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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
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第十六章「一撃に全てをかけて」

第十六章「一撃に全てをかけて」


 更に驚くべきことにテロリスト達からオープン回線で通信が入ってきた。

「我々の要求は、FTE技術の封印と古き良き時代への回帰だ。先程の会見でも露呈したが、この国は狂っている。神から与えられた富を一切分け与えないこの国を、神に代わって断罪しよう。人々は満たされた生活をしたあの時代に戻らねばならない!」

 言っていることがメチャクチャだ。理論も何もあったもんじゃない。

「おい、坂本。あれは何の冗談だ?」

 徳川大佐が戸惑いながら通信を入れてきた。正直私も良く分からない。

「いやー、リアルですね。映画の撮影でしょうか?」

「ほぉ、今度息子と見に行こうか。非常に迫力ある映像が見られそうだ」

 毛利大佐も私の冗談にのってくれて、三人で高笑いを始める。

「んな訳あるか! 毛利、まさか領海に現れたのもこれか?」

「落ち着け徳川大佐。不審船は全てただのガラクタだったよ」

 おとぎ話の化け物はあの一点だけか。とりあえず、レーダーを再確認する。

「徳川大佐、あの化け物とマップス八機に挟撃されます。いくらこちらが二十機でも危険かもしれません」

 敵の能力は未知数だ。警戒しなければならない。

「大丈夫だ。私の部下を甘く見るなよ? それに時間をかけると市街地が危険だ」

 部隊を南に南下させて、合流をはかる敵部隊のマップスを先に撃破する作戦をとるようだ。その間に、残りの部隊を北上させて一気に叩くつもりらしい。

 万が一に備えてこちらも準備をしておこう。ガレージに通信を入れて松平を司令室に呼び寄せる。

「もっさんそんなに慌ててどうしたの?」

「良いからモニターを見ろ」

「そんな変な物が映ってるの? ……何あれ? 映画の撮影現場?」

 残念だが松平そのリアクションはもう私がやった!

「いや、それだったら実に良かったんだが、どうやら本物だ」

 それを聞いて松平の眼光が鋭くなる。

「粒子反応と発生熱量、移動速度と船体サイズ。数字が出せる物は全部見せて。後、船体の拡大写真も何枚かよろしく」

 観測データを全て展開してもらい、松平が食い入るように見つめる。

「もっさん、どうやらちょっとめんどくさそう」

 一瞬でデータの解析を済ませて評価を下す。やはり機械に関しては変態的に天才だ。

「ホークアイよりビックハットへ! 巨大タンカーと交戦を始めた陸軍機が落とされました!」

まさかマップスが落とされるとは……。思った以上に厄介だ。対策を急いで立てる必要がある。

「時間が惜しい、松平簡単に説明してくれ」

 眼鏡をくいっと直して松平が説明を始める。

「簡単に言うとFTE粒子を利用した大型兵器。防御システムはこの粒子反応と密度から考えて粒子シールドが展開出来ると思う。装甲の厚さは分からないけど、通常のタンカーの船体とは光沢が違う。恐らく浮遊装甲並の堅さの装甲があるはず。マップスは装甲を厚くし過ぎると四肢の動きに支障があったんだけど、船体だったらどれだけ厚くしても問題無いからね」

 何という物を作り上げているんだ。マップスで浮遊装甲を展開されるだけでも苦労するのに、それで船体を覆っているだと?

「撃破方法はあるか?」

「接近戦によるブレード攻撃。浮遊装甲って普通ははじき飛ばす方が早いからって理由でほとんど切断まですることって無いよね? 一応通常出力で十秒以上粒子をぶつけ続けると切れるよ? 普通しないけど、最大出力なら五秒。大量に弾丸を撃ち込んで傷をつけた後ならもう少し早いかもね」

「その方法だと対空砲火で蜂の巣にされないか?」

「恐らく正解、外観だけで対空用の機銃を四十基八十門確認したよ。先端に装備されている主砲と思われる粒子砲も十分危険だし、副砲も二列に八基ずつで二十四門。正直良くもまぁこんなに積んだよ」

