トリュフチョコ
チョコは貰えなくても、バレンタインは素敵な日にできる。チョコなんかよりもっと大事なことに気づく少年のお話です。
「なぁ、バレンタインってさ、何であんの?」
学校からの帰り道、幼馴染の雄二が少し不貞腐れながらぼやいた。
俺は少しため息をつきながら、
「チョコ売ってる会社の戦略のためー。」
と答えた。それも凄い棒読みで。
「なら俺はチョコ会社恨むことにするわ。」
雄二はさらにムスッとした顔になってそう答えた。
「別にチョコ一個ももらえなかっただけで会社まで恨まなくてもいいだろー。器が小さいな。」
俺がそういうと、
「じゃあお前は貰えたのかよ?おぉ?」
とチンピラのなり損ないみたいな言い方で詰めてきたから、俺は素直に「ゼロ」と答えた。
「やーっぱり!お前も貰えてねぇじゃん!ちったぁ悔しがれよ!強がんなくったっていいんだぜぇ?!」
チョコゼロ友達を見つけて相当嬉しかったのか、雄二はとても意地悪そうな顔でニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。
悔しかったわけでは無いが、とりあえず不服ではあるのでこう言い返してみた。
「別に、甘いもん特別好きな訳じゃ無いから…貰ってもそこまで嬉しく無いし。」
「ほらっ!強がりっ!やっぱお前そういうとこだよ。だからモテないんだ!」
「お前人のこと言えねぇだろ。」
「うっさいやい。」
そんなくだらない話をしながら俺たちはそれぞれの帰路についた。
「ただいまー。」
家に帰ってそう声を上げると、飼い犬のナッツがこちらにかけて来た。
俺に飛びついてくるナッツを少し撫でてから俺は自分の部屋に行って荷物を置いた。
ベッドに横たわって少し体の力を抜いてスマホを眺めた。
動画を見ていると、結構な頻度でバレンタイン関連の動画が流れてくる。
その大半はバレンタインを祝うとか喜ぶとか、そんな内容では無くて、自らが非リアであることを自虐してたり、そのことについて共感を求めるような内容だった。
時には「貰ったチョコの数をコメント欄に書いて教えてね!」みたいなコメ稼ぎの動画もあったりする。
結構みんなバレンタインっていうイベントに浮かされているんだな、とか考えていると、ふと帰り際に雄二の放った疑問が頭をよぎった。
そう言えば、バレンタインって何のためにあるんだろ?
そう疑問に思って調べてみると、どうやら聖バレンタインと言う人の処刑日らしい。
…あれ、案外血塗られてない?
三世紀ごろ、聖バレンタインはローマ教皇の出した結婚禁止令に背き、恋する若者たちを密かに結婚させていたらしい。
そんな背景から14世紀から恋人の日として広く楽しまれるようになったとか。
確かにこんな背景があったらそうなるか。
そう思って俺は妙に納得しながら、スマホを置いた。
そして、少しため息をつくと同時に何か寂しいものが込み上げて来た。
「恋人の日、ね。」
俺は気づけばそう呟いた。
世間が恋人の日だなんて浮き足立っている時に、俺は今家に一人と1匹だけ。
父は単身赴任、母は仕事で早くに家を出て、遅くまで帰ってこない。
もう慣れっこだし、なんなら一人の時間だって結構好きだ。
でも、いざ世間の「普通」を考えると、自然としんみりしてしまう。
「チョコなんていらないから、誰か一緒にいて欲しいな。」
そう小さな声でつぶやき、少し俯いてから、俺はほっぺたを軽くペシっと叩いて気持ちを整えた。少し湿った目の周りを拭ってから、夕飯の支度をするべくキッチンに向かおうとした時、突然インターホンが鳴った。
時刻は夜の7時。
こんな時間に誰だ?と思いながらはーいと少し大きめの声で叫びながら玄関に向かってドアを開けた。
どうせセールスかなんかだろ、そう思っていたけど、ドアの前に立ってたのは、雄二だった。
「よっ、ハッピーバレンタイン。」
さっきまでチョコの会社恨むとか言ってた奴が何言ってんだ、と思いながらも、俺は頭に浮かぶ疑問を言葉にして発露した。
「こんな時間に何しに来たんだよ?」
すると雄二は、こう答えたのだった。
「いやー、実はお前裏でチョコもらえなくてしょぼくれてんだろうなーと思って!最近遊べてないし、来た。」
へへへ、と子供っぽく笑う雄二を見て俺は思わず微笑んだ。
「ははっ、何だよそれ。別にしょぼくれてねぇっての。」
いつもそうだ。
俺の冷え固まった心を、コイツはいつも内から柔らかくしてくれる。
「明日休みだし、今日は思う存分遊ぼうぜ!」
こうやって近くに笑顔の人がいるだけで、人の心は結構明るくなる。
その笑顔に負けじと俺も笑顔で応える。
「うん、ありがとう。」
その言葉に雄二は「おう」と答えると、コンビニの袋を差し出してきた。
「何と優しい優しい雄二さん!チョコをもらえずしょぼくれていた晴人君に友チョコ買ってきてあげましたー!」
袋を受け取って中身を見ると、中にはコンビニのビタートリュフチョコが一袋入っていた。
らしくもなく妙に小洒落た物を買ってきたな、と考えたら少し可笑しくて、変ににやけてしまった。
「だから別にしょぼくれてねぇって。」
その言葉を雄二も変に頬を膨らませた。
「お前良い加減強がるのやめろよなー。もっとこう、感謝とかあるだろ!」
「はいはい、ビター買ってきてくれたのは褒めて使わす。」
「もっと言い方あるだろー!」
普段はカチカチの板チョコでも良いけど、たまにはトリュフチョコも悪くない。
初めての掌編小説です。
少しでも皆さんの記憶に残る作品になれば嬉しいです。
読んでくださりありがとうございました。




