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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
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第十三章「動き出す策」

第十三章「動き出す策」


  午前中の会議はどうやら無事に終えたらしい。

 中継を見ていると今から昼休憩に入るようだ。とりあえず、今の所何事も起きていない。

 この間に司令室にいるメンバーに交代で昼食と休憩をとるように指示する。

 私は持ち場を離れられないので、おばちゃんと佳奈さんからオニギリの差し入れを貰っている。

「ビックハットより全機へ。今のうちに身体の方の補給をしておけ」

 長期戦で空腹状態になると士気の維持が出来ないのは、兵法の基本と習った。

 少し隙が出来るデメリットがあるが、士気の維持するメリットの方が強い。

「「了解」」

 最近の携行糧食は宇宙食をもとに開発したパックに入っている。

 技術の進歩でなかなか味も良い物になっている。

 蓋を捻ってあけると、二重構造になっている外側の袋が酸素と反応して熱を発し、内側の袋に入った食事を温めるスピード調理だ。

「不味くは無いんだけど、何かこういう吸い込むタイプだと、食った気がしないんだよなぁ……」

 ガンドック4が少し悩ましそうにぼやきだした。

「ゼリーやビスケットよりマシよ。なんなのあれ? 容量のくせにカロリー高すぎるわよ。ついつい食べ過ぎちゃってひどい目見たわ」

 ガンドック2が釣られてお喋りを始める。

 緊張した心の疲れをとるために、食事中くらいは賑やかにしてもらっても、構わないと思ったので、とりあえず私語は放置する。

「いや、俺らってカロリー取らなきゃ、やってられなくないか? というか、お前そういうの気にしてるんだな」

「本当にデリカシー無いわねぇ……軍人やってるけど、一応女の子よ?」

「お前が女の子ねぇ……何かの冗談だろ?」

「4今のは先輩が可哀想です」

 同じ女性であるガンドック3から、呆れた口調で非難の声が発せられた。

「性別的には2は女性だろう。4お前は何を言っているんだ?」

 ガンドック5……それは正しいが、ちょっと勘違いをしていると思うぞ。

 司令室の皆もクスクスと笑い声を押し殺しながら笑っている。

「先輩……ここにも、もう一人ダメな奴がいました……」

「5、後でお説教です」

「え、何か変なこと言いましたか?」

 そんなやりとりに、隊長のガンドック1がさらりと小さく呟く。

「やれやれ、相変わらず酷い話だ」

 ライン小隊の面々もガンドックの会話に驚いていた。

「いやー、ハンデがあった初回以外、模擬戦で勝てなかったから、よっぽど厳しい真面目な人たちかと思いきや、思ったよりはっちゃけてるのねぇ。私達もあれくらいやっちゃう?」

 隊長のライン1が妙な提案をしだすが、ライン3の沖田がうんざりしたような声でそれを止める。

「ライン1とライン2以外にもはっちゃけだしたら、収拾つかないよ? 何で隊長と副隊長が君達2人になったんだろう。僕はガンドック1みたいな真面目な人が、隊長だと良かったよ」

「そりゃ、私の魅力じゃないの?」

 とライン1の武田が答え、

「俺は人徳だな」

 とライン2の伊東が答える。

 2人とも違う! と思わず通信でつっこみを入れそうになった。

 武田を隊長に選んだのは模擬戦時に見せた視野の広さ、度胸の良さ、そして戦術立案から実行までの部隊指揮能力の高さから。

 伊東を副隊長に入れたのは、その反射神経の良さから味方機の総合的な援護と、敵陣切り込みの際に部隊鼓舞が出来る威勢の良さ。

 そして、その2人の特性から隊長機の武田と相性が良いからだ。司令室からは見落としてしまう現場の情報を広く観察し、敵部隊の弱点部分に攻撃を集中、もしくは防御を崩すチャンスメーカーとして活躍出来る組み合わせだ。