 洒落にならない……。

 元パイロットだから分かるのだが、マップスの機動性がいくら高いといっても全て避けきれる規模じゃない。

 雨の日に傘をささずに走って帰っても濡れない。くらい無理な話だ。

「浮遊装甲を前面展開して、突撃をかけるのも危険と思うがどう思う?」

「同意だね。いくら何でも何百発と貰えばさすがに壊れる可能性がある。残念ながらとても頑丈っていうだけで、魔法の盾って訳じゃ無いんだよね」

「射撃武器による撃破は可能か?」

「対マップス用だと、ちょっと厳しいかな。艦橋の装甲は恐らくそのまんまだから、そこを狙い撃てれば何とか。後はさすがに砲台もそこまで頑丈じゃなさそうだから壊せるかも。粒子シールドの出力次第だから分からないけど……」

 やはり、難しいな。近距離はリスクがでかすぎる。遠距離はリスクが小さいが攻撃が通るか分からないか……。

「ホークアイよりビックハット! 更に悪いニュースだ。陸軍機のパイロットによると攻撃が効かないらしい。現在集中射撃で敵シールドを中和しようとしているところだが、通信を聞く限り相当苦労している」

 遠距離攻撃だと、やはり難しいか。ん? 何かを忘れている……あ。

「なぁ、松平。あのライフル……ブリューナクならどうだ?」

 私の質問を聞いて、とても嬉しそうな顔してニコニコしだした。

「行けるよー。でも真正面から撃つとろ獲やテロリストの逮捕は出来なくなっちゃうね。言わなくても分かってると思うけど、外したら大変なことになるよ?」

 分かってる。だから、万全を期すためにもう一度船体の構造を確認する。

 タンカーの長さは350m、高さは75mで船体の大部分を占めている石油をためる槽に恐らく大型ジェネレーターなどの内装を積んでいるのだろう。

「なぁ、松平。半分消し炭にしても構造分かるか?」

 松平は私の質問に少しの間腕を組んで悩んでから、うんと頷いた。

「多分分かるよ。というか、今考えていること以外で損害を抑えながら確保するのって無理だと思うよ」

「都合良く菱田重工の掃除も終わったと報告も来ていることだし、ちょっと倉庫から借りてくぞ?」

「まさしくこんなこともあろうかと。って話だね。菱田重工技術顧問が許可します。どうぞやっちゃってくださいな」

 松平からの許可をとりつけ、ガンドック小隊とライン小隊を菱田重工の工場に向かわせた。

 ハイブリッドライフル《ブリューナク》は二丁あるのだが、一丁で十分だ。

 発射シーケンスの際に護衛が必要となるので、射手をライン1に任命した。

 ガンドック小隊の方が浮遊装甲による防御が上手いためだ。

 更に松平からの提案でライン2に第二世代用の追加大型ブースターを装備してもらい準備が完了した。

「坂本! 毛利! あの化け物タンカーは危険だ! 浮遊装甲が破壊されるほどの攻撃をしてくるぞ! こっちの部隊がかなり落とされた。全戦力を合流させてから、体勢を立て直して攻撃するぞ」

