表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
4/31

序章:コーヒー&ワールドニュース

序章「コーヒー&ワールドニュース」


「起きて下さい。坂本さん起きて下さいよ」

 ん? しまった寝ていたのか。誰かから身体をゆすられている。

 声の特徴から該当する人物を割り出してみる。

「ん? 澄川さん?」

「正解です」

 同じ部隊に所属するオペレーターの澄川早苗がどうやら起こしてくれたらしい。

 さっきまで何をしていたんだっけ?

 寝ぼけた頭で周りを見渡すと書類の山が崩れて、そこら中に散らかっている。

 そうだ、新兵器の最終報告書を書いていたら眠たくなったのか。

「あのぉ……連絡見てないですか?」

 連絡? 何のことかさっぱり分からない。

 とりあえず、個人用の端末をチェックすると上官から連絡が入っていた。

 《1500に司令室へ来い》

 ……へ? 今の時間は……げ、15時30分にしか見えない。

「えーっと、澄川さん……あなたが俺に会いに来た理由ってもしかして」

 澄川はばつが悪そうにそっぽを向いて頭をかきだした。

 ショートカットのはねている髪が指につられて踊っている。

「その焦っている様子を見ると、多分坂本さんが思っている通りです」

「ありがとう! 行ってきます!」

 全速力で司令室に向かって走り出す。

 また上官にどやされてしまう。

 これでも一応小隊長として威厳を必死に維持しているんだ。こんなしょうもないミスで信頼を失ってしまうなんて悲しすぎるぞ。

 切れた息を無理矢理抑えて、扉をノックする。

「坂本龍です。失礼します」

「坂本か。入れ」

 扉を開けると司令官が両肘をつきながら手を組んで、その上に顎を乗せている。

 少し機嫌が悪そうな顔をしながら、嫌みたっぷりの口調で遅れた理由を指摘された。

「どうだ? 書類を枕にゆっくり眠れたか?」

 ばれていた……。言い訳をせずに素直に謝ろう。

「申し訳ありません。居眠りをしていて、連絡に気付きませんでした」

 司令官が軽くため息をついている。

 最近では戦闘訓練が減った代わりに、戦術や戦略等の指導が増えているので、今度の戦術レポートが倍増しそうだ。

 通常の量でも、かなり厳しい指摘が返されて苦労するのに、倍増したらどうなるんだろう? 眠れるのかな……。

 その状況を想像してうんざりする。

「あー……安心しろ。レポートは増やさないし、撃墜スコアを増やして来いとも言わんよ」

 あれ? 心の中が読まれた?

 驚いた顔をしていたのだろう。連続でまた指摘されてしまった。

「そんな驚くことは無いだろう。その癖が治らなかったら……いつか教えてやる」

 一体何だって言うんだ? 超能力でも教えてくれるのか? 読心術に近い物を習い始めてはいるが、俺には到底理解出来ないレベルで言い当てられている。

 とりあえず、これ以上ぼろを出さないように早く本題に入って貰うしかない。

「ところで、用件は何でしょうか?」

「今からちょっとしたテストをする。私の質問の答えを言い当ててみろ」

 突然どうしたのだろうか? 緊張であふれた唾を飲み込む。

「坂本龍中尉。新兵器ゴースト適合者の中に士官学校出は君しかいないな? そして、現在その新兵器が一般化され量産体制に入った。つまり誰でも使えるようになる。そんな中でだ。誰も使ったことの無い新兵器の実戦訓練やら戦術研究やら指揮というのを誰がやる?」

 最近自分に課せられた数多くの戦略・戦術レポートと新兵器の評価報告、そして今の思わせぶりな質問内容。該当する可能性に頭が真っ白になりかけながら答えを返す。

「もしかして、俺がやるんですか?」

 自分を指している指が若干震えている。

「正解だ。おめでとう。最終試験合格だ。お前来月から大佐に昇進な。ちなみに言い忘れてたが、我が輩も昇進してるぞ」

「へ?」

「お前には隠してたからな。驚くのも無理は無いが、試験部隊ゴーストは解散だ。他の奴らも教官として各地に派遣するからな。お前は来月から最南端にあるキーナ空軍基地の司令として頑張ってこい」


 この辞令から私の生活は一変する。

 軍上層部から辞令を受け取るまで、私は20歳から26歳までパイロットとして国境付近や紛争地域での介入など各地を転戦してきたが、今はヤポネ南方キーナ空軍基地司令として転属して2年が過ぎた。

 この2年でようやくパイロットではなく、管理者としての仕事にも慣れてきている。

 顔を洗い、身なりをただす。鏡に映るのは身長170cmで筋肉質のしまった身体をしている男性。髭は剃ってあり、髪型は清潔感のある短髪で、眼はどちらかというと垂れ目だ。実年齢より若く見られることがそこそこある。

 そのため一人称も私に変えて、しゃべり口調も丁寧な物に変えることにより威厳を無理矢理出している現状だ。

 軽く朝食を済ませ、コーヒー片手に端末を立ち上げると、おはようございます。と機械音声が流れた。

カレンダーに記録されているスケジュールのチェックから、私の朝は始まるのだ。

「さて、今日の仕事は」

 ・パイロット候補生の模擬戦0900

 ・国境資源会議警備の打ち合わせ1400

 ・各種基地報告書の作成。

「今日も忙しそうだなぁ……」

 場所と時刻を携帯端末の情報と一致したのを確認する。

「まだ余裕があるし、時間が来るまでニュースでも見るか」

 特に大きな事件もないようで、経済では首都と郊外の地価が連続で上昇中とか、企業の設備投資が新記録や新製品発表だとか景気の良い話が掲載されていて、芸能やスポーツ関係の記事も多く掲載されている。

 今日も当たり前の平和が続いているようだ。

 芸能人のゴシップ話でコメント欄が盛り上がれるのは国民に余裕のある証拠だろう。

「さてと、パイロット候補生の模擬戦はまずガレージ集合だったな」

 空いたコーヒーカップを洗い、乾燥棚において個室を後にする。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