断章「死の商人」
断章「死の商人」
某国某月某日某時刻。
地下アジトに潜伏している武装した数人の男達の下に、身なりの良いセールスマンがやってきた。
潜伏しているアジトが謎の男にかぎつけられているのだ。男達はそれぞれ武器を手に取り、常に相手の動きを止められるよう警戒をする。
そんな中でセールスマンは後ろから自動小銃をつきつけられてはいるが、余裕の笑みを浮かべている。
男達のリーダーであるヒゲをたくわえた中年の男がセールスマンの額に拳銃をつきつけ、殺気を含んだ声で何の用かと問う。
セールスマンはニッコリと笑いながらカバンの中から書類を手渡した。
「商売に参りました。これを買いませんか? あなた達にとっては必要不可欠な物でございましょう?」
書類を手に取った男性は驚きのあまり書類を手から落としてしまった。
罠かどうかを確認するために、声に殺気を込め続ける。
「貴様正気か? 目的はなんだ?」
「もちろん大真面目でございます。目的はあなた方と同じで、国のためでございます」
一点の動揺もない落ち着いた返事だった。
「対価に何を要求する? 金は無いぞ」
「書類の続きをご覧ください」
地面に落ちた書類を部下が拾い上げて手渡そうとするが、リーダーの男と同じように文面を見て、驚きのあまり固まってしまった。
リーダーの男はその手から書類をとり、続きを読んでいく。
「こんなのが対価で良いのか? ある程度は既に予定していたことなのだが」
セールスマンの男は両手を挙げて大げさに驚いた振りをした。
「おぉ、それはありがたい。では交渉成立ということでよろしいですかな?」
「大丈夫だ。もう一つの条件も我々のスポンサーがどうにかしてくれる」
セールスマンの方が笑顔で握手を求めた。
2人の男が握手をして、交渉が成立する。
セールスマンは交渉が終わり、帰り支度を始めた。
男達に前と後ろから挟まれながら地下アジトの出口に向かう。
そして、出口の扉を開ける瞬間に身体の向きを変えて、男達に非常に楽しそうな声で贈り物があることを伝えた。
「今日はお近づきのしるしに手土産をご用意いたしました。どうかお使いください」
扉を開けると目の前に装甲車が5台用意されていた。
旧世代兵器とは言え、自動小銃と一般車両の組み合わせより遥かに良い。
唖然とする男達に品の良い一礼をしてセールスマンの男は去っていった。
装甲車に歓喜し騒いだため、セールスマンが小型のマイクを使って呟いた言葉を男達は知る由もない。
「本部へ作戦完了。これより帰投する」