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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第一部ヤポネ動乱編
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第十一章「ハガネの指揮官」

第十一章「ハガネの指揮官」


  4月25日。特に大きな事故や事件もなく、ついに国境資源会議の前日となった。

 今日は警備に向かうパイロット達に対して最終確認をするために、ブリーフィングを行う予定になっている。

 今回の警備に当たって貰うのはAWACSのホークアイとガンドック小隊。そして新編成されたライン小隊だ。

 ライン小隊は武田を隊長機とした新人が集まった小隊だ。

 遠距離攻撃の技術が重要な作戦となるので、基地内にいるスナイパー全員に競技をしてもらったところ、新人の連中がかなり上位に来たので、今回は特例ながらも参加してもらうことになったのだ。

 ブリーフィングルームに入ると既に全員が待機していた。

 全員の出席を確認し、私は首都の俯瞰図をモニターに表示しながら説明を開始した。

「では、作戦を説明する。今回の作戦は首都ミヤトの警備、及び緊急時における護衛と遊撃だ。何もなく事が進めば、君達は上空5kmで指定されたこの範囲を巡回するだけだ。まずはここまで、何か質問は?」

 一旦ここで切って何事も無かった場合の質問を受け付ける。

 次からが本題なので余計な質問は早々に除去しておきたいのだ。

 数秒待っても手が上がらないので、特に何も無いと判断し、次の説明に移る。

「次に、緊急時の説明に移る。想定される敵は、反ヤポネのテロリスト集団だ。目的は恐らく両首相を捕らえて、様々な経済的もしくは政治的な交渉を有利に進めることだろう。最悪のケースはただ破壊を目的にすることだな。そこで、我々の仕事はテロリストの制圧と首脳の護衛だ。特に戦闘車両やマップスといった兵器に対する対処がメインとなる。敵の目的が前者だった場合は、首脳を失った瞬間にゲームオーバーだ。必ず生かして待避ポイントまで護衛しろ」

そして、市街戦だからこその条件を説明しなくてはならない。

警備打ち合わせで決定した交戦規定だ。

「緊急時には周辺の市民の待避が済むまで戦闘行動が制限される。制限内容は、こちらからの攻撃は敵の真上からの狙撃のみ許可される。ということだ。彼我の射線に建築物があってはならない。およそ、10分程度で市民の避難が完了すると想定されるが、その後も出来る限り、都市に被害を出さないように戦闘して欲しい。また、避難が済んでいない地区での首脳護衛は非常に難しい局面となる。確実に攻撃を防ぎ、確実に攻撃を当てて敵を撃破しろ。交戦規定について何か質問はあるか?」

 犬塚と武田の両小隊長が手を挙げた。先に犬塚を指名し質問を出してもらう。

「敵部隊が空中戦をしかけて来るときはどうなるのでしょうか?」

 警察庁長官と同じ事を聞かれたな。いい質問だ。

「常に敵の上に位置するよう回避と防御を優先しろ。発砲は許さないが、上方からの格闘攻撃は許可する」

 海軍が引きつけてくれているとはいえ、空中戦の可能性はゼロではないのだ。これが、近接攻撃が得意なガンドック小隊を派遣する理由である。

「了解しました」

 説明に納得してもらえたようなので、続いて武田の質問を出してもらった。

「想定される敵の数はどうなっていますか?」

 随分と困る質問だ。正直なところ全く予想がついていない。

「残念ながら分からない。AWACSがついているとは言え、いつ、どこで、どれくらいが、どのように、動かれるか分からない状態だ。よって基本的にサーチ&デストロイとなる。こちらでも注意するが、奇襲をはじめとする罠が張られていると常に心がけておけ」

