりアックス全機! 予定とは違うが、目の前にいるスナイパー型を落とせ!」

「アックス1了解。撃墜スコアは俺の物」

「アックス2了解。逆に落とされないでよ?」

「アックス3了解。なんとかなるっしょー」

 応答とともに射撃を開始し、前方上空のクロスボウ1と撃ち合っているガンドッグ5の背部にレールライフルが直撃する。

「ダミーは伏兵を隠すための物でもあったか……隊長、後方の伏兵三機より攻撃を受けています。援護頼めますか? ある程度までは浮遊装甲を展開し、耐えます」

 直撃は五発。

 損傷判定は腕部と脚部にそれぞれ小ダメージ。

 不意打ちに対して浮遊装甲五枚を非常に早く展開された結果、大したダメージは与えられなかったようだ。

 ガンドック5の通信通り続く後方からの攻撃は浮遊装甲で防ぎつつ、前方からの狙撃の二発を回避機動で避けていたが。

「動きが読めたよ。いただき!」

 クロスボウ1の狙撃が更に避けようとするガンドッグ5を捉えた。

 撃たれたロングレンジライフルの弾丸はガンドッグ5が動いた先に置かれるように放たれていたのだ。

「む、左腕に直撃か。損傷判定は中程度。もう一発今のを貰えば破壊判定か。こちらの回避を予測して置き撃ちとは良い腕だルーキー」

 こんな時にも落ち着いた声で冷静に分析している。さすがスナイパーをやっているだけはある。

「5まだやれる? 今からそちらに向かい援護するわ」

 ガンドッグ2が背部への不意打ちを避けるために、ソードとクロスボウに対して 機体を前に向けたままバックブーストで後退し、ガンドッグ5の方に離れていく。

 予定とは少し違ったが、これで敵五機を三つに分断することが出来た。

「ビッグハットよりランス! ショータイムだ!」

「ランス1ラジャー。援護に向かう敵を狙撃します」

「ランス2ラジャー。敵スナイパーを落とします!」

 これで落とせればかなり楽になるはずだ。

 失敗した場合に備えての包囲戦術も準備してはいるが、敵よりも技量が低い部隊では、数が二倍でも不安なので確実に決めて欲しい。

 さてどうなる? 息を呑んでモニターを見るとランス1が撃った弾はガンドッグ2の右腰前面に直撃した。

 ガンドック2はロックオン無しのスコープ射撃により警告音が鳴らず、反応が出来なかったようだ。

 損傷判定は中程度だったが、当たりどころが良く、戦闘に大きな支障が出るダメージではなかった。

 しかし、足止めには十分だ。

「今のは一体どこから? 被弾状況からして上からではなく正面か下といったところかしら? まだ敵がいるの?」

 索敵が済む前に、続けざまにランス2からロングライフルが撃たれるが、ダメージは全く与えられていなかった。弾丸が機体に届く前に威力を無くして落ちていくのだ。

「ん? 直撃のはずだったんだけど。しまった粒子シールド展開してたのか」

この粒子シールドも浮遊装甲と並んでマップスが持つ防御兵装だ。

FTE粒子によって弾丸の持つ運動エネルギーや熱といったダメージを与える物を別のエネルギーに変換して防御する装備だ。

「下からね。2から全機へ十一時の方向に敵スナイパー!こちらで捕捉したのでレーダーに表示するわ」

「マジかよ?!何体敵がいるんだっての!」

 分断されて3機で候補生4機を相手にしているガンドッグ4がうんざりしたように叫ぶ。

 一方その頃ガンドッグ5は器用に多方面の攻撃を防いでいた。

 一番ダメージの大きいスナイパー方面に常に装甲を三枚展開し、ミサイルにはフレアを射出してそらし、レールライフルやマシンガンには二枚の浮遊装甲をピンポイントで当てて防いでいる。

 だが、この攻撃の雨に近接戦闘の得意な機体が参加したことによりガンドック5の防御にほころびが生じた。

「いただく!」

 ブーストで急接近しながら、ランス2がショットガンを連射し、浮遊装甲3枚を一点に集めたところに、背部ブーストを噴射し粒子ブレードを構えて突っ込んだ。

 ランス2は初撃の横切りで浮遊装甲をまとめて払い、空いたところにショットガンをつきつけ至近距離で発射しようとするが、寸でのところでガンドック5が右手のロングレンジライフルをショットガンに払うようにぶつけて射線を変え回避し、左手に粒子ダガーを取り、突きの反撃を繰り出すが、ランス2がバックブーストで突きを回避し、ショットガンを発射する。

 ガンドック5はバックブーストが噴かれた瞬間にナイフを右腰にマウントしてそのまま左腕を盾にして、本体のダメージを減らす。

 同時に右手のライフルを肩に取り付け、空いた手でマウントされたダガーを投擲する。

 ランス2は投擲されたダガーをショットガンにぶつけ直撃を防いだ。

「ちっ、ショットガンが1本お釈迦になったか! それでも!」

 そのままショットガンに弾かれたダガーを掴み、そのまま投げ返した。

 突然の反撃だったが、ガンドック5はダガーの投げ返しに反応し、払われなかった浮遊装甲を一枚ランス2に向け展開した。

 しかし、そこから生じた隙をアックス3機によって左右から狙われ、ライフルとミサイルを連続で撃ち込まれてしまう。

 左腕大破、脚部中破、右腕中破、コア損傷軽微、搭載されたAIから損害報告とアラート音が出ている。

 ギリギリのところでロングレンジライフルと右腕を盾にしコアである胴体を守ったため撃破判定はまだ出ていなかった。

「次で落とすぞ! 頼むぞクロスボウ1」

 ランス2は上からガンドック5の後ろに回り込み、クロスボウ1の狙撃に向けられていた浮遊装甲を右に弾き、追撃をせずにそのまま右にそれた。ガンドック5がカウンターの蹴りを入れようとしたがそのまま空を切った。

