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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
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第十二章「国境資源会議開幕」

第十二章「国境資源会議開幕」


  朝6時に目が覚めて、いつものように顔を洗い、軽い朝食をとる。

 コーヒーを入れて、端末を立ち上げる。

 おはようございます。と機械音声が流れ、カレンダーに記載されている今日の予定を確認する。

 4月26日

 ・全日……国境資源会議警備指揮

 ・全日……領空侵犯の警戒

「ついにこの日が来たか」

 軍事大国レトリア連邦との国境資源会議の日だ。

 ニュースサイトはもちろん国境資源会議がトップニュースだ。

 様々な関連コラムが書かれており、ニュースサイトの閲覧ランキングの上位には多くの関連記事が載っている。

 そして、いつも通りのスポーツや芸能記事も続いて並んでいる。

 恐らく、今日から数日間ニュースがとあるもので一色になるだろう。

 それは残念ながら、変えられそうにない。

 ならばだ、せめてその色を絶望感溢れるものでなくすだけだ。

「よし、司令塔に向かうか」

 コーヒーを一気に飲み干し、端末を落とす。

 今日は他のニューストピックを見ている暇は無い。

 コーヒーカップを洗い、乾燥棚に置いて、個室を後にした。

 7時30分に司令塔につき、オペレーター達に今回の警備に参加する基地との通信をつなげて貰った。

 司令官用の机のモニターに徳川大佐と毛利大佐が映っている。

 どちらも私よりも先にスタンバイしていたのか。しまったな。

「おはよう。坂本大佐。昨日はよく眠れたかね?」

 毛利大佐から少しドスが効いている声がする。そして、何故か両名の表情が少し怖い。

 まだ、規定の時間より早いハズなのだが、どうしたというのか?

 とりあえす、落ち着いて対処だ。

「えぇ、皆様が優秀な方ばかりなので、おかげさまで。ところで、何かあったのですか?」

 私の返答に対して、何故か徳川大佐はがっくりと肩と頭を落とし、毛利大佐はうんうんと笑顔で頷き始めた。

「私の勝ちだったようだな徳川大佐」

 毛利大佐の勝ち?