「了解です」

 今の質疑応答でまた新たに質問が出るか待ってみたが、続けての質問は来なかった。

「次に諸君の役割分担について再確認だ。ホークアイは最高高度で常に情報を収集し、全軍に送り続けてくれ。次にガンドック小隊はガンドック5による狙撃を攻撃の主軸とし、他4機で全体の援護。そして空中戦での近接攻撃を主に担当してもらう。最後にライン小隊はライン1とライン3が狙撃を担当。他3機は浮遊装甲で敵の攻撃を防いでほしい。これについて何か質問は?」

 ……特には無いようだ。皆自分の役割が分かっていてくれて大変ありがたい。

「武装については対マップス用の装備だ。菱田重工の松平技術顧問と整備主任が製作した武器のオプションは各自で判断しろ」

 皆の反応を見ると少しだけ武田が残念そうな顔をしている。市街地でハイブリッドライフルは禁止だ。威力が強過ぎて被害を出しかねない。

「では、解散。各員オーカシス基地へ向かい。ゆっくり休んで明日に備えろ」

 首都まで結構距離があるので、明日の早朝から警備をすることになるとキーナ基地からは間に合わないため、徳川大佐に派遣部隊の受け入れを申請してある。

 次に彼らと直接顔を合わせるのは会議後だ。

「「イエッサー!」」

「よし、行ってこい!」

 私は緊張感に満ちた隊員を見送り、一旦執務室に戻った。


 執務室に戻ると、緊急という留守録が残っていた。

 宮野大将から秘密回線による通信の準備をしろ。と残されている。

 こちらの準備が出来たことを通常回線で知らせると、今回は何故かサナも参加することを伝えられていた。

 宮野大将とは何度か各国の事件について意見交換をしあったが、何か情報解析班の方で掴んだのだろうか?

 通常回線を切るとほぼ同時に、秘密回線による通信がこちらに入って来た。

 一つは宮野大将から、そしてもう一つ情報部からも来ている。これは恐らくサナだ。

「すまんな坂本。今日は楽しいお喋りは無しだ。まずいことになったぞ」

 珍しく焦った声をしている。一体何があったのだろうか?

「まさか既にテロリストが現れたとかですか?」

「それに近い。澄川君説明してやれ」

「坂本大佐。以前お伝えした違和感が判明しました。土砂が積まれていたトラックの音が普段より重かったのです。恐らく何か大きい重い物を運んでいたと推測されます」

 悪いことしか連想出来ない単語が並べられた。

「まさかとは思いますが、その中に何かしらの兵器が隠されていた。ということですか?」

 当たって欲しくない想像ほどよく当たるようだ。宮野大将が重い口振りで肯定した。

「そう我が輩も考えている。先程の澄川君の話を聞いて、急いで郊外に設けてある埋め立て用土砂置き場の確認に向かわせたところ、監視員からある日突然山が小さくなった報告を受けたそうだ。その時はどこかの業者が勝手に持ち出したと思ったそうだが、その後持ち出し報告は来なかったらしい。現在、他の連中にも協力してもらって、潜伏先を探索している最中だが、明日までに見つけられるかは分からん。明日は荒れるぞ」

「すみません。ここ一ヶ月間、違和感のある音が聞けなかったので、てっきり私の勘違いだと思っていたのですが、逆にそれがヒントになってようやく違和感の正体が掴めたのです」

 彼女が感じていた違和感の話を聞いたのは1ヶ月前だ。そうなると、かなり長い間潜伏されていることになってしまう。

 つまり綿密な計画で動かれている可能性があるということだ。

「いや、澄川さんが責任を感じる必要は無い。宮野大将、こうなると例の艦船の事件も関わりがあると思いませんか?」

 予め計画をテロリスト達が立てているということは、彼らの拠点にあった艦船を使って、何かを仕掛けてくる可能性がぐっと上がることになる。

「君が以前話したものか。海岸沿いに配備されている部隊が首都に向かえないようにするためのデコイ。確かに不審物を放っておいて損害を受けてしまう訳にはいかないからな。ある程度の時間稼ぎは出来るだろうが……。む? どうした? 今通信中だ」

 どうやら部屋に誰かが入ってきたらしい。声は落ち着いているので部下のようだが、どうしたのだろうか?

