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シマリスの恩返しとオオカミの不器用な独占愛  作者: 依羽


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2/7

1.シマリスのお礼

「僕らみたいな被食対象になりやすい種族が安心して高校生活を送れるのってほんとありがたいよねぇ」


 朝、自分の席に座っていると「おはよ〜……」と元気なさげに登校して来た、前の席の兎田がこちらを振り向き、唐突に話し始めた。

 

「どうしたんだ、急に」

「いや、さっきさ、3組の豹堂君にぶつかっちゃったんだよね。もう普通に命終わる覚悟したんだけど、『大丈夫か?』って心配してくれた上に謝ってくれてさ」

「いい奴だな」

「そうなの! 見た目も周りの人達も派手だからさ、勝手に苦手意識持ってたんだけど。直接話してみないとわかんないことってあるな〜って改めて思ったよ」

「ああ、そうだな」


 本当にその通りだ。肉食獣人は草食獣人よりもガタイがデカいことが多く、どうしても獰猛なイメージが強い。そのため、本能的に苦手だと感じてしまうことが多いのだ。

 だが――彼もまた、見た目だけの印象や噂とは違うのだと、俺はもう確信している。伊達に一ヶ月以上観察を続けていないのだ。人となりはだいぶわかってきた。あとは、どうにかして話しかけることができればいいんだが……。



 

「何だこれ」


 今日もいつもの定位置で狼谷を観察する。ただ、いつもと違うこともある。ようやく狼谷にお礼ができたのだ。――まぁ、お礼ができた、というかお礼を置いてきた、だけなのだが。


「野菜ジュースだよ。ぜひ飲んでくれ」


 狼谷の反応が見たくて、こっそりと開けてきた窓から聞こえた声に、会話をするように言葉を返す。もちろん狼谷に聞こえないように、小さな声で。


「誰かの忘れ物か……? 俺以外にもここ使ってる奴がいるのか」

「な!? 違うぞ! それは君への差し入れだっ」

「ん? 何か声が……」


 予想外の反応に、つい声が大きくなってしまった。声に反応して窓の外を見る狼谷から隠れるように、葉っぱの後ろに移動する。


「気のせいか」


 何とかバレずに済んだようだが、狼谷は野菜ジュースを手に取ることもなく、いつも通り弁当を食べ始めてしまった。


「誰のものかわからないものには手をつけない、と……」


 飲んでもらえなかったのは残念だったが、またひとつ、狼谷のことを知れたぞ。

 


 *

「まだ取りに来てないのか」


 翌日の昼休み、もう一度昨日と同じ野菜ジュースを置いてきた。もちろん、今日また買い直したばかりの、冷えているものだ。昨日の分は俺が美味しくいただいた。


「あ? 何だこれ、手紙……? 『狼谷君へ 以前助けてもらったお礼です』って……誰だよ。何だ、お礼って」


 そう、昨日のことを踏まえて今日は置手紙も添えたのだ。これで自分宛だということがわかるだろう。


「購買で助けてくれたお礼だ。君は、覚えていないかもしれないが」


 小さな声で、ポソッと呟く。きっと覚えていないだろう、あんな些細なこと。でも、嬉しかったんだ。あの優しさが。


「これは……どんぐりか? ふっ そんな絵より名前書いてくれよ」

 

 俺だって名前が書けるものなら書いていたさ。でもそれはちょっとハードルが高すぎるだろう。それに、いつもしかめっ面の狼谷が、どんぐりの絵で笑ってくれたから。


「どんぐりで良かったじゃないか」


 嬉しくて、ついに一人でニヤニヤしてしまう。


「あ、美味いなこれ」


 飲んでくれた。狼谷が、俺が差し入れした野菜ジュースを。

 叫びだしたいほどの喜びに駆られ、慌てて木を下りた。本当は飲み終わるまで見届けたかったが、このままだと本当に叫んでしまいそうだ。

 ……だから、気付かなかったんだ。慌てていたため、葉を揺らしてしまっていたことに。そして、それを狼谷に見られていたことに――

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