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2-2 勇者ルート


 わたしはトリップをしてしまった。シュチュエ―ションは『勇者』。

 危険の代名詞、面倒事の同義。そもそも一女子高生になんて無茶ぶり、日本最難関の大学に合格しろと言われた方がまだ現実味があるし頑張れる。

 しかし、出来ない無理だと嘆く事の無意味さをわたしは重々承知している。

 そしてあがこうにも、わたしは自分が『勇者』以外の選択肢を得ることが絶望的だというある種の『ルール』を、知ってしまっている。

 それは、トリップ形態は多々あれど女子高生の勇者ルートほど強制力のあるシナリオも他に類を見ないと、あのお姉ちゃんが言いきったからだ。







 『勇者』ルートに乗ってしまった人間の行動ひいては運命は、年齢・性別によってパターン化されている。(お姉ちゃんの無駄知識より)


 まず、男性で学生の場合。

 いらっしゃいませ、勇者様。ご主人様とは遠くて近い。男の子は戦隊モノとかヒーローショーが好きだから、本能的なものでなんだかんだと勇者になり、例外は存在しないといってもいいそうだ。

 次に、男性で社会人以上の場合。これまたおめでとうキミは今日からこの世界を救うヒーローだ。嫌よ嫌よも好きのうち、クールぶっても傍観者ぶってもなかなかなりきれないだから男はいつまでたっても子供なんだまぁそこが可愛いんだけどねと舌舐めずりでもしそうな表情でまくしたてたお姉ちゃんのことは記憶の底に封印しておこう。今は関係ない。叶うのなら、一生関係を結びたくない。

 で、スーツがリアル戦闘服になって最強の装備認定される日が来るかもしれないとか何とかかんとか・・・。ちなみにお姉ちゃんの好きな男性の服装ベスト3は白衣・スーツ・作業着つなぎだ。コレが社会人バージョンで、未成年版と年配版もちゃんとあるらしいけどわたしは女子高生の純潔にかけて残りの六つには断固として耳をふさぐつもりでいる。知ったら何かが終わりそうだ。

 とまあ、男の場合は特に違いはない。基本的に嬉々として勇者になってしまう。嬉々として。

 年齢の違いによるシナリオの差異を強いてあげるなら、アダルト度?とルートとは関係ないけどメインの要素を細かく、真剣に語りだしたお姉ちゃんとそれを聞く未成年なわたし。これ、強制わいせつとかならないかな。

 問題は、女性の場合。真剣に思い出さなくてはいけない。なんせ、自分の身にかかることだ。

 女性で社会人の場合というのは、男性の場合と話が変わるんだ、たしか。それはおそらく女性の方が男性よりもトリップ願望が強いため、やりたい事もなりたい自分も際限なく妄想できるからだろうと整然と語ったお姉ちゃんを、内容が内容で尊敬も出来ない。

 問題の社会人女性のトリップは、最も現実的な道をたどる。


 勇者?―――無理。他当って。

 世界を救う?―――こっちの年齢考えて。

 役立たずは消す?―――好きにして。でも、タダでは消されてあげないヨ。



 開き直りというか、したたかというか、女性は強い。

 お姉ちゃん曰く。


 『一回社会に出ておくと人間どこでも生きていけるってことがわかるから、見知らぬ場所で放り出されてもなんとかやっていっちゃうから平気なんだよ可愛くないよねーだから最近干物女とかが流行るんだよ。変に現実知っちゃってるから、ゆめに夢を見れないなんて本末転倒だよねー。いっぺんでいいから男に泣いてすがってみたい『捨てないで』とか『行かないで』とかうわ自分で言ってて気持ち悪い』


 うげっ、と顔を顰めたお姉ちゃんを見て、わたしはひもの女にはなりたくない、なるまいと心に誓った。可愛い奥さんになりたいな。

 

 さて、女で学生―――つまり、わたしの場合。結論から言おう。

 わたしは、勇者になる。しかない。

 それが世界の法則、とやや大げさに表現されたことを覚えている。

 女子高生は勇者だろうが女神だろうが聖女だろうが、トリップ先で与えられた役目から違える事は出来ない。出来ないのには理由があって、そもそも、あらがう、という事をしないうちにあれよあれよと状況が出来あがってしまって、逃げられなくなてしまうのだそうな。そうすると不思議なもので、世界は彼女の味方、行動も言動も全てが良い方に転がり、立派な救世主へと成長をするという・・・



 「冗談きついよ、お姉ちゃん・・・」



 心の底から、このアメリカンなジョークをHAHAHAと笑い飛ばして欲しい。お姉ちゃんはモノマネもうまかったから、陽気なアメリカンの真似とか朝飯前のはずだ。・・・本当に、あの人の特技は美人にあるまじきモノが多い。


 わたしはくたりとテーブルに突っ伏した。ひんやりと冷たい感触が額にあたる。現状把握にいつもより多く使った頭が少しだけ冷えた気がした。

 でもそれは『気がした』だけで、少しの余暇もなく、再び巡り始める思考。

 わたしはどうにかして、勇者にならずに速やかにこの悪夢から目覚めたい。その『どうにか』を考えつくにはわたしの頭の仕様が適したものではなく、やはりお姉ちゃんの妄想からヒントを得るしかないのだ。



 「勇者・・・勇者、回避する方法・・・・」



 ヒントはある。『社会人の女性』パターンを参考にすればいいのだ。何を言われても拒否・拒絶・却下。

 断固とした態度で何もしない!とふんぞり返る・・・あ、何だろうお姉ちゃんの幻覚が。そうそう、あんな風にふてぶてしく・・・・・・・・・・・出来たら、こんなに悩んでない。

 女子高生にアラサ―の精神力は無理だよ、お姉ちゃん。

 死ぬの怖いもん。普通に怖いもん。

 それに、ここの人達ってなんか・・・わたしのこと、見下してる?カンジが、するんだよ、ねー。特に笑顔仮面王子とか。わたしの意見なんてはなっから聞く気もない、みたいな。

 

 ・・・・・・あれ?



「これってもしかして・・・」



 ふと頭に浮かんだ考えは、ルートの初期設定の一つ。『勇者』とは違う話、ルートに関係なく起こりうる、おまけ設定。

 お姉ちゃんがこの世に存在しなかったらきっとわたしが一生耳にする事のなかった単語。



 「『嫌われ』って、やつ?」



 ――――――コンコン。


 

 呟いた言葉にノック音が重なり、わたしは唯一の逃げ場から現実に引きずり出された。


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