第十五章「ミミックボックス」
第十五章「ミミックボックス」
ガンドック小隊が空中戦を開始し、ライン小隊が首脳護送を始めた。
ガンドック小隊の方は射撃が出来ず、動きも常に上にいるよう制限されるため、思ったように敵が攻撃出来ていない。
敵もそれに気付いてわざと距離を離してきている。首脳を守る上では効果的なのだが、やっかいであることに変わりはない。
「ガンドック1よりビックハットへ。射撃武器の使用許可はまだですか?」
「まだだ。すまないがもう少し持ちこたえてくれ」
「了解。全機落とされないように注意するぞ」
さすがにもう1時間近く経つんだ。そろそろだろ?
「こちらライン1。敵が強行突破を図ってきた! さすがに防御だけじゃ厳しいわよ?」
やはり、そうなるか。ライン小隊の方もかなり分が悪い。
4対5で強行突破を防ぐとなると、かなり面倒だ。
それに、今は射撃が制限されていて牽制すら出来ない。
「橘、待避ポイントまでの時間は?」
「残り一分です」
「ライン小隊、一分で良い。敵を抑えろ」
「了解! 全機浮遊装甲展開と同時にカウンターの用意!」
ライン小隊は無数の弾丸を浮遊装甲で全て防ぎながら、敵部隊の格闘攻撃に備える。
「やっぱ私に来るよね。もてる女は辛いわ!」
隊長機と判断されたライン1の機体には片腕が無くなった機体と損傷が少ない敵2機が、残りの隊員に敵が一機ずつ攻撃をしかけるために接近してきた。
「しっかり振っとけよ? 男の告白を適当にあしらうと後で痛い目見るぜ?」
「言うじゃないの!」
ライン1は左右から来た敵の粒子ソードによる斬撃を浮遊装甲で受け止め左手にダガーを、右手のロングレンジライフルに炸裂火薬仕様のパイルバンカーを装備した。
敵2機が防いでいる装甲をはじきとばし、防御ががら空きになる。
鍔迫り合いから蹴りを入れて敵マップスを吹き飛ばしたライン2が援護に入ろうと接近するが間に合いそうにない。
「くそっ、やれるかライン1?!」
「私を誰だと思ってんのよ?」
追撃を入れようと粒子ブレードを振り上げる敵2機に対して、ダガーの投擲と、パイルバンカーを敵の腕部に直撃させる。
ダガーを当てられた敵は腕からのエネルギー供給が途絶え、ブレードの刃が消えた。
もう1機のパイルバンカーを当てた方は装甲内からの爆発で、腕部がちぎれるように吹き飛んだ。
ライン1は、吹き飛ばされた浮遊装甲と飛ばしたダガーを回収して、再度機体の周りに浮遊装甲を展開しながら叫ぶ。
「ライン小隊隊長。武田京子よ!」
「決め台詞を言うならしっかり敵を片付けてからにしろ!」
ダガーを当てられた敵が左手のアサルトライフルを使って、ライン1の機体に射撃を撃ち続けて足止めを行っている。
その間に両腕の無くなった敵機が頭上を越えて公用車を運んでいるライン3に接近する。
私もしまった。と思ったその時待望の通信が入った。
「待たせたな坂本大佐。北地区避難完了だ!」
警察庁長官から規制解除の連絡が入った。
「全機射撃規制解除! 発砲を許可するがあまり町を壊すなよ!」
「待ってました! ライン2前の奴を頼むわ。後ろに行った奴はこっから撃ち落とす。ライン4とライン5は牽制射撃で敵を突破させないで」
「簡単にいってくれるぜまったく!」
文句を言いながらブレードを構えてライン2が敵に突撃をかける。
「ライン5分かってると思うけど」
「おうよ、建物を吹っ飛ばすなって言うんだろ?」
丁寧に敵を狙いながら一発一発とレールライフルを発射する。
派手さは無いが、確実に当てることによって敵をひるませることが出来た。
「いただき!」
ライン1のかけ声と共に放たれた弾丸は見事に敵マップスの背後を捕らえた。
ブースターが爆発し、推進力とバランスを失って、その場に落ちた。
ただ、まだ脚のブースターが生きているので、まだ動ける。それを見越して、さらに脚部と腰部に3発の 弾丸を撃ち込み、行動を完全に封じる。
「こちらライン3。ポイントに到達。首脳陣は地下の専用リニアに搭乗を始めました」
よし、良くやった。これで後は敵部隊の撃退のみだ。
「こちら空軍坂本。全軍へ、首脳陣の待避を確認した」
「こちら陸軍徳川。冷や水を浴びせて悪いが、予想通り菱田重工工場および本社に歩兵が入ってきた。ただいま待機していた部隊が応戦中だ」
