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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第二部条約締結編
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第五章「反省会」

「いやーみんなおつかれ」

機体から降りるとオヤジさんと松平が出迎えてくれた。

「で、使ってみてどうだった?」

「これは新兵に使わせるには難しいですね。専用の訓練が必要になると思います。恐らくハガネに乗っていた者も慣れるまで戸惑います」

さすが教官だ。早速どう教え込むかを考えているに違いない。

「ホントよ。目が回りかけたわ。でも、おかげでしぶとく避けれたし慣れれば良いかも……うぅ気持ち悪い……」

「ありゃ、武ちん大丈夫?」

「ちょっとそこで休んでくる」

 どうやら酔ったらしい。機体に振り回されているような動きだったから仕方ないか。

 自分の意志より遥かに激しい動きで視界が回されれば気持ち悪くもなる。

「イッシーとタグポンは大丈夫だったかい?」

「平気です。武田のように常時振り回されなかったので」

「私も同じくだ。一瞬ハッとするがそれ以降はコントロールが自分に戻ったのでな」

「うーん、そうなると、もうちょい制限をかけた方が良いのかなぁ」

 さっそく反省会が始まってしまった。放っておくといつまでも続きそうだったので、自分が抜け出すために時間を指摘して食事に誘おうと考えた。

「そろそろ、昼休憩の時間だ。食事の後で良いんじゃないか?」

「ん? 僕は構わないよ。んじゃ早く行こうか」

「私もいきます……」

「何か死にそうな声してるけど、武ちん大丈夫?」

「ご飯食べたら治ります……肩貸して……」

 いや、治るどころか大変なことになりそうなんだが……。ただ、行きたいというのなら止める訳にもいかないか。栄養補給は大事だ。


 食堂に向かっている最中、武田に肩を貸しながら歩いている松平から、突然とある質問を投げかけられた。

「ところで、もっさん。来月だか再来月の条約締結式ってどうなったんだっけ?」

 丁度今日その連絡が入っていたのだが、テストに引っ張り出されたせいで斜め読みしかしていなかった。

「テロ騒ぎがあったせいで、再来月だ。場所はレトリア連邦最南端の都市でやるそうだ」

 松平しかいなかったら言っていたが、隊員がいる前なので、警備に参加しなくて済むから気が楽だと言うのは止めておいた。

「へぇー。再来月か」

「何かあるのか?」

 松平が何かを考える素振りを見せたので、ついつい突っ込んで聞いてしまった。

「その時期までに色々と間に合った方が良いかなーってさ。例の船とかさ」

 間に合った方が確かに助かるが、使うような事態は起きて欲しくないな。

「ん? 例の船って……うー……私が吹っ飛ばした奴?」

「ちょっと違うかなー。武ちんのおかげといえばおかげなんだけどね」

「そうなんだ。何かよく分かんないけど、またカッコいいのをお願いね」

「任せといてー」

 松平の最後の言葉はかなり上機嫌だった。

 そっちの方がかっこいいでしょ? で開発を推し進める男にその応援は効果抜群のようだ。しかし、いつの間にか仲良くなっているが、話の内容が割と物騒なのは職業病だな。やれやれ。


 食事を済ませると、確かに武田は元気になった。さてと、三人ともまともに話が出来るようになったところで、特別訓練の指示を出すか。

「忘れてはいないと思うが、私が勝ったので君達三人には特別訓練を受けて貰う」

私の発言に対して、三人とも顔が強ばってしまった。いや、そんな無茶苦茶な要求はしないぞ。

「松平に協力して、データ取りを手伝ってやれ」

「実験部隊がいるのにですか?」

 石山が実に的確な質問をする。本来なら今日のテストも実験部隊が行うものだが、開発者から特別に指摘されたので例外中の例外だ。

「そうだ。ハガネに乗って第三世代型の特徴を色々学んでこい。実験部隊には私から連絡を入れておく」

「え? ハガネに乗るの? あ、乗るんですか?」

「武田、明日からもう一度候補生と一緒に上官の敬い方を教えよう」

「や……やだなぁ田口教官殿。ちょっと言い間違えただけじゃないですか」

 武田は引きつった笑いを浮かべながら椅子ごと少し後ずさりをした。

 やれやれ、実際そんなに気にしてはいないんだが、真面目だな田口軍曹は。ちなみに、目の前に軍のトップをニックネームで呼ぶ奴がいるぞ。

 私は咳払いをして続きを話す合図をすると二人とも静かに戻った。

「今日実際に戦ってみて分かったと思うが、撃墜するのが相当難しい機体だ。万が一に備えて、対策を早めに手に入れておきたい」

 これがもし第三国に漏れたら《サビ》が生産された時以上に問題になる。その時のためにも準備しておいて損はない。

「田口軍曹も、指導の合間に頼む」

「ハッ、了解しました」

候補生の指導で大変だろうが、彼が参加すればより教育者としての能力が上がるため、出来る限り参加してほしいのだ。こちらからもスケジュールを調整するよう手配しておこう。

「僕もサポートするから、ハガネでも頑張れば何とかなるよ」

「んじゃ明日からまっちゃんが帰るまで模擬戦してれば良いんだ」

「助かるよ。ん、まっちゃん? 僕?」

「そうだよ。一方的にあだ名をつけられたからつけかえしてみた。変態よりマシでしょ?」

 そう言えば、ブリューナクを紹介した時は変態だったな。それに比べれば確かにマシだ。

「武田、松平さんは目上の方だぞ。失礼ではないのか?」

「いやー、イッシーも気にしないで、好きに呼んで良いよ」

「そうですか。ただ、やはり目上の方をあだ名で呼ぶのは気が引けるので松平さんと呼ばせて貰います」

 松平は石山の言葉に対して嬉しそうに笑顔で頷いていた。仲良くなってくれたようで良かった。

 松平も上機嫌だし、そろそろ抜け出して書類仕事を片付けよう。

「ってことで、そろそろさっきの模擬戦の反省会がしたいんだけど、もっさんも良いかな?」

 逃げる前に切り出された。しまった!

「フフフ、今日も逃がさないよもっさん」

 松平が悪そうな笑顔で両手の指をぐにゃぐにゃ動かしながらこちらに迫ってくる。

 ここで、逃げると後が面倒になるので、大人しく言うことを聞くか。

 ゴールデンウイークにこれをやられた時は菱田重工の工場内で壮絶な鬼ごっこをさせられた。何故かいつの間にか先回りをされていたのだ。ひょろく見えて意外とすばしっこい。

「せめて、書類仕事をしながら参加で良いか?」

「それくらいなら、問題ないよ」

 その後はオヤジさんも呼んで模擬戦の様子を録画した映像を見ながら、午後のほとんどを反省会に費やされてしまった。その結果、試して貰いたい連携がいくつか生まれたので有意義な結果だった。

「今日はみんなで飲みに行こうよ!」

 松平がとても元気良く遊びに行く提案をする。かなり集中して頭を使っている様子だったのにどこからそんな活力が出てくるんだ。

「お前はホント元気だな。今日月曜日だぞ? 明日も朝からみんな色々仕事があるのだが」

「えー、堅いこと言わないで行こうよ。せっかく遊びに来たのにつれないなぁ……僕とは遊びだったのかい?」

「誤解を招くような発言をするな! まぁ彼らが良いなら私は構わないが」

 集まった4人の方に顔を向けて確認をとると、みんなが期待で顔を明るくさせていた。

「言うまでも無く行くそうだ。良かったな松平」

「いやー、やっぱこっちは楽しいねぇ」


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