0.プロローグ
午前の授業が終わり、学生たちが思い思いに過ごす昼休み。校舎中に溢れる喧騒が遠くに聞こえる、校舎の端にある空き教室。普段は誰も寄りつかないその場所で、ひとり弁当を食べている学生がいた。
窓の外では、青々と葉を茂らせた木の枝の上にある小さな影が、その学生をじぃっと観察している。
「今日もコンビニ弁当……焼肉弁当か。肉食なのはわかるが毎日あれだと少し栄養が偏らないか?」
小さな身体に合った、小さな双眼鏡でチェックするのは、空き教室の彼――オオカミ獣人の男子学生、狼谷朔が食べる昼食の内容。
これは、ここ一ヶ月ほど続く、好奇心旺盛なシマリス獣人――栗栖律の昼休みの日課なのだ。
「コンビニよりも購買にある弁当の方が……でもあの日以来、購買に行っている姿は見ていないしな。コンビニ弁当が好きなんだろうか」
購買競争に出遅れ、後ろの方で埋もれていた律をさり気なく助けてくれた“あの日”。それまで聞いていた噂とはイメージの違うその姿に、律の興味が一気に奪われてしまった。
「手作り弁当……は気持ち悪いな。何かお礼がしたいんだが……」
そう。この行動は、純粋に「お礼がしたい」という思いから始まったものだった。だが、なかなか実現に至らず、朔のことをメモしたノートだけが増えていっている。
「野菜ジュースならいいか……?」
好奇心は旺盛。だが、慎重かつ臆病な性格のため、話し掛けることもできないまま――ひと月もの時間を費やした観察で、今日もまた時間だけが過ぎていった。




