↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

メアリーの恋3

作者: WAIai
掲載日:2026/09/25

夜の濃さが深まる時刻、ダニエルはクラブの個室で、ウィスキーを嗜めていた。

急いで飲むのではなく、ゆっくりと舌で味を噛みしめるように、コップに口をつけていく。

顔は赤くなってはおらず、ダニエルは酒に強かった。

「ー失礼いたします」

ドアがノックされ、ダニエルはそちらへ目を向ける。

コップをテーブルに置くと、しっかりした声で答える。

「ーどうぞ」

「はい」

静かにドアが開き、1人は頭を下げ、もう1人は堂々とした姿である、

後者のほうが帽子を脱ぐと、ボールハンガーにかける。

「ー俺にもウィスキー」

「畏まりました」

丁寧に言うと、ドアが閉まる。

その途端、静かだった場が熱気を放つ。

客人の顔は強張っており、ダニエルを睨んでくる。

ダニエルは心当たりがあるので、何でもないように平然を装う。

「ーダニエル」

「…何だい、ケント?」

一方は緊張し、一方は荒れる空気を和らげるような声音となる。

客人ーケントは靴の音を立てると、ダニエルの向かい側に座る。

どちらも目を逸らさず、真剣な雰囲気が漂う。

「ー用件は分かっているな?」

「言わなくても分かるよ」

ダニエルは肩を竦めると、ドアがノックされ、ケントのウィスキーが届く。

ケントはそれを一気にあおると、ダニエルに問い詰める。

「どうして邸に、メアリーに会いに来ない?」

「うん? まあ、色々とね」

はぐらさそうとダニエルは、乾杯の意味を込めて、コップを差し出したのだが、ケントは拒否し、コップをテーブルの上に置く。

ケントが怒るのは珍しいことだった。

ー可愛い妹のためだものな。

ダニエルはほうと息を吐くと、正直な気持ちを口にする。

「ー押して駄目なら、引いてみろ」

「は? 何だって、ダニエル?」

「恋の駆け引きさ。僕だけ熱心に好意を伝えても、メアリーは戸惑うばかりのようだから。少し距離を置こうと思って」

「あのな…。メアリーは恋愛の初心者なんだぞ?」

「分かっているよ。だから大事に、大事にしないと」

「何が大事に、だ。毎日、塞ぎ込んで、こちろは見ていられない」

「毎日? …それは大きな効果があったかな」

ダニエルはコップを揺らすと、独りごちる。

「…少しは大人になったっていうことかな?」

「何だって?」

「何でもない。それよりおかわりは?」

「いらない。それよりもお前に用がある」

「何だい? 僕に用って?」

「ーこれだ」

ケントはポケットから、1通の封筒を差し出してくる。

テーブルに滑らせてきたので、ダニエルは受け取ると、メアリーからのようだった。

「よく読め。メアリーが混乱しながらも一生懸命、書いたようだから」

ダニエルは真面目な面持ちとなると、封筒をひっくり返す。

「僕が読んでもいいのかな?」

「お前宛てだ。当然だろう」

ケントはずっと怒ったままで、テーブルに指を乗せ、こつこつと叩く。

早くという催促のようだった。

封筒は赤い蝋で閉められており、ダニエルはクラブの従業員を呼ぶ。

「ペーパーナイフを」

「はい。畏まりました」

何も聞かず、静かに去っていく。

よくできた従業員をだと思いつつ、ドアを見ていると、すぐに従業員が戻ってくる。

「ーどうぞ」

「ありがとう。下がっていい」

ぺこりと頭を下げると、ダニエルはゆっくりとペーパーナイフを操る。

ケントは始終、苛々しているようで、指の音が大きくなっていく。

ー僕だって、ちゃんと考えている。

ダニエルは口に出さず、手紙を取り出すと、中を覗く。

そこには乱れた文字が書かれており、メアリーが緊張と不安の中、書いたのが伝わってくる。

しかし読めないことはなく、ダニエルは黙って手紙の内容を読んでいく。

それから顔を上げると、困ったような、嬉しいような表情となる。

「少し思い出したみたいだね」

「ああ。一瞬だけのようだが、それでも強烈だったらしい」

「強烈…。確かに」

