第十章「その男変態につき」
今回は新兵器をちらっと紹介します。
第十章「その男変態につき」
最終訓練から5日後、菱田重工からの移送が全て終わった。おかげでヤポネ基地は地下ガレージと地上ガレージが全て埋まってしまっている。
そんなここ数日間の話になる。
ヤポネ基地は今やちょっとした博物館状態だ。軍事マニアがやってきたら狂喜乱舞しそうなカオス空間になっている。
しかも、移送が終わってから連日に渡り、ジャンクパーツを使ってオヤジさんと松平がノリノリで新しい物を作り始めているので余計かさばっている状態だ。
新しい試作品と搬入された物からいくつか取り上げて、どういう時に使えるか考えるために、ここ数日を反芻してみる。
まず一つ目に近接武器御用達の新オプションパーツである回収用ワイヤーだったのだが、回収以外の使い道をオヤジさんと松平が一緒に考案して、銃剣用の接続部分をワイヤーの射出装置に改造することに成功した。
いくつかの試作品を携えて試験したときは近接を得意とするパイロット達が楽しそうにブレードやダガーを射出しては引き戻して遊んでいた。中にはブーメランのように弧を描きながら飛ばして引き戻す者もいる。射程距離はざっと50m。回収速度は1秒を切るか切らないか。格闘武器の距離では破格で不意打ちにはもってこいだ。
もちろん、近接武器を銃器から外した後も、人間で言えば袖に当たる部分に新しく増設されているワイヤーが収納されている小型の箱、ワイヤーボックスと繋げれば回収機能は維持出来る。
おかげで近接時の戦術の幅が広がった。
楽しそうに近接武器を飛ばしているパイロット達の様子を見て、調子に乗った二人は、もっと銃器に色々つけようと言い出した。
近接武器の距離延長はやったから、次は最高のゼロ距離武器だ! とコンセプトを決めて、アイデアを得るために模擬戦のデータを見返すと、近距離時における銃器の鈍器化について討論を始めた。
その結果、何がどう転んだのかはさっぱり分からないのだが、パイルバンカー型の銃剣の試作を始めたのだ。
何故そうなったと2人に聞いたら「男のロマン」と答えられたのでそれ以上言及はしなかった。
一本目はただ杭を打ち込むだけだったのだが、これではつまらない! と両者が呼応して、ただ単に杭を撃ち込むだけでは無く、炸裂火薬を撃ち込んだところに送り込み、装甲の内側から爆破して敵を破壊する謎の兵器が出来てしまった。
「これぞロマン!」とオヤジさんはご満悦だ。
確かに威力としては素晴らしいのだが、炸裂火薬を仕込んだ特殊杭なので、リロードが必要になり、わざわざ他の銃器の弾丸を削ってまで予備弾薬を大量に所持する必要は無いと判断する者も現れ、基地のパイロット達からは賛否両論だった。
これに対しては改善の余地有りと2人は今日も研究をしている。
逆にみんな困惑したのがハイブリッドライフル開発コード:「ブリューナク」。稲妻のような槍。開発コードの由来はその威力と弾丸の見た目からだそうだ。
以前この基地で試験した化け物ライフルだ。銃の全長はマップスより大きい6m。普段は銃身が3段階に折りたたまれて長さは3mほどだ。何とか肩のハードポイントにつけることが出来るが、大きすぎて照準を安定させるために両手を使わなくてはならない。
展開すると形は歩兵が使っていた対物ライフルのような造形をしている。
折りたたんでいるときは、1段目にグリップがあり手に持つ部分。
2段目に、やたら大きい2mくらいある拳銃のシリンダー(回転式弾倉)のような物が弾倉の上についている部分。
一体何なのかと聞いたら、粒子コンデンサーと答えられた。ちなみにコンデンサーの癖に回転する。その形と様子からリボルバーとその部分は呼ばれているそうだ。
3段目に銃身部分が折りたたまれている。3mとちょっと長い。
一応ライフルの形をしてはいるが規格外だ。
そして、何より驚くのが外付けのジェネレーターが必要なこと。
ちなみにこの外付けジェネレーターが採用される前の試験段階では、チャージ時に他の行動が出来なくなるほどのエネルギーが持って行かれた。
その欠点を払拭するために専用の外付けのジェネレーターを開発したそうだ。
おかげである程度動くことは出来るようになったが、あくまで動けるだけだ。
接地して止まらない限り、浮遊装甲や粒子シールドを展開できるほどの余裕が無い。
どうやら専用ジェネレーターの供給量以上に粒子を必要とし、本体のジェネレーターからも粒子をとるらしい。恐ろしい燃費だ。
燃費の悪さに隠れて見落としてはいけないのが、何と専用の弾丸を使わないといけないこと。通常弾頭だと弾が特殊な処理に耐えられないそうだ。おかげで運用コストもバカみたいに高い。
味方に敵からの防御をしてもらって、長々としたチャージの末にようやく一発の弾丸が発射出来る。これだけ言うとただの欠陥兵器だ。