「2人の考えは絶対に違うと思うよ……」

 隊長と副隊長の滅茶苦茶な回答に頭を抱えながらライン3は溜め息をついた。

「まぁまぁ、良いじゃないの。暗いよりかは明るい方がマシよ?」

 そう。攻撃向きの部隊はどんな時でもポジティブで無くてはならない。

 この明るさも隊長になる資質の一つだ。彼らにはまだ冷静さが少し足りないが、この先がんばってつけてもらおう。

「何だかんだで、うちの部隊も十分はっちゃけてるよね」

 ライン4がライン5と一緒に部隊の総括を始める。

「そうだな。ガンドックに負けず劣らず愉快だと思うぞ。ただ、まぁ貧乏くじはライン3に任せるけどな」

「勘弁してよもう……」

 切実な声で2人の協力をあおるが残念ながら笑ってスルーされている。

 私はそんな部下のやりとりを聞いて内心とてもニヤニヤしているのだが、顔には何とか出さずにいる。

 良いチームじゃないか。これから先が楽しみだ。

 と思っていたら、緊急通信が入った。その内容を聞いて、突然背中に冷たい水をかけられたような寒気がする。

「警察本部より全部隊へ、不審物の情報が入った。現在、部隊を向かわしている。確認の報告が入り次第すぐ連絡を入れる」

「ついに来たか。ビックハットより全機、不審物が発見された。楽しいお喋りは一旦中止しろ」

「「了解」」

 切り替えが早くて助かる。

 ただ幸運なことに、この連絡からすぐ5分後に中身はただの時計であることが報告された。

「誤報か。良かった」

 ここで、仕掛けられたかと思った。しかし、安心したのも束の間で、警察の方に次々と不審物の情報が入る。

「こちら警察本部。先程から通信呼び出しが止まらない。しかもほとんど、不審物だ」

 安心なんかしている場合ではなかった。間違いない、敵の仕掛けが動き始めている。

「不審者は見かけられていないのですか?」

「今確認しているところだ。これは応援を近い内に頼むことになるかもしれん。軍の皆、頼むぞ」

 不審物情報はほとんど首都北側の地区からだそうだ。深呼吸して頭を落ち着けさせる。

 本命はどこだ? 北に意識を集中させてからの南部からの侵攻か? それとも、それを読みの裏をかいて北が本命か、どっちだ?

 残念ながら分からない。こうなればどちらでも対処出来るように動くだけだ。

「毛利大佐。提案があります」

「分かっている。南側は任せろ」

「感謝します」

 毛利大佐も同じ考えに至っていたようだ。おかげでこちらの部隊を北に回せる。

「ビックハットよりガンドックおよびランス全機。旋回範囲を北側のみに絞る。こちらからガイドラインをレーダーに表示するので、それに合わせろ」

「「了解」」

 警察からの続報が次々入るが、全て誤報。

 つまり中身は何でもない紙袋やスーツケースなどが置かれているだけだった。

 そしてこの誤報騒ぎが2時間弱続いた後、ようやく落ち着いた。

 あまりの異常事態に指揮官全員が状況の確認を取り合う。

「さて、軍の諸君。君達ならこれをどうみる?」

 苦虫をつぶしたような顔で警察庁長官が尋ねてくる。

 相手の思うつぼだろうが、あれだけ部隊をひっかきまわされれば、イライラしてしまうのは仕方ない。

 しかも、防犯カメラからの情報は、見た目が二転三転していることから、多数のテロリストが工作している。と考えるのが自然だ。

 共通しているのは、警察に連絡を入れた人達は誰かが「あれは何だ?」という声を後ろから聞いた。ということだけだそうだ。

 つまり通報者は基本的にシロ。

 そこまで確認をとってから、徳川大佐が考えの説明を始める。

「恐らく、目的は2つ。1つは今の長官が陥っている状況です。ひとまず、落ち着きましょう。次に我々を不審物情報に慣れさせること。また、誤報かと油断させることです」

 精神的な揺さぶりか。冷静な対応をとらせない狙いは確かに考えられる。

 そして、次に毛利大佐が続いた。

「そして、今パタッと止んだ。徳川大佐の考えから推測するに、恐らく次に何かを仕掛けるかと。私ならそうですね……本物をそろそろ仕掛けます。この後予定されている記者会見に合わせてね」

「場所はどうなる?」

 毛利大佐の提言に場所が抜け落ちたことをしっかり気付いて質問をする。

「正直分かりません。今までの誤報は北側からが多かった。だから本命は南側。もしくはその予測の裏をかいて北側で爆発させて、混乱を生み出し、首脳を狙いやすくする。と考えるのが普通でしょう」

「分かっているではないか。それに聞いた限りありうる話だ」

 同じ考えに至ったので、毛利大佐の言いたいことが分かる。

 だからこそなのだ。ありうると思ってしまうからこそ、怪しい。

「そう。誰でも思いつく偽報の使い方です。そのせいですよ。分からないのは」

「どういうことか分かりやすく頼む」

「今回テロリスト達は、1ヶ月以上前から潜伏し、今日も狙いやすい移動中ではなくわざわざ偽報まで使ってきて、こちらの混乱を誘っている。その相手が立てる計略の詰めが、こんな単純な話であるとは思えないのです」

「むぅ……だが、それではこちらも手が打てないぞ? 結局の所、現状維持しかないではないか」

 毛利大佐の言う通り別の狙いがあるなら、今の北部と南部の分散旋回も死角があるため問題となる。

 しかし、今の陣形を更に1小隊ずつに分散させて、奇襲に備えると、普通の手で来られてしまった時に問題が生じる可能性もある。

 となると、打開するには相手の目的をもう一度考え直すべきか。

「今悩んでいるのは相手がどのような方法で我々の裏をかいてくるかということですが、テロリストの標的はほぼ間違いなくヤポネ首相でしょう。となると、どのような方法にせよ国際会議場への接近が必要です。兵器を使っての接近ならば、警察特殊部隊のマップスで対処出来るはずです。さらに、上空を旋回している海軍機と空軍機の旋回範囲を国際会議場上空500mまで狭めます。遠距離からの侵攻を止めるのは遅くなりますが、近距離からの奇襲による被害はかなり抑えられるのでは?」

 しばしの沈黙の後、皆が渋々と了承の言葉を口にする。

「やむを得ない……ということか」

「残念ながら、やるしかありません。部隊に指示を出しましょう」

 陣形変更の決定が下されたので、すぐに指示を出す。

「ビックハットより全機へ。旋回範囲が変更になった。レーダーのガイドに従って移動しろ」

 国際会議場を中心に500mの円がレーダーに表示され、味方機のシグナルが円の中に入っていく。

「ホークアイ、分かっているとは思うが、今の陣形で一番の要は君だ。敵を見逃さないように注意しろ」

「了解」


 現在時刻1450。記者会見まで残り10分。

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