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シマリスの恩返しとオオカミの不器用な独占愛  作者: 依羽


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3.シマリスの接近

「また来てしまった……」


 正直、まだ心臓は不調だが……日課を欠かしてしまうこともまた、落ち着かない原因になることに気づいてしまったのだ。

 もう三日も観察ができていない。土日を挟んだので仕方ないことではあるのだが、何故よりにもよって金曜日という週の終わりの昼休みを教室で過ごしてしまったのか。

 お陰で土日は悶々として何もやる気にならず、大切に取っておこうと思っていたクッキーを食べてしまった。ギリギリの理性で一日一枚だけで我慢したものの、残りはもう一枚しか残っていない。何故あのクッキーは一袋に四枚しか入っていないのか。

 

 そんな、よくわからない自問を繰り返しながら迎えた月曜日。正直そわそわしすぎて午前中の授業のことはあまり覚えていない。……帰ったらしっかりと復習しないとだな。


「今日は……ハンバーガーか。あそこの店は安いのに量が多くて美味しいんだよな」


 学校の駅前に店舗があり、トッピングが充実していることもあって学生に人気のチェーン店。砕いたどんぐりをトッピングしたハンバーガーが俺のお気に入りだ。

 

「俺も食べるか」

 

 見ていたら腹が空いてきたので、俺も食べ始めることにする。獣化した姿でも食べられるよう、小さく作ってきたお手製サンドイッチをモグモグしながら観察していると、食事を終えた狼谷が座ったまま目をつむっていた。


「寝たのか……?」


 ごくんと口の中のものを飲み込み、双眼鏡を使い前のめりで凝視する。そして、少しずつ。ゆっくりと近づき、窓枠のところまで来てしまった。


カラッ


「開いてる……」


 窓が開いていた。思わず中に入り込み、そーっと狼谷に忍び寄る。足元まで近づいても、狼谷の目は開かない。


「こんなに近くで顔を見たのは、あの日以来だな」


 初めて、『オオカミ獣人』ではなく『狼谷』として認識した日。

――お前、気をつけろよ。ちっさいのもいるんだからな、ちゃんと下にも目を向けろ。

 熊獣人に潰されそうになっていた俺を、その身体で庇ってくれた“あの日”。


「お礼を言う間もなく、いなくなってしまったんだよな」

 

 だから、お礼が言いたくて。気づけば、目で追うようになって。ひっそりと観察を続けてしまっていた。


「面と向かって話しかけることもできないのに」

 

 起きてしまう前に、去らなければならない。

 頭ではわかっているのに、つい。その、無防備に置かれている手に触れたくなって。 恐る恐るそれに手を伸ばし、チョンッと触れた。

 

「ん……」


 その時、狼谷が身じろぎ、閉じられていた瞼が開いて琥珀色の瞳が“俺”を捉えた。

 その瞳と目が合った瞬間、我に返ると共にピャッと飛び跳ね、一目散に走り出し、窓の外に出る。

――気づかれた……っ!?

 木を駆け下り、校舎の中へと急いだ。追いかけられているわけでもないのに、後ろを振り返ることもできず、ただがむしゃらに。 

 

 いつも、脱いだ制服を置いている階段下に辿り着き、ようやくひと息つく。驚きと激しい運動によりバクバクしている心臓を手のひらで抑えながら、ゆっくり呼吸を整えた。


「はぁ、はぁ……ビックリした」


 少し軽率に近づきすぎてしまった。目が合ったと思うが、寝起きだったしきっと大丈夫だろう。

 

「気を抜かないようにしなければ。距離感は大事だな」


 狼谷観察をする上での最重要注意事項をノートに大きな文字で書き込んだ。

――だが、そうやって意気込んだことも無駄に終わる。

 翌日から、あの空き教室に狼谷が来ることがなくなってしまったのだ。

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