やはり本命はそこだったのか。
テロリスト達が首脳の拉致に成功しても失敗しても、油断か混乱で菱田重工に進入できる作戦だと考えられる。
宮野大将の予想通りだったか、やはり凄い人だ。
対処は待機していた陸軍が何とかしてくれるだろう。
おかげでこちらの部隊は、残敵の撃破に集中出来る。
「お、やるじゃないのルーキー! こっちも負けられないっすね隊長!」
ガンドック4が情報を聞いて素直に褒めたたえた。
「あぁ、こちらも仕事を果たすぞ」
射撃規制が外れたおかげで、お得意の連係攻撃を開始する。
「ガンドック1よりガンドック全機へ、フォーメーション(ハント)」
「「了解」」
敵1機を引き離すために残り4機に攻撃を集中する。
弾幕で相手を追い込み防御態勢をとらせてから、ガンドック1による高速機動で陣形の端にいる敵に近接攻撃をしかけ、少しずつ部隊から引きはがしていく。
まさに猟犬による追い込み猟といったところだ。
「全機、まずは一機だ」
隊長の合図と共に一斉にターゲットを部隊から離れた敵機に合わせる。
浮遊装甲を展開されて、集中砲火によるダメージは少なかったが、完全に動きを止めることが出来た。
「もらった!」
そして、その動きの止まった獲物の後ろにガンドック1が回り込み、コアにブレードを突き立てて、そのまま横に滑らせてコアを切断する。
「次いくぞ!」
「「了解」」
見事な連携攻撃で敵を一機撃破する。墜落していく機体から避難するパイロットが確認出来たので、警察部隊に連絡を入れる。
「こちら空軍坂本、敵パイロットの脱出を確認した。ポイントは中央から11時の方向に20km。殺害せずに逮捕して下さい」
「分かった。こちらのマップスをテロリスト逮捕に回す」
海軍機も北部地区に到達し、一気にこちらが優勢となる。
精鋭揃いの20対8だ。負ける確率は非常に低いはず。
「ビックハットよりミヤト全軍へ。そのまま敵を撃破するぞ」
部隊の気合いを再度入れ直す。
ただ、ここで敵部隊は予想外の行動をとってきた。
「こちらライン1。敵機が後退していくわ」
「こちらガンドック1。同じく敵が撤退を始めた。方角は11時の方向。追撃しますか?」
このタイミングで? マップス以上の何か隠し球があるというのか?
いや、どちらにせよ徳川大佐に連絡を入れなければ。
「徳川大佐。そちらの北拠点に敵が接近しています。注意してください」
「大丈夫だ。敵車両部隊およびマップス部隊はすでに撃破した。そのまま迎え撃つ」
さすが、百戦錬磨の部隊だ。圧倒的な数で敵を制圧しきったらしい。
そうであるなら、追撃は無しだ。
「ビックハットより全機。追撃はせずに、陸軍に任せる。これで敵が全部と決まった訳ではない。油断するなよ」
「「了解」」
空軍部隊の首都待機を決定した後に、徳川大佐から軍用回線で連絡が入ってきた。
「菱田重工を襲った連中だが、報告によると東の石油国家群の連中らしい。テロリストを装っているが、どうやら元正規兵だ。こちらの部隊も重傷を負った者が出ているが、何とか撃退に成功した。偽装したマップスは北部戦線の援軍に戻すぞ」
「了解しました。頼みます」
ただのテロリスト部隊では無いと思っていたが正規兵がかなり混じり込んでいたのか。
道理で統制がとれている。その上、これまでの仕掛けの数々、優秀な指揮官が裏にいるはずだ。
やれやれ、菱田重工が守れたのは宮野大将様々といった所か。
しかし、ほっと出来たのもつかの間だった。
「ホークアイより全軍へ。首都北部80kmの山岳地帯から異常な粒子反応を確認! なんだこれは? でかすぎるぞ? 衛星からの映像を全軍に転送する」
山の斜面から粒子砲の青い輝きが天を貫いた。
その崩れ落ちる土砂と木々の中から何かが姿を現した。
この国では技術者の趣味により設計案が初期で廃棄された計画。
高騰する地価。
多すぎるトラック。
運ばれていた兵器と思わしき物。
東部の石油産出国家群で消えた大型艦船とレトリア連邦での再発見。
その全てが一つに繋がった。
FTE粒子の制御技術による大火力の砲台と移動性能を手に入れた新たな軍艦。
割れた山から大型タンカーを元に改造された空飛ぶ船が姿を現したのだ。
その光景に司令室内は騒然としている。思わず私も心の底から素の言葉が漏れてきた。
「マジ?」
4月26日時刻1640。