第十七章「おかえり」
第十七章「おかえり」
4月26日20時00分、派遣していた部隊が帰還した。
私もガレージに出向いて隊員達を迎える。
「諸君ご苦労だった。初の実戦だったが、良く皆無事に帰ってきてくれたな」
「いやー、一日中働いたので疲れちゃいましたよ」
ライン1の武田京子が大きな伸びをしながら笑顔で答える。
気を抜きすぎだが、まぁ良いか。
「ガンドック小隊、全員無事帰還しました」
逆に犬塚剣の方は敬礼をしながら帰還報告をする。
真面目で大変よろしい。
それを見て慌てて武田が敬礼をする。
「ライン小隊、全員無事帰還しました」
隊員達がその様子を見て大笑いする。
「次からはそれを最初にするように」
「了解しました……」
顔を真っ赤にしながらうつむいている。可愛いところもあるじゃないか。
とりあえず、一度咳払いをして声の調子を整えて、私がパイロット時代に作戦から帰還したときに宮野大将がかけてくれた言葉の真似をする。
「みんな、おかえり」
私の笑顔に皆顔を見合わせて驚いている。
そんな驚かなくても良いのになぁ……。
「「ただいま」」
皆が笑顔で返してくれた。なるほど、一人も欠けずに帰ってくるというのは良い物だなぁ。宮野大将もこういう気持ちだったのだろうか。
その後、皆で食堂に行き食事を一緒にとることになった。
田口軍曹が涙を流しながら良くやったと隊員を褒め称えている。
そのデレっぷりにライン小隊一同は面食らっているが、ガンドック小隊の方は大笑いしている。
きっと来年か再来年にはライン小隊がこの光景を見て大笑いするんだろうな。
食事を済ませ自室に戻ると宮野大将から携帯端末に連絡が入った。
プライベート用の通信か珍しい。
「おう、今日はうまくやったようだな」
「おかげさまで。ってところですよ。宮野大将の助言が無ければ恐らく痛い目見てました」
「ほぉ、随分謙虚だな。浮かれても良いんだぞ? 初勝利だろ」
「ハハ、ホッとはしてますよ。それに浮かれてたらまたお説教でしょ?」
宮野大将は私の応答にクククと笑っていた。
「よく分かったな。正解だ。次も頼むぞ坂本大佐」
あれ? ひよっこじゃなくなった。少しは認められたのかもしれない。
「任せてください」
「そういえばだ、レトリア連邦の方で諜報部員が数名逮捕されたらしい。罪状はテロ行為の扇動だそうだ」
なるほど、一連のテロ行為は裏にレトリア連邦がいたのか。
「で、それに対してこちらはどう動くのですか?」
「ようやく会議で合意しかけてるんだ。一応、平和的に事を進めると言うことで、非難声明だけだ」
良かった。こちらから攻めに行くことは無かったか。
「となると、当分は暇出来るってことですかね」
「ハハ、あんまサボりすぎるなよ。仕事を山のようにおしつけるぞ」
「勘弁してくださいよ」
2人で笑い合って通話終了の挨拶をする。
「では、失礼します」
「おう、またな」
携帯端末をベッドの上に放り、自分も倒れ込むようにベッドに飛び込む。
あぁ……そうだ。サナに連絡しなきゃ。
「龍ちゃんおつかれさま」
「サナの方もおつかれさま」
「大変だったみたいだね。身体の方は大丈夫?」
画面を見るとまだ中央司令部のオフィスにいるようだ。
おそらく事件の事後処理で残業中の所だったんだろう。そんな中でこちらの心配をしてくれている。
少し申し訳ないので、今日は早めに切り上げた方が良さそうだ。
「胃が痛くなったこともあったけど、大丈夫だよ。メチャクチャ疲れたけどね」
サナがぽんと手を打って納得したような顔をした。
「なるほど、それでベッドで横になってたんだ。んじゃ今日はこの辺にしとこうか」
「ありがと。そういえば、今度、有給とってこっちに来ないか? ちょっとした賭けに勝って、食事を2人分おごって貰えることになった」
「へー、何があったの?」
徳川大佐と毛利大佐から挑まれた賭けの内容を説明すると、まるで学校の先生のような口振りで褒められた。
口調は演技がかっているが嬉しそうにニコニコしている。
「よく頑張りました。時間が決まったら教えてね。絶対遊びに行くからさ」
「それじゃ、おやすみ。あまり無理するなよ」
「心配しないで大丈夫だよ。後少しであがるからさ。おやすみなさい。ゆっくり休んでね」
電話が切れると意識があっと言う間に無くなって、次の日は危うく寝坊をするところだった。
最後の最後に締まらないなぁ……と苦笑いしながら執務室へと向かう。
以上の出来事が私のハガネの指揮官として最初の作戦となった日の出来事だ。
携帯端末に映し出されるニューストピックはテロ行為があった割には、明るい論調で書かれていた。
機械の英雄達という見出しで、キーナ基地の部隊が映っている。
後で、みんなのネタになるな。
「さてと、今日も平和だと良いなぁ」
太陽に向かって大きく伸びをした。