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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第二部条約締結編
26/31

第三章「新たなる胎動(後編)」

  次の日の朝、サナを迎えに行ってから菱田重工に向かった。

 前回来たときには無かった大型の施設がある。

「おはよう! もっさんにさっちん」

 ボサボサ頭の白衣の男、松平が嬉しそうに駆けてきた。

 2人で簡単に挨拶を返して早速新しい施設について聞いてみた。

「あれはこの前来たときは無かったな。ろ獲したやつが入ってるのか?」

 奥行きは500mもある施設だ。あの改造タンカーが入っていてもおかしくはない。と考えていたのだが、松平からの答えは私の想像を越えていた。どうやら私は彼を甘く見ていたらしい。

「あぁ、あれならバラしたよ。構造把握とパーツの精度を見たかったからね。いやー、実に楽しかった!」

 私はてっきり「いやー、見てよ。かっこよくなったでしょ?」と言って、大改造したものが来ると思っていたので混乱してしまった。

「となると、まさかテストしてほしいってのは」

「もちろん僕の子だよ?」

 さも当然のように答えられた。

 興奮気味だったのはこれが原因だったのか。新しいプラモデルでも組み立てるような感覚で作ったに違いない。変態め。

「やっぱり凄いですね松平さん」

 サナも驚きを隠せていなかった。


 艦船用の施設に通されると巨大な長細いモーターボートのような船が建造されていた。

「随分と細いな」

「これはまだ素体。この後に色々つけていくってことで、まだシンプルなんだよ」

「ということは、マップスと同じで、用途によってカスタマイズ出来るということか」

 私の答えに満足そうに頷く。

「その通り。そこでもっさんのアドバイスが欲しいのよ。率直に聞くね。何が欲しい?」

 突然過ぎる質問に思わず苦笑いをする。

 素体を眺めながら、過去の戦闘を思い出しながら考えてみる。

「マップスのメンテナンス用ガレージ。後は2中隊ほど収容出来るスペース。発進用のカタパルトデッキ」

「なるほど、マップス運用艦の基本的な装備だね。大体僕の想定していたのと同じだ。すぐ取りかかるよ」

「後は高性能な各種レーダーがいるんじゃないかな?」

 サナからも意見が出る。さすが元オペレーター。情報処理関係に気が回っている。

「任せといてさっちん。それはもうAWACSに負けないくらいの積んじゃう」

 松平のやつノリノリだなぁ。踊り出すんじゃないだろうか。

「そういえば、移動速度はどんなもんだ?」

「最大船速は時速500kmってとこかな。これだけの図体を音速で動かそうとするとジェネレータがいくらあっても足りないよ。というか空に飛ばすだけで凄い粒子食うんだよ。現状で大型粒子発生ジェネレーター4個も積んでて、どんだけお腹空かせてるの? て感じ」

「大型コンデンサーと追加ブースターなんかどうだ?」

「あー、なるほど。後で計算してみるよ。っとそれで思い出したんだけど、こんなのどう?」

 松平がそう言いながら見せてくれたのは、ただの箱にブースターが付けられた物にしか見えない物だった。

「船底に搭載して、超加速で敵地に飛ばす揚陸艇みたいなものだよ。中にマップス5機まで入るんだ。射出の初速は時速2000kmで射程は300kmってところ。到着までの時間は理論上7から8分だよ」

 あまりのとんでも仕様に思わず笑ってしまった。

「君の作る物は相変わらずぶっ飛んでるな」

「面白いでしょー。ちなみにマップスのジェネレーターからエネルギーを送ればもっと速度も出るし距離も伸びるよ。帰りもこれでバッチリ。あえて使い捨てにして大型の弾丸としても扱えます!」

 説明を終えたなのか、胸を張りながら荒い鼻息をムフーと出している。

 相変わらず機械関連は楽しんでるな。と感心する。

 後は任せても勝手に色々つけてくれるだろうと思えたので、話題を変えることにする。

 どんな道具でも考えれば使いようがある。

「そういえばテストは何をすれば良い?」

「んじゃ、それも早速始めようか。とりあえずシミュレーションルームに案内するよー」


 部屋に入ると艦橋内を真似した配置で各種機器が置かれていた。

「さてと、もっさんはそこの指揮官用の座席に、さっちんはそっちの火器管制オペレーター用の座席へどうぞ。今からテストするのは少人数での運用システム試験だよ。僕は艦内オペレーターを担当ね」