「敵マップスはどうなりました?」

「マップスの訓練を受けてなかったのだろう。大して苦労せず撃破して確保済みだ」

 最大の問題があっさり片付いてしまった。おかげでこちらの仕事がかなりやりやすい。

 これ以上損害が出る前に終わらせなければ。

「新兵器を使用して撃破します。既に段取りは済んでいるのでいつでも行ける状態です。海軍機は万が一に備えて首都に待機していて下さい。陸軍機も一時後退を!」

「分かった。任せるぞ。こちらは一旦撤退する」

「首都の方は警察に任せてくれたまえ」

「長官殿、海軍を忘れないでくださいよ。頼むぞ空軍諸君」

 徳川大佐、警察庁長官、毛利大佐からの許可を貰い、指示を出す。

「ビックハットよりガンドック小隊及びライン小隊。敵の大型飛行艦船を撃破するぞ!」

「「了解!」」


 高度1kmで前進し、距離が10kmまで近づいた時、マップスのモニターからその巨体が映し出される。

 この巨体が高度800mほどで時速200km/時ほどで飛んでいるのは、やはりにわかに信じがたい光景だ。

 その光景に目を奪われていたら、タンカーの側面にある装甲が八カ所開き、中からミサイルが合計八十発も発射された。

「うっわ、何これ花火大会でも始まった?」

「気が合うなライン1。私も同じ事を考えていた。全機フレア射出!」

「ちょっとーガンドック1、私の部隊まで指示しないでよー」

 敵のミサイルに対抗して、フレアを射出しながらミサイルの雨をそらせながら突き進む。

 距離が7kmを切り始めるとさらに敵艦船から対空砲火が始まった。

「今度は粒子砲による対空砲火が追加かよ。緑やら赤やら青やらカラフルで素敵だな! 爆発物のプレゼントまでつけやがってクリスマスかってんだ!」

「ガンドック4落ち着いて。そろそろタイミングよ。みんなも気を付けてね。十秒ごとに防御陣形の前列後列を後退して、浮遊装甲の排熱をして!」

 ガンドック2が言ったようにそろそろだ。 敵がこちらの集団にかなり気を取られていて、必死に落とそうとしてきている。この状況なら奇襲が出来るはずだ。

「ビックハットよりライン1、ライン2、ショータイムだ。一撃で決めてこい!」

「まさか早速実戦で使えるとはねぇ。待ってましたよこの時を!」

「大佐は俺をスピード狂にでもするつもりですか? 説明を受けたときは意味が分からなかったですよ」

 二機が奇襲のための準備に入り、残りの機体が交互に前面に出て浮遊装甲を展開しながら攻撃の雨を防いでいる。

 ライン1が腰部ハードポイントに装備していたハイブリッドライフル用の円柱型外部ジェネレーターをレボルバー部分に接続する。

 AIによる機械音声がこちらにも聞こえ始めた。

 ―ハイブリッドライフル・ブリューナク発射シーケンス開始します―

 ―トリガー、リボルバーコンデンサー、ガンバレル展開―

 ―外部ジェネレーターの接続を確認しました。エネルギー供給を開始します―

 ―専用弾をマガジンからガンチャンバーに装填―

 ―リボルバー内粒子増加を確認。回転加圧開始します―

 ―高密度粒子の生成を確認。ガンチャンバーに放出開始―

 ―専用弾のコーティングを開始。コーティングパターン《ピアース》―

 ―弾丸内高密度粒子装填率25%……50%……75%……100%―

 ―弾丸外殻コーティング完了しました。ブリューナク発射可能―

 この間何と三十秒。何とか防ぎ切れたようだ。

 事前に彼らが部隊を巻き込んで訓練をした甲斐があった。

「ライン1より全機へ。ブリューナクのチャージ完了! 行けるよ!」

「よし、全機作戦通りに動け」

「「了解!」」

 一斉にスモークを発生させ、小隊がいる半径100mほどが煙に包まれる。

 そこからライン1を抱えて追加ブースターを最大出力まで上げてライン2が一気に降下する。そして残りの八機で前進して、大型艦船の注意をひきつける。

 ライン2はわずか数秒で時速1000kmまで速度をあげ、更に加速していた。

「うおおお?! さすがに速すぎるぞこれ?!」

「ちょっとライン2! 地面とキスだけは勘弁よ! ちゃんと動いてね?」

「分かってるよ! 俺はちゃんと女の子とキスしたい。ってかまだ速度上がってるし! 八秒後に離すぞ準備しろよ」

「了解!やってやるわよ」

 100mの低空飛行で音速を超えているのだが、郊外で本当に良かった。新しく開拓するための山間部で人的被害を気にしなくて良かったのだ。木々は風圧で折れているものがあるが、この際仕方ない。

「後は、任せたぜ。決めてこいライン1」

 タンカーの真下に潜り込むようにライン1がライン2より落とされた。

「当たれええええ!」

 ライン1の叫びと共に放たれた弾丸は、轟音を響かせ青い輝きを放ちながらタンカーの船底に向けて飛翔する。

 弾丸の外殻にコーティングされた粒子がらせん状に分散することにより、敵の粒子シールドを攪乱し、貫通力が殺されずに命中して激しい金属音が鳴り響く。

 そして、命中の瞬間に弾丸内に圧縮された高密度粒子が解放され巨大な粒子の槍となって船に突き刺さった。

 直径50m長さ100mの細長い円柱に近い円錐形の青白い槍。

 まさしく雷を体現したブリューナクといったところか。

 船体の六分の一が消し飛び、制御が出来なくなったタンカーが墜落していく。

 その後墜落したタンカーの艦橋をマップスで占拠し、めでたくテロリスト達の逮捕と半壊しているが機体サンプルがとれた。

「やれやれ、これでさすがに終わりだろ」

 一番のでかぶつを撃墜したことと、首謀者が逮捕出来たので、ほぼ収束したと考えて良いだろう? さすがに疲れたぞ。


 4月26日1800 ミヤト動乱に関与したテロリストの制圧完了


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