 通信機越しに部下の報告に驚いている宮野大将の声が聞こえる。恐らく何か良くないニュースが舞い込んできている。

「宮野大将どうなされました?」

「どうしたもこうしたも、訳がわからん。行方不明の大型艦船の一部がレトリア連邦で発見されたそうだ」

 東部石油産出国で失われた大型艦船が、軍事大国のレトリア連邦で確認された? 何か特殊な改造でも受けているのか?

「宮野大将、その艦船は何か改造された様子はありますか?」

「わからん。ただ、外観には変化が無いようだな。クソ、資源会議直前で次から次へと面倒ごとが増えるとは」

「お二人とも落ち着いてください。とりあえず今は、存在が明らかなテロリストの対策を考えてみてはいかがでしょうか?」

 サナからの提案で突然の知らせに、飛んでいた思考が一気に引き戻される。

 落ち着いて頭を整理しよう。サナの言っていた違和感とは何だった?

「澄川さん、もう一度確認を取らせてくれ。確か君の感じ取った違和感というのは土砂じゃ無い何かが、土砂として運ばれていた。ということで間違いないか?」

「はい、その通りです」

 よし、となると多分そこは間違いなく何かの兵器を運んでいることになる。

「次にお二方に確認を取りますが、ここ数ヶ月の間はトラックをはじめとする大型車両や重機が多くなかったですか?」

「そうだな。言われてみれば多かった気がする」

「多かったです」

 それは一日行った私も感じ取ったことでもある。そして今二人とも実感があるということはだ。

「となると、一度埋めた兵器を、事業者に紛れ込んで、物資や兵器の運搬をしているとは考えられませんか? ここ最近、首都圏内で開発された大型施設もしくは巨大倉庫や工場というのはありませんか?」

「ふむ、そういうことか」

 どうやら宮野大将に私の考えは伝わったらしい。

「建築業者や運搬業者を装って、搬入を自然に行える先がそのリストで、そこの施設に兵器やテロリストを潜伏させている。こういうことだな?」

「はい、その通りです。確か最近は建築ラッシュ。労働力が安い外国人を違法で雇う企業が現れても不思議では無いかと」

 宮野大将がうなり始めた。恐らくこの考えを吟味しているところだろう。

「なるほど。当てずっぽうよりマシか。他への連絡は我が輩からしておく。艦船の方だが、これは海軍の方に再度警戒するように通達するくらいしか出来ないな。後は任せておけ」

「了解しました」

「情報解析班の方でも何か分かり次第連絡します」

 この通信が切れたらすぐに派遣した2小隊に連絡を入れよう。

 明日は戦闘になる可能性が非常に高くなってしまった。指揮官になって初めての実戦となるかもしれない。

 正直怖い物がある。パイロットとして初めて戦場に向かった時とはまた違う怖さだ。

「では、お互い何かあれば、すぐ連絡を入れて貰うぞ。通信終了だ」

「「了解しました。失礼します」」

 応答で少し声が震えてしまったかもしれない。サナの声と被ったので恐らく宮野大将には聞こえてないだろうが、まさか怖さで声が震えてしまうとは思わなかった。

 サナの通信はそこで切れたのだが、宮野大将の咳払いが聞こえる。

 そして、宮野大将が優しいような厳しいような声で喋り始めた。

「坂本。今のお前はあくまで指揮官だ。パイロットで小隊長じゃないからな? 自分の出来ることは限られてくる。お前は戦闘中の部下達にライフルで援護射撃や、浮遊装甲で防御するといった直接の助けをしてやることは出来ない。ただ、代わりにだ。その頭を使って上手くやれば、部隊全員を死地から生きて返してやることも出来る。お前はこの先、敵を多く撃墜するエースパイロットという英雄にはなれん。どれだけ敵を倒したかよりも、どれだけ部下を生きて帰してやれるかが私達指揮官の能力だ。それを忘れるな」