 指揮官用の座席は周りより少し高いところにあり、室内がよく見渡せるようになっていた。

 座席の前には透明な35インチのガラス板が3つある。手元にも20インチのガラス板が左右に3枚ずつ6枚設置されていた。

「んじゃ始めるよー。シミュレーション開始。まずはもっさんのモニターからね」

 ガラス板に船体情報やレーダーと地図、味方の状況など様々なデータが表示され始めた。

 試しに触ってみると各種画面が拡大されて表示されたり動かしたりすることが出来る。

「もっさんなら多分出来るかな? 専用の帽子をかぶって貰って良い?」

 手元にあった指揮官用の帽子をかぶると頭の裏に何か当たった感触がした。

「地図に視点を合わせて、集中しながら手を開いてみて」

 言われた通りにやってみたら地図が拡大され、手のひらを開けていく度に地図の倍率が上がって広域が表示された。

「逆に握りしめてみて」

 握り拳を作ると今度は反対に地図の倍率が下がって詳細な拡大図になった。

 どうやら私の動きと連動しているらしい。

「さすが、ゴースト適合者だけあって脳波コントロールは良い反応だねぇ。どんどん試してみて。基本は視点と手と指の動きだよ。慣れたら指の動き無しでもいけるはず」

 通信先の選択も、地図の拡大縮小も出来るようにになっていた上に、画面間の情報移動も動かしたい方向に腕を動かすだけで済んだ。

 自分の欲しい情報がほぼノータイムで手に入る。

「何というかまた無茶なシステムを組み立てたな。これも適合者少ないんじゃないか?」

「だから、もっさんを呼んだんだよー。ちなみに、使いこなせば戦闘に必要な全項目を使えるようにシステムを作りました! まっ現実的には色々と問題があると思うから、ちゃんと人配置してよ」

 えっへんと胸を張りながら説明を終える。

 相変わらずサラッととんでもないことを言う奴だ。

「んじゃ次さっちん!」

「はい! がんばります」

 サナがオペレーターとして返事を返したのを見て、パイロット時代を懐かしく思い出してしまった。

「今から敵と味方をレーダーに表示するよ」

「了解です。敵味方信号確認しました」

「んで、手元にある端末でLILSリルス《lock information link system》を起動させて」

「LILS起動確認。へぇー、敵味方のロックオン情報が視覚化されるんだ」

 指揮官用のモニターにも情報が追加された。

 敵からのロックオン情報は赤色の線で、味方からのロックオン情報は青色の線で表示されている。

 表示も小隊ごとや機体ごとに変換することも出来ている。

 今まではターゲットマーカーが出るだけだったのが、随分と分かりやすくなったもんだ。

「さっちん、続けて援護射撃用のACFCS設定に入って」

 ACFCS《advanced covering fire control system》を追加起動すると、味方部隊がロックしていない敵を次々にロックオンし始めた。

 更に射線の計算も同時に行われて誤射の危険性がある味方が点滅する。

「これで、私は味方機に回避するよう指示をすれば良いんですね?」

「さすがさっちん。飲み込みが早いよ。今のは牽制用のなんだけど、援護射撃のパターン変更はもっさんが指示出してね。ロックパターンを選択すればオートで動いてくれるよ」

 なるほど。パターンの変更が私の仕事か。

 どこの味方を守ってどこの敵を倒すか判断しろってことだな。

「サナ、援護射撃を集中に変更」

「了解。攻撃パターン集中」

 今度は味方機がロックした敵にロックオンマーカーが出現した。

「なるほど。で、ロックオン対象の調整は適宜出来るんだな?」

「もちろん。タッチもしくはもっさんなら視点と人差し指でいけるよ。んじゃそのまま仮想ターゲットの撃破よろしく!」

「了解。サポート頼むぞサナ!」

「任せて龍ちゃん!」

 彼我の戦力は20対20。さて、この艦船一隻でどこまで有利に運べるか。

「牽制射撃で敵を味方から引き離す。LILSによる識別で味方機から攻撃されていない敵を優先的に攻撃する」

「了解。牽制モードで攻撃を開始します」

 味方がロックしていない敵の動きを止め、味方機を下げながら、残りの敵を主砲の射線に誘導する。

 そして、射線上に8機をおびき出すことが出来た。

「主砲発射用意」

「了解。主砲チャージ開始します」

 艦首につけられた大型粒子砲を起動させ発射準備に入る。

「射線情報を全機に伝達。……散開確認射線に味方機ありません」

「主砲発射!」

 敵3機を巻き込み撃墜する。

「続けて味方機と連携して、分散した敵を叩く。指定したターゲットマーカーを味方部隊に転送」

「了解。指定ターゲットに攻撃を開始します」

 散開した内の2機にマップスによる射撃と、艦船による砲撃を集中させて敵の足を止める。

 そして裏から回り込むように連続発射したミサイルが背面から直撃し、バランスを崩した敵に弾丸が雨のように降り注ぎ撃破する。

「このまま残りも落とすぞ。中隊ごとにターゲット情報を送信」

「了解。2中隊にターゲットマーカーを送信。LILSでロック情報の変化確認しました」


 無事シミュレーションが終了した。結果はもちろん勝ちだ。

「おつかれさまー。さすがもっさんとさっちんだね。息ぴったりだったよ」

「サナのおかげだ。さすがに1人だったら無理だったよ。ありがとう」

 サナの頭の上に手をのせて感謝の意味も込めて優しく撫でると、サナは顔を赤くしてうつむいてしまった。

 いつもと立場が逆転していて、ちょっと嬉しい。

「ありがと。でもちょっと疲れちゃった。後、松平さんがいる前でちょっと恥ずかしいよ」

「大丈夫か? 松平休憩室は近くにあるか?」

 手を頭から離すと、「あっ」と小さく残念そうな声が聞こえたが、ここは我慢だ。

「んじゃ、どうせならご飯に行こうか。お礼の意味も込めて今日は僕が出すよ」

「ありがとう松平。店もおまかせで良いのか?」

「僕のチョイスで良ければ」

「ありがとうございます。どんなお店か楽しみです」

 やれやれ休みの日だっていうのに午前から疲れた。

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