ただし、威力だけはどんな兵器よりも高いことは試験で試し撃ちをして見ている。
推奨火力で発射した時は試験用の装甲板が何枚も吹き飛ばされて、溶けた。その時は空中に向けて発射したので何も無かったが、水平に撃っていたらどうなっていたか想像もしたくない。事前に説明で注意しろ。と言われたときは疑問に思ったが、撃たれた結果を見て納得した。
マップスにぶつければ、おそらく浮遊装甲を展開していても吹き飛ばされる威力だ。
防ぐ方法は弾丸を浮遊装甲に当てて出来る一瞬の停滞時間に全速で射線から大きく逃げること。
ただし、そんな動きはこの武器の特徴を知らない普通のパイロットには出来ない。
弾丸が光っていて大きく見えることくらいしか、ロングレンジライフルの弾丸と見た目は大きく変わらないのに、その一瞬の輝きで防御を捨てる判断を出来る人間がいるとは思えないのだ。
当たりさえすれば、相手に防がれようが直撃しようが撃墜出来る威力である。
逆に言えば当たらなければ全く意味が無いどころか、非常に不利な状況で戦わなくてはならない。
そんな当たりさえすれば、最強の遠距離武器という非常にロマンあふれた武器になっている。
現存しているのは、このヤポネ基地に運ばれた3丁と首都にある菱田重工の工場で保管している2丁の計5丁だそうだ。サイズが大きすぎて運びきれなかったらしい。
正直言おう。使い所が本当に分からない。旧式兵器にはもちろんマップスに対しても過剰火力だ。
しかも、高速で移動できる機体を正確に直撃させる腕が必要だ。
このライフルが何を目的に採用されるのか松平に聞くと。
「一つは、まだ見ぬ新兵器に対する万が一のための保険だね」
と答えられた。以前言っていた大型兵器用ということか?
まだ実際に見たことがないので想像がしにくい。
ただ、もう一つは耳打ちで小さな声で伝えられた。
「もう一つは敵基地の破壊。何というか、えぐれるよ?」
何か恐ろしい単語を口走った。
いや、確かに施設への攻撃なら動かないから当たりやすいが、表現がおかしい。爆破とかではなく、えぐれる?
「一応あれリミッターかけてあるからね? 本気出したらそれくらいしちゃえるかも。理論上だから実際にやったことは無いんだけどね」
ニコニコしながらとんでもないことを口にしてきた。
リミッターありで今の過剰火力だと? 冗談だろ? いや、松平は兵器に関して不思議な例えをするが、冗談をいう人間では無い。本気だ。
というかこれは攻城兵器だった訳か。ようやく納得が行った。
そして最後にもう一つと付け加えられた。
この自慢げな顔をされたら言うことは大体予想がついてしまう。
「僕の趣味。ロマン武器作ってみたかったんだよね.チャージから射撃までの発射シーケンスって最高に燃えない?」
やっぱりか。松平らしくて非常に分かりやすい理由だ。マップスが人型になった理由を思い出して苦笑いする。ただ、彼の作った物は思わぬところで役に立つことになるかもしれないので、絶対にバカにしない。
攻城兵器以外の役割で、私はこのハイブリッドライフルの使い道に悩んでいたのだが、この基地に所属するパイロット2名が何故か興味を持ってしまった。
ガンドック5の石山と、めでたく新人パイロットとなり、キーナ基地に配属が決まった元クロスボウ1の武田だ。
その破壊力とコンセプトにどうやら二人とも魅せられたらしい。
2人に言わせると、この極限まで一撃にかける感じがたまらないそうだ。
実機による訓練では、専用弾ではなく、練習用のペイント弾による発射までの間隔と弾道の感覚を掴む練習をしている。
シミュレーターでは松平にデータを作って貰って、小隊メンバーを巻き込みながら、発射までの護衛などの特別訓練を始めるくらいはまっている。
シミュレーターに付き合った小隊長の犬塚に、小隊での使い勝手を聞いたら、あそこまで緊張する武器はありません。と答えられた。
私も自分の部隊にあれを使う奴がいると考えると頼もしい反面、すごく恐ろしい。
防御力も回避能力も最低まで下がった味方を守るのは非常に骨が折れるし、何よりも撃墜されてしまうのではないか? というプレッシャーが凄いだろう。
そして何よりもその効果範囲。チャージ方法にもよるが、ちょっと洒落にならない。下手に射線に近づくと巻き込まれる。
ただ、道具というのは使い方次第だ。常に頭の中の選択肢として残しておこう。
自分が使える。という部下が二人もいるのだ。ならそれを活用する方法を考えるのが私の仕事でもある。
ちなみに、このスナイパー二人が松平に感謝した言葉は何だったと思う?
使うと言った二人にはこのハイブリッドライフルの最後の開発理由は伝えてある。
人によっては悪口だが、ある意味最大のほめ言葉。
「「ありがとう変態!」」
その時の松平は少し泣きそうな顔で笑っていた。
「まいったなぁ……褒められてるのかなこれ? どういたしまして?」
その声は少し嬉しそうだった。