「ナイスアシスト! ランス2!」

 クロスボウ1の声とともに発射された弾丸はガンドッグ5の背部に直撃し、更にランス2によるだめ押しの粒子ブレードの突きがコアに入った。オペレーターの橘から撃墜報告が入る。

「敵機撃墜。次の目標に移ってください」

 これでまずは一機。攻撃力の高い厄介な敵が減り、遠距離が大分楽になった。

「こちらガンドック5、すまん。やられた。侮っていると痛い目をみる」

 ガンドッグ小隊に衝撃が走る。気付いたら敵が二倍の数になり、包囲されたあげく、味方機の撃墜により、戦力的にも精神的にも受けたダメージは大きい。

「了解。後は任せておけ。2はこっちの援護に戻れ! 片側の敵を早く片づけなければまずい!」

「やれやれ。後ろに5を戻したのは失策だったかしら」

「今更です先輩。それよりも後ろから撃たれるのが、1機だけで逆に良かったかも知れませんよ。全機一片にスクラップは勘弁です」

「仇はとってやるよ! まずは目の前のやつらをぶっ潰す!」

 ガンドッグ5はうまく機体の損傷無しで撃破出来たが、前線の方は数が一機多いと言え戦況は互角で、候補生達の機体に損傷が出ていた。

「ビッグハットよりアームズ全機! 損傷のある機体は集中攻撃で落とされる可能性がある。損傷の少ないアックスとランスは速やかに援護に向かえ!」

「「了解」」

 後ろに向けられる全ブーストを噴射し、全速で援護に向かう。

「橘、彼らが援護に入れるまでどれくらいだ?」

「後、三十秒ほどです」

 ガンドッグ2が十秒ほどで合流すると、中近距離の数は一対一になる。

 タイマンで勝てる見込みは少ない上に数が減らされたら勝率はかなり落ちてしまう。そうなってしまえば、ここまでの作戦が全て水泡に帰す。

「ビッグハットよりソードおよびクロスボウ。アックスとランスが援護に入るまで約三十秒。援護が来るまで回避・防御主体で良い。絶対に落とされるな」

「「了解」」

 海上や海岸の時とは違い、遠距離からの狙撃を含めて候補生達の数が増えて攻撃が激しくなったので、ガンドッグ小隊の攻撃頻度が落ちるかと思ったが、頻度が落ちた分、三機の攻撃が集中し、回避と防御に失敗した瞬間に撃墜判定もしくは損傷大判定が下されそうな勢いで攻撃されている。

 そしてガンドッグ2が合流して更に攻撃は激しさを増した。

 アタッカー3機によるレールライフルとマシンガンで激しい弾幕をはりながら、ガンドッグ1による高速攪乱機動で上下左右前後と空間を最大に活かしてショットガンとアサルトライフルを候補生の機体に集中して撃ち込んでいく。

 この連携攻撃に対して候補生側も、狙われた機体に一機援護が入り浮遊装甲を展開し、避け漏らした攻撃を防いでいる。

 そして残りの二機で違う方向から、撃墜を狙うと共に注意をそらして攻撃を一時的に緩めようと射撃をいれる。

 大ダメージを狙えるスナイパー二機の狙撃は、レーダーから弾道の予測がつけられていたため、射線に対し機体の大部分が隠れるように浮遊装甲のマウント場所を変えて防がれていた。

 スナイパー二人がそれぞれ驚きと共に打開策を相談する。

「どんなけシールドの扱い上手いのよ! さっきから何発も当ててるのに全部シールドじゃないの!」

 クロスボウ1にランス1が返事を返す。

「さすが正規パイロットですね。恐らくレーダーで僕達の場所を見て、そこから弾道を割り出してるのでは?」

「だったらどうすれば良いのかしら?」

「さっきの撃墜と同じで、隙を作ってもらって確実につくってのは?」

「今の状況を見ると難しそうね。近接攻撃しようと近づいたら蜂の巣にされて厳しいわよ。ってちょっと待って! さっき弾道予測で防いでるって言ったわね?」

クロスボウ1がどうやら何か思いついたらしい。

「そうだけど。それがどうかした?」

「ちょっと試したいことがあるの。今からロックオン無しのスコープ射撃は止めて全てロックオン有りで射撃するわよ。こちらのロック状況を送るからリンクして、同時に時計回りでロングレンジライフルを連射しなさい!」

 なるほど。悪くない戦術だ。試す価値は十分にある。ここは静観しておこう。

 クロスボウ1は上空からガンドッグ小隊の裏に回り込んでから、ガンドッグ4をロックオンし、ロック情報をランス1とリンクさせた。

「射撃開始!」

 ロックオンアラートが鳴り、狙撃を事前に察知したガンドッグ4はほくそ笑んだ。

「馬鹿め! 回り込んでの同時攻撃とはいえ、弾道予測が出来ている相手にロックオンとは当てる気があるのか? まっ、ノーロックでも当たらんがな!」

 自信満々の言葉通りマウントされた浮遊装甲で初撃は防ぎ、続く射線を変えながら撃たれる射撃には浮遊装甲を展開し、装甲を動かしながら弾を防いだ。

 ランス1がクロスボウ1の戦術に気付いたようだ。

「なるほどね。でもこれ多分確実に決まるのは一回切りだよ?」

「一機確実に減らせるだけでも十分よ」

 自信満々にクロスボウ1が答えた。

「それもそうか。タイミングは援護が到着した瞬間だね」

 クロスボウ1がアックス三機とランス2に通信を入れる。

 それも何故か色気たっぷりの声で。

「敵を一機減らす賭けにつきあって」


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