第一章「事後処理」
第一章「事後処理」
「終わったぞぉぉぉ!」
5月3日日曜の16時、執務室の机を両拳でドンと叩き、天井をあおいで腹の底から叫んだ。
山のようにたまった報告書を遂に書き上げて、机の上に突っ伏す。
「宮野大将め……ホントに仕事を山のように押しつけてきたよ……」
一週間前に起きたヤポネ首都ミヤトにおけるテロの報告書だけでなく、他にも色々と書かされた。
今回の市街戦における戦術レポート以外にも、これからの対応策など、一部上の人間がやる物と思われる仕事まである。
おかげで、私のゴールデンウイークは明日からで他の人とは一週間ずれてしまった。
「疲れた……眠い……」
気が抜けたせいか、昔のサボり癖がよみがえってきた。
そのまま上半身を机に預けようとするが、寝てしまってはダメだと頭を横にぶんぶんと振って目を覚ます。
「コーヒー飲みに行こう」
軽い運動とカフェインで眠気を解消する作戦に出て、リフレッシュルームに向かった。 リフレッシュルームにつくと休日で人が少ない中、田口軍曹が何かの資料を見ていた。 集中しているためか、こちらには気づいていない。
コーヒーに砂糖とミルクを入れてから、一口分を飲み込み、頭を上官モードに切り替える。
「田口軍曹、何を見ているんだ?」
「あ、これは大佐殿。来週から入ってくるパイロット候補生達の資料を読んでいたのです」
報告書で忙殺されていて、忘れかけていたが、候補生が来るのはゴールデンウイークが終わる来週からだった。
「そうか。もうそんな時期か。今年もよろしく頼むぞ教官殿」
「ハッ! ご期待に応えられるよう努力します」
以前候補生達の特性を一人一人説明してくれたが、裏ではこのように資料とにらめっこをしていたのか。
上官なのにサボりかけた自分が少し恥ずかしくなる。
これ以上邪魔をしてはならないと思い、コーヒーを飲み干し、その場を後にした。
自分も新人の資料をしっかり確認しておかねばならない。
残念なことに仕事がまた増えてしまったが、文句を言っても仕方ない。
眠気を完全に払うために、執務室に走って戻った。
気合いを入れて走ったのは良かったのだが。
「あれ? 思った以上にきついな」
久しぶりの全力疾走に身体がついていけず、息がすぐに苦しくなる。
「最近書類仕事ばっかりだったからな……」
ちょっとした身体の衰えに衝撃を受けるが、そんなことよりも。と頭を切り替えて仕事に戻る。
今夜は徳川・毛利両大佐から賭けの賞金が手に入る予定なのだ。
残業で行けなくなってしまては、格好がつかない。
それにわざわざミヤトからサナも呼んである。
遅れたら格好がつかないで済む問題ではなくなってしまう。
気合いを入れ直してパソコンに向かい、資料の確認をする。
受け入れ人数80人。何と去年の1.5倍だ。
「パイロットが増えてるとはいえ、いくつまで増えたら頭打ちになるのやら」
思わず苦笑いをしてしまった。
資料を斜め読みで一通り見終えたところでファイルを閉じ、17時になるまで、初日の挨拶を適当に考えながら時間を潰した。
5月3日17時。私の短いゴールデンウイークが始まる。