 ビビッていたのがばれていたようで、発破をかけられてしまった。

 思わぬ励ましに感謝して胸が熱くなるのを感じる。

「肝に銘じておきます」

「うむ、では今度こそ失礼する」

 その言葉の通り、今度こそ通信が両者とも切れた。

 通信が終わり、頭の中で都市部における様々な奇襲方法の想定をしながら、司令塔に向かう。

 派遣した小隊に先ほどのテロリストが潜伏している情報と対策の連絡を入れるためだ。

 頭の中が焦りで混乱しかけたころに、携帯端末に着信が入った。

 表示を確認するとサナからだった。

「どうした? また何か分かったのか?」

「ううん、そうじゃないんだけど、何か不安そうだったから大丈夫かな? って」

 やれやれ、私も自覚があったとは言え、宮野大将も、サナも良く気づくよなぁ……。この二人には隠し事は永遠に出来そうに無い。

「初めての実戦になるからな。正直少し怖い」

「ごめんね。私がもうちょっと早く気付いてれば、こんなギリギリで焦ることは無かったんだけど」

 少ししょんぼりとした声で反省の言葉が告げられた。

 確かに気付くのに時間がかかったが、自分を責めて欲しくない。

 情報というのは戦いにおいて重要な要素だ。

 彼女の情報が無ければ、予想外の攻撃で大変な被害を受ける可能性もあった。

 今ならまだ準備が出来る。

「さっきも言ったがサナのせいじゃない。むしろ良くちゃんと気付いてくれた。少しの時間でも準備が出来るんだ。その時間で宮野大将が言ったように、頭を使って何とかするさ」

 これ以上不安を増やさないように、心配させないように精一杯明るい声で話す。

「ありがとう。やっぱり龍ちゃんは優しいね」

 どうしようか? この非常事態に顔が熱くなっている。

「無理しちゃ駄目だよ? 今夜は早く寝ること。居眠りしながらの指揮は厳禁だからね?」

 まったく……前と違って今の私はそんなにサボってないぞ?

 緊張していた頭が一気にゆるんで、少しスッとした気がする。

「分かってるよ。夜にまたいつも通り電話してくれ。その時にまた今のを頼むよ」

 心の中で続きを呟く。

 ……多分、緊張して眠れないからな。

 そのつぶやきに気付いたかどうかは分からないが、いつものように楽しそうに笑われた。

「あはは、仕方ないなぁ。分かった。ちゃんと連絡するね」

 声には出さないが、おかげで頭が落ち着いた。ありがとう。と感謝をする。

 その後、派遣した部隊に明日は戦闘になると連絡を入れた。

 更に、徳川大佐と毛利大佐、そして警察庁長官に通信を繋げ、お互いの連携の確認もしあい、奇襲に備えての動きを再確認した。

 さすが歴戦の指揮官達だけあって落ち着いて対策を再検討していく。

 基本的には打ち合わせ通りだったが、市内に歩兵を潜伏させ、市内の警備を強化することで同意した。


 その後は、テロリストの捜索の続報を夜まで待ったが、一歩遅かったようで、どうやら各地の大型施設は既にもぬけの殻だったようだ。

 何者かが生活した痕跡はあったのだが、テロリストは発見出来なかったそうだ。

 戦闘が起きずに済めばと祈っていたが、残念ながら、潜伏しているテロリストとは当日に戦闘する事になりそうだ。

 そして、その予想通り、私は第二世代型マップス開発コード:ハガネで編成された部隊の指揮官として、初めて戦うことになる。


 サナから早く寝るように。と短い電話をし終えてベッドで横になりながら考え事をする。

 しかし、分からない。一体どうやってテロリストは潜伏させ部隊を消した?

 何かを見落としているのか。それとも、地下で見つけた生活痕が偽装で、そういった施設から目をそらせるためか……。

 そんな答えの出ない考え事をしながら私は眠りに落ちた。


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