「くっ、外したか。仕方あるまい君の勝ちだ。今度そちらに向かうよ」

 何かの賭け事をしていたようだ。ただ、どういう賭け事をしていたのだろう? と疑問がわいたので尋ねることにした。

「すみません。話が見えないのですが。何の賭けをしているのですか?」

 私の疑問に徳川大佐が落としていた頭をあげて答えてくれた。

「あぁ、すまんすまん。確か君は今回が初めての実戦だろう? 緊張して眠れるか眠れないかの賭けをしていたんだよ」

 あぁ、そういうことだったのかと納得すると、毛利大佐が追い討ちをかけ始めた。

「な? 言っただろ? 私の見る目はまだ衰えていない」

「いや、お前が眠れるに賭けたら、選択肢は一つしかないから仕方ないだろう」

「ならば、最初から乗らなければ良いではないか? それに先程負けを認めたではないか」

「だから、せめてレートを下げてくれ」

 ワーワーと五十近い2人が言い争いを始めてしまった。

 割って入れる雰囲気では無いので、とりあえず、治まるまで待つことにした。

 5分ほど言い争いをした後、2人とも何故かかなりスッキリとした表情となっていた。

 一体何が起きているのか? と疑問に思っていたら、こちらの心境に気付いたのだろう。毛利大佐が先程までのやりとりを説明してくれた。

「おっと、坂本大佐を仲間外れにしてしまったようだ。熱くなりすぎたな徳川大佐」

 ハハハ。と2人が笑いあってから、また説明が続けられる。

「先程の賭けと言い争いなら気にするな。ちょっとしたジンクスだ」

 今のやりとりが験担ぎだったのか、意外とプライベートでは愉快な人達なのかもしれない。

「毛利大佐。どうせなら坂本大佐にも混ざって、やってもらうというのはいかがかな?」

 狐のようにつり上がった毛利大佐の目がキラリと光ったように見えた。

「よし、今度は何を賭けの対象にしようか?」

 どうやら私の意志とは関係なく、巻き込まれてしまったらしい。

 2人が楽しそうに悩んでいると新たな通信枠が出現した。警察庁長官だ。

 咳払いと共に挨拶をされる。

「おはよう。軍の諸君。今日はよろしく頼むよ」

「「ハッ、こちらこそよろしくお願いします」」

 2人の声が、さっきまでの冗談めいた口調から一気に固い声の調子に変化した。すごい対応力だと感心してしまう。いや、感心してる場合ではなかった。

 私も続いて挨拶を返さねば。

「微力ながらお手伝いさせていただきます」

 これで指揮者が全員揃った。これを契機に、各々が自分の部下に指示を飛ばし、警備体制を整え始める。

「こちらビックハットよりオーカシス基地に待機中の全機へ、準備は出来てるか?」

 隊長3人が代表して返事を返してくれた。

「「アフマーティブ」」

 いつでも行けそうだ。彼らの表情と声からは、焦りや不安も今のところ感じられない。

「よし、合図が来るまで待機」

 空軍の方は準備が完了したと他の指揮官に伝える。

 後は、他の3部隊の準備が終わるまで、待つだけだ。

「陸軍、準備完了だ」

「海軍の方も問題ない」

「全部隊準備が済んだようだな」

 陸、海、空軍そして、警察による作戦の始まりが警察長官から伝えられる。

「作戦コード、ケルベロス。ミッションスタート!」

 参加者達の雄叫びが混ざりあって、まるで窓を激しく叩く大嵐のような音になった。

 そして、その轟音とともに全ての部隊が動き始め、私の部隊も指定された空域に向かって移動を開始する。

 ちなみに、今回の作戦名は警察庁長官の趣味だ。

 陸、海、空という3つの軍という頭が警察という胴にくっついた三首の犬。

 言うならば(首都の番犬)と言ったところか。

 ただ、やたら物騒な番犬ではある。子供達からの人気は得られそうにない。

 打ち合わせで作戦名を決めるときに、長官からこの案が出された時は吹き出すのを堪えるので精一杯だった。

 もっと堅苦しい作戦名を言うと思っていたので、50代中盤の男性にしてはファンタジー過ぎる。と心の中でつっこみを入れていた。

 いや、外連味は大事なので悪くない作戦名だと思いますよ長官殿。

 打ち合わせの時を思い出して、少し思考が変な方向に飛んでしまった。

 そして、予定通りの時刻に、私の部隊が首都ミヤトに近づいているので、旋回の準備をするよう指示を出そう。

「ビックハットよりガンドックおよびライン全機、まずは指定空域の端を時計回りに回ってくれ。ホークアイは予定通り高度を上げて首都中央で旋回だ」

「「了解」」

 現在の時刻は0830。

 ここから先は1秒たりとも気が抜けない。

 モニターに映し出される地図を見ながら息をのむ。

 ガンドックとライン小隊が旋回行動を始めて30分後。

 敵部隊の出現は確認出来なかったので、予定通り両首脳の移動が始まった。

 警察の方から送られてくる映像を見ると、道路を最大限まで使って、公用車の周りをパトカーが最低でも三重に囲んでいる。多いところは五重だ。

 そして、上空ではガンドックとラインの二小隊は、公用車との距離が一定になるように旋回を続けている。

「ホークアイ、レーダーに反応はないか?」

「今の所は不審な物は映っていません。粒子反応や熱源レーダーで検知される高エネルギー体は味方機のみです」

「了解した。そのまま観察を続けてくれ」

「イエッサー」

 この移動するタイミングでは無いのか?

 建物内にいられるよりかはターゲットが狙いやすいし、マップスの護衛も相手から見ては近くにいないので、兵器による奇襲にはもってこいの状況なのだが……。

 そんな私の心配をよそに、公用車は順調に会議場に向かっていく。

「なぁ、坂本大佐。先程の続きなんだが、今回の賭けは君が作戦中に混乱に陥って焦るかどうかにしないか?」

 軍用の回線を使ってこの状況でとんでもないことを徳川大佐が言い出したので、思わず驚いてしまった。

「徳川大佐この状況で一体何を?!」

「この状況だからこそだ。もちろん君は焦らないに賭けろ。私と毛利大佐は焦るにかける。構わないだろ?」

 毛利大佐もいつの間にか軍用回線を使っていて、一時的に警察長官は仲間外れになっている。

「なるほど、その話乗った。坂本大佐、私達との賭けに勝て。好きなもん食わしてやる。かわりに君が負けたら、キーナの最高級料理店を我々二人にごちそうしてもらおう」

 全く、この国の将官達は真面目に見えてどこか愉快な頭をしてる。

 励まし方がひねくれ過ぎだ。それとも照れ屋なだけなのか?

 言い争いまでジンクスになっている理由がよく分かったよ。

「分かりました。でも覚悟しといてくださいよ? 2人相手にしてるんです。私が勝ったら2人分おごってもらいますよ」

 ワハハと徳川大佐が大笑いを始めた。

「おい、毛利! 上乗せ(レイズ)が来たぞ!」

「だから言っただろ? 私の目に狂いはない。坂本大佐その度胸、実に私好みだ。その上乗せ(レイズ)に乗ってやる!」

 ノリノリな2人のベテラン指揮官のおかげで、俄然やる気が増してきた。

 あぁ、人の士気ってのはこういうことでも上げられるのか。勉強になる。

「よし、賭けも決まったし秘密のお喋りはここまでだ。カシゴマ基地とキーナ基地のオペレーター諸君、今の話はくれぐれも内密に」

 司令室にいる全員が顔を見合わせて苦笑いしている。ただ、2人のおかげで、緊張し過ぎない良い空気になったようだ。

 そんな中で深呼吸をして、自分の冷静さを確かめる。

 心拍正常、呼吸いつも通り、喉の渇き無し、空腹感無し……。

 よし、大丈夫いける。この賭けに負けるわけにはいかない!

 覚悟を胸に刻み込み、モニターを見つめ直す。

 出だしは非常に順調。

 長い長い一日の、長い長い30分が終わり襲撃を受けやすい移動は無事に終わった。

 4月26日時刻0930。ヤポネ、レトリア両首脳、国際会議場に到着。

 警察庁長官から通達が入る。

「作戦第一段階成功。とりあえず、一安心といったところか」

 安心するにはまだ早いが、確かに長官にとっては部下が一番危険に晒されるシチュエーションが一つ終わったのだ、

 安心するのも無理は無い。

 それでも、長い一日はまだ始まったばかりだ。

 気を抜くわけにはいかない。


4月26日時刻1000国境資源会議開幕


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