ダニエルは、メアリーの代わりに、手紙を優しく撫でると、愛おしいそうに見つめる。

「メアリーは?」

「体調が良くなくて、寝ている。メイドのジュリーがついているから、取り乱すことはないけれど、食欲もあまりない」

「それはまずいね」

「当たり前だろう!! いいから会いに来い!!」

ケントはついに真っ向から怒りをぶつけると、立ち上がった。

それから身を乗り出し、ダニエルに顔を近づける。

アルコールの香りがほのかにしたが、ダニエルも負けずに見つめ返す。

「メアリーで遊んでいるんじゃないよな?」

「そう見えるかい? 僕がメアリーで遊んでいるって?」

2人は黙り込むと、睨み合いを続ける。

先に逸らしたのはケントで、ダニエルのコップを奪い、ウィスキーを空にしてしまう。

「くそ…!! いい加減にしろよ、お前!!」

「メアリーにはいい薬になっただろう? 好きばかりでは、どうしようもないことがあるんだよ。両方の気持ちを同じしないと。脆い関係なんていらない。強固なものが欲しいんだよ」

「ダニエル、本当か?」

「僕が嘘をつくと思う? この場で、君に睨まれているのに?」

ちっ、とケントは舌打ちすると、椅子に座り直す。

「ウィスキーは?」

「もういい。それより、どういうつもりだ? 手紙でも書くのか?」

半分、ケントは皮肉を込めたらしいが、ダニエルは無視し、堂々と言う。

「もちろん会いに行くに決まっている。そこまでダメージが酷いということは、僕を欲しているということだ。だったら、僕も応えないと。メアリーは僕の命だがら」

「全く…。何でこんな複雑な性格になったんだ?」

「前からだよ。ケントが知らないだけ」

ふふとダニエルは笑うと、手紙を慎重にしまう。

「これをメアリーだと思って、大事にするよ。邸には…そうだな、そんなに待たずに行っても…?」

「大賛成だ。早く来い。ジュリーが引っ叩くかもしれないけどな」

「うわ、怖いの。…まあ、それだけのことをしているからな」

腕を組むと、ケントが脚を蹴ってくる。

「俺の大事な妹は、お前しかやらないって、幼い頃から、ずっと言っているだろう?」

「うん、覚えている。でも急に思い出させるわけにはいかないから、またゆっくり、ゆっくりかな」

「何だ、それ」

「少し思い出すだけで。パニックになっているんだ。メアリーの心身を優先させたいと。…もちろん、僕で満たしてあげるつもりだけれどね」

後半は聞こえなかったのか、ケントが眉根を寄せてくくる。

「とりあえず、近日中には会いに行くよ。メアリーには、良くも悪くも、刺激になったみたいだし」 

「とーっても、悪い。メアリーがおかしくなったら、お前のせいだからな、ダニエル?」

「もちろん。ちゃんと責任は取るよ」

はっきりと言葉を発すると、ダニエルの顔つきが豹変する。

ダニエルは普段、余裕のある大人を演じているが、ここぞという時は恐ろしい存在だった。

それはケントも知っており、ごくりと喉を鳴らす。

「分かっていればいい、分かっていれば」

そう言うと、ケントは両頬を膨らませる。

「ー全く。メアリーを嫁にするなら、もっと大事にしてやればいいものを」

「大事にしているさ、もちろん。でもたまには、恋愛をしたいからね。僕だけじゃなく、メアリーも自分の気持ちに気づいてくれないと」

「はいはい。…とりあえず、用件はそれだけだから」

ケントが帰る素振りを見せたので、ダニエルは軽く聞く。

「クラブの皆と情報交換は? あとゲームとか」

「やっている場合じゃないだろう!! この馬鹿!!」

「…僕が馬鹿なのか。はは」

声を立てて笑うと、ケントが帽子をかぶり、足音を荒くして出ていく。

1人残されたダニエルは封筒を抱きしめると、小さく呟く。

「…すぐに会いに行くよ、すぐにね。僕のメアリー」

本当に心から愛おしいそうに発すると、ダニエルはコップを口にし、氷の感触を楽しむ。

「ーあの、ウィスキーをもう一杯」

追加して注文すると、ダニエルは1人、嬉しそうな、淋しそうな表情で、テーブルに肘をつき、拳を頬に当てたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。